LADYBABY、AMEFURASSHI、きゅるりんってしてみて…… 2023年中に触れておきたい中毒性の高い10曲|「偶像音楽 斯斯然然」第118回
いよいよ年の瀬が迫ってきた今回は、冬将軍が2023年中に触れておきたい10曲をピックアップ。中毒性がある各曲の魅力を紐解いていく。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週金曜日更新)。
ついに動き出した新生LADYBABY。2023年12月1日に行なわれた<HEROINES FES>でお披露目となった。
LADYBABYとHEROINESの相性はいいだろうなとは思っていたが、1曲目の「ニッポン饅頭」からのインパクト、いい意味で浮いていたLADYBABY曲のアクの強さ。LADYBABYの魅力は、いわば”アイドルだから成立すること“をきっちりやっていること。本格的な硬派なバンドサウンドにアイドルだからこそ歌える歌詞を乗せていく。そこをウマくやってきたグループだ。
パフォーマンスの部分では、想像以上にアイドルしていた。3人時代も2人時代も4人時代も、ある程度の自由奔放さを売りにしていたところがあったわけだが、今回の5人体制はアイドルグループとしてのパフォーマンスをしっかり見せるという部分を強く感じられた。既存曲であっても、振りやフォーメーションによってまた別の見え方をしていたのが興味深いところ。椿さくらの未知なるデスボイスであったり、ステージングに定評のある芹沢レムであったり、メンバーのポテンシャル含めて期待したいところだ。
LADYBABY「Gotcha にっぽん!」
新生LADYBABY第1弾となる新曲が「Gotcha にっぽん!」。これまで「参拝!御朱印girl☆」、「Pelo」、「ダメダメ殿」など、多くのLADYBABY楽曲を手掛けてきたTATSUO。極悪ヘヴィなサウンドにコミカルな歌詞が乗る、語呂がよいとは言えないところが中毒性の高さを誘う。
日本のカルチャーを世界へ、というコンセプトは健在。さまざまな各国言語に溢れたYouTubeコメント欄を見れば海外からの注目度の高さがわかるはず。
さて、2023年もあとわずかということで、今年中に触れておかないと年が越せないという楽曲をまとめてピックアップ。
ポンコツコンポ「イカのダンスは済んだのかい?」
こちらも新体制で復活のHEROINESのグループ。“キツネちゃん”というアカウントでアップされた同曲の中毒性たるや恐るべし。ひたすらにキャッチーでひたすらに意味のない回文の連呼に脳が侵食されていく。ふざけ倒しているようで、エッジの効いたギターであったり、アレンジもサウンドも緻密でカッコいいのがズルい。HEROINES楽曲を多く手がける芝山武憲による曲だ。
ポンコツコンポ、ライブSEが端折られていたり、HEROINESイベントでは転換時間の関係で予告なしに複数回出演させられ、先日はiLiFE!の出番と思わせておいていきなり出てきて3倍速でステージをやり逃げするなど、いい具合いにイジられ愛されキャラにいるグループ。ポンコツを謳っているものの、歌もダンスもHEROINESクオリティ。安定感はばっちりだ。
比較的大人しいファンの多いHEROINESが、ここに来てこうした“沸き”に特化したグループを投下してきたのは興味深いところ。コロナ禍を経た制約のないかつてのライブ環境が戻ってきたからだろうか。
ガガピエロ「ノックアウト!」
HEROINESが続きます。2023年、私個人的なアイドルソングベスト3に入るのがこの曲。ひたすらにキャッチーで、振りも可愛らしく、サウンドはヘヴィなバンドサウンドというすべてがツボでノックアウト。先日、待望のストリーミング配信が始まったわけだが、音がよくてびっくりした。
ガガピエロ、私が勝手に呼んでいる“地雷系ロック”という界隈に括っているのだが、この辺の話はまた改めて。
Alcute!「がんばれ!あるコールのうた」
シンデレラの犬Projectからもコロナ明けに向けた新グループ&コール特化型ソングが誕生。バブルの昭和的なノリから最新鋭令和感を放つ(アル)コール曲。合いの手やガヤは古くから土着した日本の文化になっているわけで、盛り上がらないわけがない。そういう意味ではアイドルソングのコールが生まれたのも国民性として自然な流れのような気がする。
