五十嵐亮太『ハードワークとケアの見極めが大事』選手のアピール合戦に提言!シーズン開幕前の春季キャンプ 日米の違いとは?
野球ファンの胸が高鳴る季節がやってきた。2月に入りプロ野球12球団が一斉キャンプイン。 海を越えて遠く離れたアメリカ・大リーグのスプリングキャンプが始動している。前年シーズンの栄光や悔恨・・・。 球団によってファンの抱える思いは様々な一方で、新シーズンへの期待感、開幕が近づく高揚感はどのチームのファンも同じ思いだろう。 長く険しいペナントレースを勝ち抜く為に重要な位置づけとなる『春季キャンプ』。一年の結果を占うこの大事な期間に、各球団・選手はどのような心持ちで臨んでいるのか、また日米での春季キャンプの違いなどを、沖縄に滞在中のプロ野球解説者・五十嵐亮太さんにじっくりお話を伺った―――。
日米のキャンプでの違いは管理されるか、管理するか
―――五十嵐さん本日は宜しくお願いします。世間は春季キャンプシーズンを迎えています。まず日本の春季キャンプとアメリカのスプリングトレーニングというのは、具体的な違いはありますか? 五十嵐 日本の春季キャンプは約1カ月ある期間のなかで休みは4日くらいありますよね。一方で、アメリカはその間、1日しか休日がないんですよ。なので、毎日球場に来て練習している、そんな感覚です。ただ一日のボリューム自体はそれほど多くないので午前10時前くらいからアップを始めて、一通り終わるのが12時半とか午後1時には終わっちゃうんですね。それを繰り返していく期間です。 また日本の春季キャンプは自分のやりたい練習をエンドレスで出来る。でもアメリカっていうのは決められた時間内でやらないといけないので、ある程度管理されている部分が大きいんですよ。日本は管理はされているんだけれども、自分でやりたいことは結構できちゃうので、そのあたりは日本とアメリカの違いかなと思いますね。 日本も近年だんだん細かく見るようにはなってきましたよね。特にピッチャーの球数などは。でも基本的に球数100球超えてくることはアメリカではあまりない。日本は球数っていうところも個人に任されている部分はあります。 ―――スポーツ紙などでも「キャンプ初日からブルペンで100球熱投」なんていう見出しで書かれたりもしますね。 五十嵐 向こう(アメリカ)はピッチャーの投げ過ぎという事に対して悲観的。日本はどちらかというと、投げて覚えましょうというスタンス。その辺の感覚の違いっていうのもありますね。
日本とアメリカでのファンの違いは?
―――春季キャンプといえば日本だと「ファンとのふれあいの場」としての位置づけもあります。アメリカのスプリングキャンプでもこうした色合いはありますか? 五十嵐 ファンの数でいったら日本の方がスゴイですよ。アメリカはそこまで多くないです。ですが、ドジャースだけは別格でファンが集めることがありますけど他の球団でキャンプ中にこんなにお客さんが球場に集まることはないですね。 練習試合とかオープン戦になると増えますけど、練習見学でここまでお客さんが入って報道陣が入ってというのは日本ならではの光景。日本のキャンプの方が、選手にとって「見られて受ける刺激」は大きいと思います。ファンとの距離感っていうところでもアメリカの方が距離が遠い。球場からクラブハウスに引き上げていくところだったり近くで見ることもできますが日本のキャンプほどではないです。球場で食べられるグルメだったり、来てくれたファンの方が「楽しんでもらえる環境」は日本の方があると思います。
日本人メジャーリーガーの日本球界への復帰について
―――日米球界を経験した五十嵐さんですが、今年ですと上沢直之投手(福岡ソフトバンクホークス)が日本球界復帰。昨季途中加入の筒香嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)も久しぶりの日本での春季キャンプとなります。日本人メジャーリーガーが日本球界に復帰した中で迎える「春季キャンプでの時間の過ごし方」っていうのは、シーズンを戦っていく上でやはり大事になりますか? 五十嵐 アジャストに充てる時間という意味では非常に大事になってくると思います。特にバッターでいうとタイミングの取り方。これはどの選手も口を揃えて言います。日本とアメリカのピッチャーは投げるタイミングの取り方、間の作り方が違います。 日本に戻ってくるとアメリカのタイミングで打ちに行ってしまうのでちょっと前に出されてしまったり、やっぱり速いボールに対応しようとするとタイミングの取り方も変わってくる。