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シリーズ皆勤賞の妖怪「白山坊」から見る『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの変遷

アットエス

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は妖怪「白山坊」から見る『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの違いについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん ゲゲゲの鬼太郎』は第1シリーズが1968年、第6シリーズは2018年と50年にわたるシリーズなので、作風が毎回少しずつ違います。第1シリーズと第2シリーズは連続しているものの、第3〜第6シリーズは毎回が異なる設定で、関係のない別シリーズという形になっています。その中で今回は、全シリーズに登場する「白山坊」という妖怪を取り上げて、各シリーズがどう違うのか解説していきたいと思います。

白山坊は白蔵主という狐の妖怪をもとに水木先生が作り出した妖怪と言われています。1967年に書かれた原作では、不運続きの男のところにこの白山坊が現れて、幸運を授ける代わりに、生まれたばかりの娘を将来嫁にくれと言います。弱っているところに悪魔の取引を持ちかけるわけです。取引に応じた男はお金持ちになるのですが、このままでは娘を妖怪にやらなくてはいけないと悩んで、鬼太郎たちが助けるというお話です。これがシリーズを通してどういう風にアレンジされていくのか。

第1・第2シリーズ

第1シリーズは怪奇色が強めのシリーズで、白山坊はほぼ原作通りです。アニメ用に少しエピソードを膨らませてありますが、基本の構造は同じ。最後は白山坊を鬼太郎が退治して終わります。第2シリーズは、第1シリーズの続編という形になっているので、白山坊に限らず、第1シリーズとダブって登場する妖怪はいません。

第3シリーズ

1985年の第3シリーズでは、それまでの怪奇路線とは全く異なり、ヒーロー路線になります。こちらは、娘がいるけれどお金に困っている夫婦のところに白山坊が来て、これからは外食産業が当たると教えてくれるところから始まります。おそらくお弁当屋さんが流行するのがこのころなので、それを踏まえたのではないでしょうか。

バトルについても、白山坊がねずみ男を使って鬼太郎に陽動作戦を仕掛けるなど、戦いのドキドキハラハラを強く表現していて、そこが面白さとしてプラスされています。ちなみに、相手が妖怪とはいえ、一度契約したものを人間の都合で反故にするのはおかしくないかという考え方もあるため、第3シリーズでは白山坊をやっつけた後、一家は白山坊のアドバイスで儲けた財産を寄付し、裸一貫でやり直すというアレンジが入っています。

第4シリーズ

「原点回帰」がキャッチフレーズで暗いダークなシリーズです。基本的にプロットは原作通りですが、一番大きいアレンジは白山坊の下にコン太という部下をつけたことです。このコン太が、お嫁に行く予定の女の子と仲良くなって、こんなひどいことはやめましょうよと言い始めます。良心を持ったキャラクターを間に入れることで、人間も利益を勝手に持っていくわけではないし、妖怪側の要求をストレートに扱うこともない、というバランスをとった脚色になっています。

第5シリーズ

明朗なエンタメ色が濃いシリーズなので、一番アレンジが凝っています。白山坊は妖怪演芸集団「白山一座」の座長なのですが、妖怪に全然ウケません。そこで人間の面白くない漫才師と、お笑いグランプリで優勝させるかわりに魂をもらうという契約をします。そしてお笑いグランプリ優勝後の契約の有効無効が、話のオチにつながっていきます。

目玉おやじはもともとこの漫才コンビを面白いと思っていたし、実際に妖怪たちの前で演じさせたら、ハプニング込みで大ウケしたので、「こいつらは白山坊の力によって優勝したのではなく実力では」という方向で物語が決着します。白山坊の力で利益を得て、何か大事なもの取られるという構図は一緒なのですが、オチが全然違うわけです。

ちなみに白山坊は、西日本の出身の妖怪のようで、だからお笑い集団の座長という設定にしたのかな、と思われます。

第6シリーズ

第6シリーズは現代性を積極的に取り入れつつ、結構怖い話が多かったシリーズなんですが、白山坊の話はちょっといい話になっています。白山坊はある地域の妖狐の元締めなのですが、5代目の白山坊は悪いやつで人間をさらって食べていました。それを6代目白山坊が倒すんですね。その戦いのときに傷ついた自分を助けてくれたのが人間の女の子・やよいです。

6代目白山坊は彼女をずっと気にかけているのですが、やよいのお父さんが事業に失敗して自殺をしようとしてしまいます。そこで6代目白山坊は、因果律を変えて彼女に幸運が集まるようにしてしまいます。ところがその結果、その歪みを受けて、不幸もまたやよいに起こるようになります。6代目白山坊は、その不幸から彼女を守り続けます。

最終的にこのエピソードは、白山坊が西洋妖怪からやよいを守り、そこでようやくやよいも小さい頃に助けた相手が白山坊で、自分をずっと守ってくれていたのが白山坊であることを知ります。そして最後にふたりは結ばれ、最後はキツネの嫁入りのようなイメージで締めくくられます。

最初は娘を結婚させないために白山坊と戦ってきたわけですが、シリーズを通して話がひっくり返り、要素は同じなんだけれど両想いのストーリーになってきました。一つの妖怪を追いかけてみただけでもこれだけいろんなアプローチがあるんですね。なので妖怪ごとに、このシリーズではどう扱われてるかを見るのも、『鬼太郎』の楽しみの一つかなと思います。

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