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【福岡・出汁にとことんこだわる和食店】日本人で良かったと、改めて思わせてくれる憩いの一軒。

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颯トおでん牛すじ

海外旅行中、ふと味噌汁が恋しくなるように、出汁と日本人の関係は切っても切れません。今年50歳を迎える内村聡志さんも、そんな“味覚の原風景”に魅了された一人。出汁の真髄を究めたくて、2022年8月、博多区住吉に「お出汁堂 颯ト」を構えた料理人です。

美野島商店街そばの古民家1階に、その店を見つけました。涼やかな外観は高級和食店のようにも見え、扉に掛けた手が止まりましたが(笑)、値頃な店と聞いていたのでそのまま入店。その先には、古き良き昭和の面影をとどめた光景がありました。

’80~’90年代の歌謡曲が流れる店内は、手前にカウンター、奥にテーブル席を完備。木の温もりが四方から伝わる懐かしさは、つい「ただいま」と言いたくなる空気感です。

厨房を見ると、内村さんが手際よく仕事に勤しんでいます。和食の道に入った時から出汁の虜だそうで、「まず飲むとホッとしますよね。日本人のDNAが反応してるんだなって。それに、鰹や昆布以外だけでなく、出汁の素材は鶏や貝類などさまざまで、その奥深さを覗いてみたいと思ったんです」と内村さん。そうした出汁への想いは、メニューの大半を占める“お出汁の料理”に余さず詰まっていました。

というわけで、まずは鍋でぐつぐつ煮えている「おでん」を頼みました。大根、卵、白滝(各200円)など香り高い出汁を吸ったタネは、体の芯から温もる美味揃い。利尻昆布と鰹節で取った出汁は澄んだ飲み口ですが、ほんのりコクも感じます。
これはベースの出汁に、「豚なんこつ」(300円)を炊いて取った出汁を5:5で合わせたもの。甘味が強めなのは、人気おでん屋が多い内村さんの故郷・宮崎県都城市の“ふるさとの味”だそうです。

続く「あつあつ茶碗蒸し」(600円)でも上質な出汁を堪能しました。椎茸、海老、ホタテ、サバなど、意外と具沢山で食べ応え満点。事前に塩と酒で蒸した具材は、出汁との相乗効果で旨味も倍増です。飲み干すように一気に完食!

また、甘い香りにのどが鳴る「牛すじ肉豆腐」(750円)もマストでしょう。これも牛すじの出汁にベースの出汁を合わせ、“綺麗な野生味”を絶妙に表現した逸品。和食一筋20年余の賜物か、一品一品の端正な仕上がりはさすがです。

また、こうした料理には日本酒がつきものですが、こちらも抜かりない品揃え。常時20以上の銘柄を各地から集めており、小さな蔵のレア酒に逢えることもありますよ。

次に、ややパンチのあるものが欲しくなり「地どりのカリカリ焼」(700円)を追加注文。カリッとクリスピーに仕上げた佐賀産「ありたどり」を、ジャポネソースでいただく人気料理です。事前に重石でプレスし、肉の味を凝縮させる一手間も効いてます。

そして最後は「五島うどん」(500円)をすすりつつ、たおやかな“出汁の世界”を締めくくりました。伝統技法を尊ぶ和食店でありながら、多くの料理が800円以下という値段もあわせて大満足。
思わず「はぁ……」と嘆息すると、「この仕事を頑張れるのは、その“はぁ”が聞けるから」と嬉しそうに内村さんが笑います。こうした穏やかな幸せが、夜ごと客たちを包む「颯ト」。日本人で良かったと、改めて思わせてくれる憩いの一軒です。

お出汁堂 颯ト(さっと)
福岡市博多区住吉5-18-10
070-9055-6528

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