人間とは?家族とは?幸せとは何か?を問う “イギリスの巨匠”マイク・リー最新作『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』
名だたる映画監督が敬愛するイギリスの巨匠マイク・リー監督の最高傑作『ハード・トゥルース 母の日に願うこと(原題:Hard Truths)』が、10月24日(金)より公開される。
イギリスの巨匠マイク・リー最新作
現代のロンドンを舞台に、いつも怒りの感情をかかえた母親を主人公にした珠玉のヒューマンドラマが誕生した。問いかけられるのは、「人間とは?」「家族とは?」そして、「幸せとは何か?」——。監督はイギリスを代表する巨匠のマイク・リー。『秘密と嘘』が「カンヌ映画祭」でパルムドールを受賞し、日本のミニシアターでも大ヒットとなったが、この作品に出演したマリアンヌ・ジャン=バプティストと監督との奇跡の再会が実現した。
表現者として深みを増したふたりのタッグは、前作以上にパワフルな人物像を作り上げ、ジャン=バプティストは、この映画で数々の演技賞も獲得。作品自体も世界の映画祭で27の受賞・57のノミネートを果たし、米批評サイト「Rotten Tomatoes」の支持率は驚異の95%。主人公の夫や息子、妹とのねじれた家族関係を見つめ、<笑い><涙><怒り>が交錯。やがて、一筋の希望が浮かび上がる人生賛歌が、日本の映画ファンの心を鷲づかみにする。
本作の主人公・パンジーは、夫や息子と暮らす黒人の中年女性。いつも何かに苛立ち、身近な人々との衝突を繰り返している。配管工の夫や20代の無職の息子との関係もぎくしゃくする日々。しかし、対照的な性格の妹、シャンテルと母の日に亡き母の墓参りに行った時から、自分の秘められた気持ちと向き合う。その心の奥には、長年、家族に複雑な思いを抱えてきたパンジーの深い孤独や悲しみが浮かぶ。
パンジー役のマリアンヌ・ジャン=バプティストは、96年の『秘密と嘘』でアカデミー助演女優賞候補となった。それから25年以上が経過し、女優としてさらに円熟。激しい怒りを見せつつ、繊細な揺れもある女性の内面を見事に表現する。その圧巻の演技は、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンなど主要の映画批評家協会賞の主演女優賞を獲得。キャリアにおける最高の演技が高く評価された。
監督のマイク・リーは、過去の『秘密と嘘』、『家族の庭』といった代表作でも、家族の絆を通じて、社会の片隅で生きる庶民たちの真実を描き続けてきた。この作品でも、いつも通り撮影前は脚本を用意せず、俳優との即興的なリハーサルを重ねることで物語の骨組みを作り上げる。そんな独自の手法を通じて人間のリアルな感情に迫っていく。
その斬新で大胆な映画作りは、ショーン・ベイカー、グレタ・ガーウィグといった名だたる監督たちにも影響を与え、世代が少し上のイギリスの名匠ケン・ローチと共に庶民たちの人間模様を見つめ続けてきた。80代となった彼は、今回、初めてロンドンで生きる黒人たちの日常生活をテーマにし、まさに演出の極致ともいうべき至福の逸品を作り上げた。静かながらも、ユーモアもあり、感情を強く揺さぶる稀有な展開で、その職人芸を発揮する。
リー監督はインタビュー(AP通信)で「街に出ればパンジーのような人間はたくさん目に入る」と語っている。パンジーは怒りを周囲にぶつける人生を送っているが、この映画では、そんな主人公の怒りや孤独の向こう側にあるものも見せる。自分が周囲に嫌われていると考える彼女に、素直な妹のシャンテルは言う――「あなたのことは理解できないけれど、それでも、あなたを愛している」。どんな自分でもきっと受け入れてくれる人がいる。そんな救いと希望も感じさせる屈指の傑作となっている。
『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』は10月24日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開