日本の投手はアメリカの投手に比べて平均球速も遅いですし、投げる間の取り方も違う。今回の沖縄滞在中に、筒香選手とも話したんですけど、練習では足を上げて間を作って打ちに行くことができているんだけど、試合になるとどうしてもアメリカの感覚が戻ってしまう。 「意識的」に練習ではやるんだけど集中したり「無意識」になった時に、その癖が出てしまうっていうところで去年そのタイミングの取り方というところに難しさを感じていた。という話をしていたんですけども、構えながらもタメてる時間を長くするっていう日本の投手に合わせたタイミングの作り方をしていかないといけない。これは誰しも苦労するところですね。 ピッチャーに関して言うと、アメリカのバッターのタイプとかアメリカの球界で通用するために自分が変えた部分、例えばピッチングのスタイルなど。そこが日本の打者にはどんな反応をされるかのアジャストも必要です。例えば、アメリカ時代の僕は結構ボールを小さく動かさなければいけないという考え方だったので当時大きい変化のボールが投げられなかった。でも日本ではそういう細かい小さい変化に対応できるコンパクトな打者が多いです。 日本復帰後、このスタイルではちょっと難しいなと思ったので大きく曲がる変化球を、それもより速ければさらにいいんですけど。そういったところをアジャストしましたね。投げるボールも若干変えつつ。個人的に日本のボールは投げやすかったのでボールへの対応は苦労しなかったです。
アピールの場であるが、大事なのは「オフの時間の使い方」
―――春季キャンプといえば、レギュラークラスのベテランや主力選手にとっては調整の場。一方で、若手選手にとっては出場機会を懸けたアピールの場というのが日本でのスタンスですけど、アメリカのスプリングキャンプでもこうした構図は共通していますか? 五十嵐 招待選手という位置づけの選手がいて、マイナーからメジャーに招待されるんですよ。そういう選手は昇格を懸けて、日本と同様にアピールをしていかなければならない。メジャークラスで調整している人と比べて「招待選手」というのはやっぱり招待されたからには…という思いが人一倍強い選手が集まっている。 特にそういう状況におかれている若手選手に関して言えば、(主力クラスよりも)早い段階で練習試合とかオープン戦入っていかなければならないので、必然的に調整も早く仕上げないといけない。でも早く仕上げちゃうと結局開幕してシーズンをどう調整して乗り切っていこうかっていう別の問題にも直面する。シーズンも長いので。やっぱり早い時期での息切れ感だったり、疲れすぎてもいけないのでそのバランスは若手選手の方が難しさがある。結果を残している選手っていうのは余裕をもって自分のペースで調整ができるので。 ―――過度なハードワークで故障をしてしまっても開幕に出遅れてしまいますし、頑張る部分との塩梅がより若手選手は難しさがありますよね。一方でキャパシティーを広げる為にはハードワークも必要… 五十嵐 そうですね。そこの見極めっていうのも大事になってくると思います。ただ「追い込み」ということでいえば、大事なのはやっぱり「オフの時間の使い方」なんですよ。 基本的にトレーニングに充てるのはオフの時間なので。2月中旬からアメリカのキャンプが始まるじゃないですか。比較的早い段階で試合になってくるので、キャンプが開始した頃にはもう実戦に近い形での取り組みがメインになる。キャンプ中で追い込むっていうのはアメリカではあまり無い。実戦に近いバッティングやピッチングがどれだけできるかというところが重視される。実戦で自分の力を発揮するための調整が若い選手は早くなくてはいけないという環境だと思います。 でもどんな選手も若いころその時期を経験してそこの定位置にいるわけなので。若い選手もそこをクリアして競争に勝ってレギュラーを勝ち取るというその段階がプレーヤーとして大事なのかなと思います。
〈五十嵐亮太〉 1979年北海道生まれ。プロ野球・東京ヤクルトスワローズや福岡ソフトバンクホークス、またアメリカ大リーグ・ニューヨークメッツなど3球団を渡り歩き、日米通算900試合以上に登板した元プロ野球選手。引退後は野球解説者としての活動の他、自身のYouTubeチャンネル「イガちゃんねる~五十嵐亮太の人生は旅だ~」を開設するなど多方面で活躍する ロケ地協力:スポーツカフェ・チップ(沖縄県那覇市安里101)