空から見るニッポン。ただいま、島根県石見畳ヶ浦の上空です!
島根県西部の浜田市にある石見畳ヶ浦(いわみたたみがうら)は国の天然記念物。日本海に突出した標高約50mの丘陵の先端に広がる。1600万年前の海の浅瀬が隆起した広大で平らな磯で、波の浸食によってでてきた腰かけ状の丸い奇岩や、無数の貝の化石やクジラの化石などを見ることができる。縦横に規則正しく走る亀裂によって、畳を敷き詰めたように見えることから「千畳敷」または「床ノ浦(とこのうら)」とも呼ばれる。
砂浜と町の生活に隣接する、断崖絶壁のダイナミック絶景
島根県の松江から西へ約100㎞。浜田市の海岸線からモーターパラグライダーで離陸して、空撮を行った。
しばらく海水浴場の上空を進み、砂浜が途切れるとその先は荒々しい岩礁となっていた。赤鼻展望台のある岬の周辺は断崖絶壁となっており、海蝕によって岩に穴が開いて洞門となっている場所もある。奇妙な形を描く岩場が続いておもしろい。
その先にある石見畳ヶ浦は、このあたりで有名な観光地だ。低空飛行で近づいてみると、波に洗われる広大な黒い岩場はなかなか迫力があった。波で削られて棚状になっているところでは、ノジュールと呼ばれる丸い石の団塊が無数に並ぶ様子が印象的だった。
畳ヶ浦からさらに南西方面に飛んでいくと、海蝕が進んでぎざぎざになった断崖絶壁が並ぶ。以前、空撮をしたことのある隠岐(おき)諸島の国賀(くにが)海岸を思わせる景観だ。
隠岐と違うのは、すぐ隣に大きな町があることだ。そこに住む人々にとってこの景色は、散歩するくらいの距離だ。実際に住んでいるとそのありがたさに気づきにくいのかもしれないが、こんな近くに秘境のような絶景があるなんて羨ましい。そう思いながら空撮を続けた。
離陸場所に戻る前に石見大崎鼻灯台のほうにも寄って帰ったのだが、ちょうど太陽が落ちてきて夕日になるタイミングだった。そちらも絶景で、贅沢なフライトとなった。
取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2025年3月号より
山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。