呪文のように並べられた早口言葉から《水!水!これは水!なんか色ついてるけど水》というキラーフレーズに繋がる緩急。一切の隙すら認めないキラーチューン。楽曲を手がけたのはボカロPの匿名ゲルマ。近年、古典歌謡っぽさを感じる曲は若いボカロPが手がけていることが多い。世代ゆえ新鮮味を感じるのかもしれないが、しっかり日本の伝統芸能として受け継がれているのは素晴らしい。
同曲はキラキラ美少女グループが歌うことで、変なノリになっていないところもよい。アイドルがお酒を呑むなんて、という時代もあったよねぇ(遠い目)。怒髪天「酒燃料爆新曲」に対するZ世代アイドルからの回答か(違う)。
AMEFURASSHI「SPIN」
TikTokを中心としたSNSでのバズりで一気に注目を浴びたAMEFURASSHI。クール&スタイリッシュ路線も完全に板についた中で、超強曲を放ってきた。楽曲の展開もメロディの起伏も少なく、サビらしいサビがなく、一気に駆け抜けていく3分程度の曲という、世界的なポップミュージックトレンドに沿った曲。しかしながらそれをアイドルフィールドでやるのは難しいところ。これまで紹介してきた“沸き”とは真反対のベクトル。そこに振り切れるのは歌とダンスのスキルに自信があればこそ。ありがちなEDMを謳っているのに全然EDMではない曲だとか、K-POPの真似事ではない本気のダンスミュージック。確かなスキルとクオリティを堪能できる楽曲だ。であるから、バズったのも納得なところ。
BELLRING少女ハート「She's Rain」
こちらも新体制となったBELLRING少女ハート。7年ぶりの新曲リリースとなった「She's Rain」は、「2SoundDown」やAqbiRecのグループの楽曲でお馴染みの福井シンリ楽曲。流麗なピアノが美しく奏でられる中でもの哀しく歌われるメロディ。そこからドラムンベースのリズムが絡んでいく。ジャン=ジャック・バーネル(ストラングラーズ)を彷彿とさせる図太く歪んだベースが氏の持ち味であるが、打ち込みベースからゴリっとした生ベースに切り替わる様が心地よく、そこから一気に解放されていくアレンジがたまらない。タイトルをリフレインしていくシンプルなメロディの後ろで鳴るベースラインをずっと追い続けたくなる中毒性の高い楽曲だ。
Devil ANTHEM.「GOD BLESS YOU!!」
“俺たちビクター!”(by BUCK-TICK)という90年代を青春に過ごしてきた私世代にとってついに来たビクター、上田剛士(AA=)による提供曲。上田のアイドル曲と聞けば、BABYMETALやBiSに乗っかったと思われがちだが、デビアンはTHE MAD CAPSULE MARKETSオマージュと思われる曲があったり、Malcolm Mask McLarenがMADのカバーをしていたりと、MADリスペクトを以前から感じていたので、なんとも感慨深い。
イントロのシンセから上田節が炸裂しており、お得意の一気に解放されるサビは妙に少女らしい声が強調されて不思議な感覚に陥る曲。
9DayzGlitchClubTokyo「アイドルソング」
EDMもエレクトロもヒップホップも呑み込んでいく9DayzGlitchClubTokyoによる、ド直球タイトルをぶった斬るアッパーでグリッチなナンバー。異国情緒に溢れたラップパートから、悲壮感を漂わせるピアノに合わせたマイナーメロディ。アイドルの叫びを綴った、ある意味でキラキラ王道アイドルソングである。
ミームトーキョー「AGAIN AND AGAIN」
しばらくチェックしてなかったらミームトーキョーこんなことになってるの!?と驚いた曲が「GAV RICH」だった。それを斜め上から超えてきた。chelmicoによる同曲はラガっぽいリズムとテクノっぽいミニマルなエレクトロサウンドが心地よい。Y2Kテイストに溢れた衣装とMVの仕上がり。心地よいチープ感が楽曲と融合する世界観は、何度でもリピートしたくなる。
きゅるりんってしてみて「ツインテールは20歳まで♡」
最後はTikTokでよく耳にした楽曲。“もしや?”と思ったら案の定、清 竜人の提供曲だった。タイトルにはお決まりのハートマーク入り。清 竜人によるアイドルソングはもう伝統芸と化しているが、歌謡曲としての普遍的なアイドルソング、童謡すらも落とし込んだような懐かしさと斬新さに溢れたメロディとアレンジはTikTokでのインパクトも大。いつもと少々異なるのはテンポ感が抑えられていること。それが微睡んだ甘ったるいボーカルを引き立てることになり、功を奏している。