【静岡市美術館「西洋絵画の400年」展見どころ】涼しい美術館で西洋絵画の歴史を学ぶ!モネ、ルノワール、シャガール…。画家は何を見て、何を描いてきたか
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡市美術館『西洋絵画の400年』展」。先生役は静岡新聞論説委員の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年8月7日放送)
(山田)今日は美術展のお話ですね。
(橋爪)内容について話をする前に、そもそも夏は美術館・博物館の季節だと力説しておきたいですね。
(山田)美術館の中、涼しいですからね。
(橋爪)7月28日付の静岡新聞折り込み子ども向け新聞「YOMOっと静岡」の特集を見てください。1面になんて書いてありますか?
(山田)「暑い日には美術館へ 」ですか。
(橋爪)そう。美術館は作品にとって適切な環境を保つ必要があります。それはニアリーイコール、人間にとっても快適な温度・湿度ということですよね。
特集では静岡市美術館、浜松市秋野不矩美術館、静岡県立美術館の学芸員に取材して、それぞれの夏の展覧会から「印象派って何」「日本画って何」「ブロンズ彫刻って何」をお子さん向けに解説しています。
(山田)聞かれると、意外と知らないですもんね。大人が読んでもいいかもしれない。
(橋爪)そうですね。さて、静岡市美術館の企画展です。東京都八王子市にある東京富士美術館の西洋絵画コレクションから83点を展示しています。
欧州の画家は何を描いてきたか
(橋爪)この展覧会の優れているところは、15、16世紀のルネサンス期の宗教画から、20世紀のシュルレアリスムまで、ヨーロッパの画家たちが、時代ごとに何を主題にして、何を描いてきたのかが、よく理解できるという点です。
(山田)図録を見ても、時系列に並んでいる感じですね。
(橋爪)とても分かりやすい構成です。作家の名前からもそれはうかがえて。誰もが聞いたことあるような人ばかり。 モネ、ルノワール、ゴッホ、シャガール…。みんな知ってますよね?
でも、このぐらいネームバリューがある人たちの作品がそろう機会って意外とないですから。きわめてミーハー的な気持ちで見に行けばいいんじゃないでしょうか。
(橋爪)特に、この展覧会は最終コーナーに撮影OKの作品があるんですよ。そのうちの一つが、なんとクロード・モネの「睡蓮」!言わずと知れたフランスの印象派の代表的な画家ですね。モネは1897年ごろから亡くなる1926年まで、自宅の庭と池を描き続けたんですね。
それが「睡蓮」です。この作品は68歳の時、つまり1908年ごろに描いた15点の連作の一つ。実物を見ると、すごい浮遊感と不思議な色なんですよ。緑と青と紫が薄ーく混じり合っている。水が流れているようにも、とどまっているようにも見える。絵肌も面白い。キャンバスの麻の質感が出ているんですよね。
ということで、展覧会の大トリのような感覚で「睡蓮」を見ましょう、と。このコーナーではキスリングやユトリロの作品も撮影できます。フランス絵画が好きな人は見逃せないでしょうね。
「カメラ目線」の少年
(山田)ほかに見どころは?
(橋爪)個人的に興味深かったのは、人物の視線、ですね。16世紀、17世紀のヨーロッパには「写真」がないので、歴史画や肖像画は人物を精緻に描いているわけですよ。
(山田)当時の画家は肖像画を描くことで、収入を得ていたと聞きます。
(橋爪)そうそう。「西洋絵画の400年」展にも人物を描いた作品がいくつも出品されているんですが、私が注目したのは、主役じゃないんです。よーく目を凝らすと「この人、どうしてこっち見てるんだろう」というような人がいる。一人だけカメラ目線の人がいる、みたいな違和感ですね。
(山田)へええ。
(橋爪)一番謎なのが、会場に入って最初に目に入る絵、ベルナルド・ストロッツィ「アブドロミノに奪われた王位を返還するアレクサンドロス大王」ですね。王家の出身でありながら、領地や王位を奪われて困窮生活を余儀なくされているアブドロミノのところに、アレクサンドロス大王の使者がやってきて王冠を返却する、という場面を描いているんです。
(山田)あっ。右下に笑っている子どもがいる。
(橋爪)そうです。画面右下のほっぺたが赤い少年。小首をかしげるようにして鑑賞者を見て笑みを浮かべている。みんな神妙な顔をしているのに、一人だけ緩い雰囲気を発していますよね。
いろいろと突っ込みどころがあるんですが、一つ言えることは、彼がこの絵に適度な「弛緩」をもたらしているということです。彼がいることで、絵に緩みがもたらされて、とたんに親しみやすくなる。重々しい儀礼のはずが、となりのおっちゃんに何かいいことがあった、よかったね、みたいな雰囲気が出てきます。
(山田)確かに!
県立美術館とはしごしよう
(橋爪)今回の展覧会についてもう一つ、楽しみ方を提案します。それは、「県立美術館とのはしご」です。
(山田)同じ作家が両方に出品されているとか。
(橋爪)7月27日から開催中の「カナレットとヴェネツィアの輝き」展は、18世紀にイタリアのベネチアで活躍した、主に風景を描いた作品で知られるカナレットがテーマ。ベネチアの美しい風物が描かれていて楽しいのですが、静岡市美術館の「西洋絵画の400年」展に出品している作家が複数いて、見比べられます。
(山田)「かぶった」とも言えるけれど見比べられるのはいいですよね。
(橋爪)例えば19世紀後半に活躍した「海景の画家」、ウジェーヌ・ブーダン。静岡市美術館ではフランスの保養地ベルクののどかな海辺を描いていて、県立美術館ではベネチアの大運河「カナル・グランデ」越しの聖堂や赤い屋根が連なる民家を描いています。
(山田)へええ。
(橋爪)モネも県立美術館の展覧会に3点あって、このうちの「パラッツォ・ダーリオ、ヴェネチア」では運河越しにアーチ状の窓の建物を描いているんですが、この海の色彩が、ちょっと「睡蓮」に通じるものがあります。
(山田)確かに。青とか緑、紫が入っている。
(橋爪)1908年の作品だから、フランスの自宅で睡蓮を描き続けている時期です。庭園の池と海という違いはありますが、「水の表現」という点で一致するものを感じます。
(山田)はい。ということで、暑い夏は快適な美術館へ行きましょう。というわけで、今日の勉強はこれでおしまい!