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哲学はどこにたどりついたのか――『哲学史入門Ⅲ 現象学・分析哲学から現代思想まで』より

NHK出版デジタルマガジン

哲学はどこにたどりついたのか――『哲学史入門Ⅲ 現象学・分析哲学から現代思想まで』より

 哲学研究の第一人者が集結し、西洋哲学史の大きな見取り図を示すシリーズの第3弾『哲学史入門Ⅲ 現象学・分析哲学から現代思想まで』が6月10日に刊行されました。著者に谷徹さん、飯田隆さん、清家竜介さん、宮﨑裕助さん、國分功一郎さんをむかえ、20世紀の現代哲学として、現象学、分析哲学、フランクフルト学派を中心とした社会哲学、フランス現代思想を扱います。刊行を記念し、斎藤哲也さんによる「はじめに」の全文を特別公開します。

『哲学史入門Ⅲ 現象学・分析哲学から現代思想まで』

『哲学史入門Ⅲ 現象学・分析哲学から現代思想まで』はじめに

『哲学史入門』第三巻へようこそ!

 本書は、聞き書き形式で哲学史を語っていく『哲学史入門』全三巻の最終巻にあたります。第一巻では、古代ギリシア哲学からルネサンス哲学までを、第二巻では、一七世紀から一九世紀までの西洋近代哲学史を取り上げました。最終巻となる本巻は、いよいよ二〇世紀西洋の現代哲学・現代思想に入門します。

 指南役に迎えるのは、谷徹さん、飯田隆さん、清家竜介さん、宮﨑裕助さんの四人。この四方に、それぞれ現象学、分析哲学、フランクフルト学派を中心とした社会哲学、フランス現代思想について、インタビューしています。そして巻末では、國分功一郎さんに「哲学史を学ぶ意義」を語っていただき、本シリーズは幕を閉じます。

 前巻の「はじめに」でも申し上げたことですが、第三巻だからといって、第一巻と第二巻を読んでいないと理解できないということはありません。また、どの巻にも言えることですが、各章の内容は独立しているので、興味のある哲学者やトピックが扱われている章から読むことができます。

 さて、思いっきり引いた視点で、二〇世紀の現代哲学・現代思想を見渡すと、(ドイツ・フランスを中心とした)大陸系と英米系という二つの潮流に分けられます。その両潮流を形作ってきた哲学が、本巻前半二章で取り上げる現象学と分析哲学です。

 ほぼ同時期に産声をあげた現象学と分析哲学は、二一世紀の現在に至るまで、深化をとげながらカバーする分野も広がっています。しかしながら、どちらも独特の「入門しがたさ」があって、入門の段階で挫折する人が多い。

 登山に喩えるなら、どちらも頂きは険しく、登りはじめるだけでも相応のトレーニングや装備が必要です。それぞれの章の指南役である谷さんと飯田さんは、ともに頂上まで登りつめ、大勢の登山者を育て上げてきたプロフェッショナルです。

 インタビューでは、急所や難所も熟知している二人の大先達に、必要な装備(概念)や地図(系譜)、その登り方(方法論)まで、懇切丁寧にレクチャーしてもらいました。二人のライブ感あふれる語りは、これから入門しようとする人、あるいは一度挫折したけれど再挑戦してみようという人の背中を押してくれるはずです。

 ドイツとフランスの現代思想を取り上げる後半二章では、社会哲学を専門とする清家さんと、デリダ研究者の宮﨑さんを指南役に迎えています。

 清家さんには、かつて僕が編集した『現代思想入門』(PHPエディターズ・グループ)でフランクフルト学派の解説原稿を執筆してもらいました。その勢いのある筆致と同様、今回のインタビューでも歯切れのよい語りに脱帽しました。

 宮﨑さんは、雑誌やウェブメディアでの寄稿や発言を読むにつけ、その該博な知識や視野の広さに舌を巻くことしきりでした。深い思想理解に裏打ちされた、絶品のフランス現代思想解説を堪能ください。

 掉尾を飾る國分さんは、なんとカントの『純粋理性批判』を引きながら、哲学史を学ぶ意義について語ってくれました。これじたいが出色の哲学史講義となっており、インタビュアーという立場を忘れて、聞き惚れてしまいました。

 三巻目の「はじめに」ともなると、前口上も屋上屋を架さざるをえないのですが、本巻も前二巻と同様、登場いただく研究者の語り口や息づかいが聞こえてくるような、臨場感あふれる構成を心がけました。味わい深い脱線はもとより、ふと漏れる本音やこぼれ話など、聞き書きならではの哲学史入門をお楽しみください。

 各章の冒頭には、インタビューを読むうえで最低限知っておいたほうがいい基礎知識と、インタビューの読みどころを添えたイントロダクションを設けました。こちらで肩慣らしをして、インタビュー本編にお進みください。すでにある程度、哲学史に親しんでいる読者は、イントロダクションを飛ばしていきなりインタビューを読んでもかまいません。また章末には、指南役が推薦する三〜四冊のブックガイドを掲載しています。ピンと来たものがあったら、本書の次に手にとってみてください。
             
 シリーズ三巻のなかで、この巻をはじめて手に取った方は、気に入ったら第一巻、第二巻にも手を伸ばしていただけると、この巻の内容もいっそう深く理解できると思います。願わくば、シリーズ三冊を完走していただけると幸いです。

 前置きはこのくらいにして、そろそろ二〇世紀哲学史の門をくぐりましょう。

斎藤哲也
1971年生まれ。人文ライター。東京大学文学部哲学科卒業。著書に『試験に出る哲学』シリーズ(NHK出版新書)、監修に『哲学用語図鑑』(プレジデント社)など。

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