「演じることを愛してほしい」舞台で活躍する俳優と、演劇未経験者が一緒に学んで見えてきたもの【実践レポ④】
札幌の「ジョブキタ北八劇場」で開かれている演劇ワークショップ。
HBC演劇エンタメ研究会(略してエンケン)会長の堰八紗也佳(せきはち・さやか)アナウンサーが、「表現の幅を広げたい」と、自ら志願して参加しています。
演劇に熱い思いを向ける人々の思いとは。演劇を学ぶことで、何が見えてくるのか。
堰八アナとSitakke編集部IKUがシリーズでお伝えします。
第1回からワークショップでの驚きや難しさをお伝えしてきましたが、今回はいよいよオーディションです。
いよいよオーディション!
エンケン会長で、HBCアナウンサーの堰八紗也佳です。
前期ワークショップの最終日からオーディションまでは10日ほど空き、参加者全員がそれぞれ自主練習を重ねる時間になりました。
成長をオーディションで見せられなければ、合格できるはずありません。
ワークショップに参加していた、演劇ユニット「ELEVEN NINES(イレブンナイン)」の俳優・梅原たくとさんに、アドバイスをいただきました。
「セリフを分析することで、間や緩急、声の大小・強弱をどうするか計算できる」といいます。
私は台本とにらめっこし、セリフひとつひとつから考えられる背景をあぶり出し、紐解いていきました。寝ても覚めても、仕事中も、頭の片隅に演劇があり、悪夢を見そうな勢いでした(笑)
そしてオーディション当日。待ちに待ったこの日が来たというような、楽しみな気持ちになっていました。自分なりに考えて練習してきた成果を、早く講師の納谷真大(なや・まさとも)さんに見てもらいたい。そして、この緊張感から早く解放されたい…!
前期ワークショップを客観的に振り返ってみると、これまでの私はいつも自信がなく不安な様子でした。私のオーディションでの目標は、緊張せず自信を持って自分らしく演技すること。
会場に集まった参加者を前に、納谷さんから20分ほど、オーディションの合否に関する思いを語る場面がありました。
「今回の舞台にハマるかハマらないかなんです。この人に合わせた脚本を書きたいなと思わせる方もいますよ。でも今回のオーディションではすでに脚本がある。性別・年齢・役者としてのキャリア、いろんなことがプラスにもマイナスにも働きながら、全体とのバランスを見て決めていきます」
納谷さん自身、これまで数えきれないくらいオーディションに落ちている経験や、「通行人Aならやらない」とプライドを持って出演を断った若い時代の経験もあり、参加者の思いが痛いほどわかっています。
だからからこそ、このオーディションに通らなかったからと言って演劇を諦めないでほしい、演劇を続けてほしいという気持ちが伝わってきました。## オーディションスタート!
オーディションが始まりました。
一人ずつではなく、『天国への会談』のさまざまなシーンを、配役を入れ替えて何度も演じていきます。
配役には年齢や体格や雰囲気などから、ある程度、すでに納谷さんの中でイメージがあったようです。私は天界の使者・ルカの役に何度も指名されました。
ルカはそのシーンを回していく重要な役どころです。しかし私は中盤で、かなり大きくセリフを飛ばして先に行ってしまいました!
納谷さんから「堰八さん、緊張しなくていいから、楽しんだほうがいいですよ。次は楽しんでやってみてください」というアドバイスがありました。
やはり、緊張しないという目標は、達成できていなかったか…。しかし、考えてきたとおりの自分らしい演技はできた感覚があり、とても嬉しくなりました。あとは気持ちを入れ替えて、楽しむだけだ…!!
2回目以降は、楽しんで、やりきりました。自分の中で、今出せる最大限の力を、出し切りました。これで不合格でも、何も後悔はありません。
オーディション結果は…
結果は……
合格!
ルカとして、北八劇場の舞台に立てることが決まったのです。
合格の喜びと同時に、同じくルカを目指して演技をしていた参加者の顔がよぎりました。その人の努力を裏切らないように、しっかりやらなければと、気が引き締まりました。
納谷さんからは、こんなメッセージをいただきました。
「堰八さんに、演じることを好きになってもらいたいし、愛してもらいたいです。そのために全力を尽くします。堰八さんの演技に向かう真摯さと成長率の凄さは今回のワークショップで実感できたので、稽古では天井知らずで上昇してもらいたいです!」
“演劇を愛してほしい”
ストレートな言葉が、深く心に刻まれました。
新たなチャレンジの扉が開き、胸が高鳴ります。このまま天国へ昇らないように、地に足をつけて頑張ります!
ルカは、私の大好きな俳優・五十嵐みのりさんとのダブルキャストです。必ず良い作品にします!観に来てください!!
「こんなにたくさん、いい人いたっけ?」
Sitakke編集部IKUです。私は今回のワークショップを、初回と中盤、そしてオーディションと3回取材させていただきました。
客観的に見ていて、オーディションの際に驚いたのは、「こんなにたくさん、いい人いたっけ?」ということです。
初回のワークショップでは緊張した面持ちで、「演劇は未経験」と話していた参加者も、オーディションでは、表情も明るく、全身を使って表現。見ていたほかの参加者から笑い声があがっていました。
ほかの参加者と息をあわせて臨むシーンでは、それぞれが全力だからこそ、誰と誰が組むかによって変わったものに見えていくおもしろさがありました。
同じ役柄でも、納谷さんはその人に合わせて「ここでニコッと微笑んでみて」「あなたの人の好さそのままを生かしてやってみて」など、演出を変えていきます。
誰が演じるかによって見え方が変わること、演出と役者が一緒に舞台を作り上げていくことが、オーディションの段階でもはっきりと見えてきました。
この役はこの人がすごく合っていそうだな、と思えば、また次の人もいい…。悩ましくなるほど、それぞれが大きく表現の幅を広げていました。
演劇経験の浅い方々が上達していくにつれ、すでに舞台で活躍している参加者との差が縮まってしまうのかと思えば、経験者たちはまた新たな引出しを見せてきます。
感動したのが、このシーン。かけられた言葉に男性4人が大きな衝撃を受けた瞬間なのですが、なんでしょう、この美しさ…。客席側から見ていて、誰も重なることなく、4人それぞれの衝撃の表情が見えたんです。
腰をついている方も、膝をついている方も、立っている方まで体ののけ反り方から衝撃が伝わります。同じ言葉に対するリアクションでもこんなにバリエーションがあるのかというのも、息の合い方にも、演劇経験者たちだからこその技を感じました。
そしてそんな経験者たちが入ることで、周囲の演技も応えるように引き出されていき、同じシーンでも空気感がガラッと変わります。
どんどん伸びやかになっていく堰八アナの演技にも、周囲の参加者たちからの相乗効果を感じました。
ワークショップで見出された新たな才能と、経験豊富な演出や俳優たちがかけ合わさることで、どんな舞台ができあがるのか。
前半の10日間のワークショップだけで大きく変わった参加者たちの姿を見て、本番がより一層楽しみになりました。
続きは次回の記事でお伝えします。
ジョブキタ北八劇場 トレーニングワークショップ#2
ワークショップ内でのオーディションに合格した参加者が、9月19日(金)〜9月21日(日)に上演される『天国への会談』に出演できます。
チケットご予約の際は、予約フォームにある注意事項をご確認ください。
◆HBC演劇エンタメ研究会
◆文:エンケン会長/HBCアナウンサー・堰八紗也佳、Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は記事執筆時(2025年8月)の情報に基づきます