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『香水』瑛人。逗子「海の家」ではたらく現在。紅白出場後「ちょっと虚しかった」

スタジオパーソル

スタジオパーソルが運営するYouTubeでは、さまざまな業界ではたらく人の1日に密着し、仕事の裏側と本音を掘り下げる『晩酌まで1日密着』シリーズをお届けしています。

今回密着したのは、シンガーソングライターの瑛人さんです。2020年に『香水』で一躍ブレイクし、NHK紅白歌合戦にも出場した彼は現在、神奈川県逗子市の海水浴場で海の家を共同経営しながら、音楽活動を続けています。

『香水』のヒット後に経験した孤独と迷いを経て、瑛人さんが見つけた新しいはたらき方とは――。飾らず等身大に生きる瑛人さんの言葉には、私たちが仕事や人生を楽しむためのヒントが詰まっていました。

※本記事はYouTube『スタジオパーソル』の動画を一部抜粋・編集してお届けします

『香水』でヒットした瑛人さんの現在。“海の家”での仕事とは?

真夏の逗子海岸。2020年に『香水』で一躍ブレイクし、NHK紅白歌合戦にも出場したシンガーソングライターの姿がそこにありました。午前9時過ぎ、パラソルを立て、テーブルを拭き、シャワー室の清掃を済ませ、瑛人さんは海の家の開店準備に追われています。

「2024年から海の家をやっているんです。共同オーナーみたいなノリでやらせてもらっています」

瑛人さんがはたらくのは、逗子海水浴場にある海の家・弥栄(いやさか)。19歳のころにアルバイトをしていた横浜のハンバーガー屋のオーナーと一緒に始めた事業です。「ライブや音楽活動以外、夏の間は海」ではたらいていて、ときには8連勤することもあると言います。

ビーチに人が増えてくると呼び込みを始めます。「海の家、ご利用どうですか?シャワーやロッカーも綺麗ですよ」と道行く人に声をかけますが、なかなか足を止めてもらえません。「断られるのには慣れました。呼び込みは難しい」と瑛人さんは笑います。

この日は夕方からライブも開催。機材の準備から音響のセッティングまで、すべて自分で行います。海の家という、お客さんとの距離が近い場所で代表曲『香水』を歌う瑛人さんの姿は、テレビで見る華やかなステージとは一味違った、等身大の魅力にあふれていました。

そのほか、オーダーやお皿洗い、シフト管理から在庫管理まで幅広い業務を担当する「なんでも屋」の瑛人さん。かつてNHK紅白歌合戦にも出場した人がなぜ……?と考える人がいるかもしれませんが、瑛人さん本人はまったく気にかけていない様子です。

「プライドが邪魔するんじゃないかって?何もないですよ。初経験という括りで見れば、紅白歌合戦も海の家も一緒です」

多くの人が知る楽曲を生み出した後、あえて海の家ではたらく今の瑛人さんに辿り着くまでには、一体どんな歩みがあったのでしょうか。

将来の目標がなかった青年が『香水』を生み出すまで

瑛人さんの小学生のころの夢は「宝くじで3億円を当てて一生遊んで暮らすこと」でした。もともと歌うことが好きで、音楽の道への憧れはあったものの、「歌手になりたいなとちょっと思っていた」程度。高校卒業後は、目標を見つけられないままフリーター生活を続けていました。

スニーカーショップやハンバーガー屋ではたらきながらボイストレーニングに通ってみたこともありましたが、「2~3回ぐらいしか続かなくて」と、自分でも方向性を見つけられずにいたと言います。

そんな毎日の中で転機となったのが、音楽学校の存在です。しかし、その動機は音楽への情熱というよりも、もっと現実的なものでした。

「友人から、週2日通うだけで学生になれる音楽学校があると聞いて、『えー!週2で学生証がもらえんの!?』と食いついたんです。学割を使いたくて、学生証が欲しかったんです」

その後、音楽学校に通いながらも、瑛人さんには音楽で成功したいという野心はありませんでした。休みの日には仲間たちと公園でセッションを楽しむ。「同窓会みたいなノリでしかライブをしたことはなかった」と振り返るように、音楽は純粋に仲間と過ごす楽しい時間そのものだったのです。

そんな自由な音楽活動の中、学校から課せられた「3時間で3曲を作る」という課題から生まれたのがあの名曲『香水』でした。

「ハンバーガー屋のオーナーから借りた香水を、セッション前にワンプッシュしたんです。『あ、こんな匂いなんだ』と思いながら演奏していたら、そのときの感覚がそのまま歌詞になって。本当に奇跡でした」

何気ないきっかけから生まれた楽曲が、後に自分の人生を大きく変えることになるとは、このときの瑛人さんは想像もしていませんでした。

紅白出場の翌日に襲ってきた孤独「やばい。虚しい」

2019年、瑛人さんは『香水』を「TuneCore」という配信サービスでリリース。その後1年かけてSNSを通じてじわじわと話題になり、2020年に爆発的なヒットへと発展します。

「それまでのライブ経験は10回くらい」という瑛人さんでしたが、突然テレビやフェスに出演する機会が増え、生活は一変。突然の脚光に戸惑いながらも、次のヒット曲を出さなければというプレッシャーに駆られ、瑛人さんは次第に音楽活動だけに没頭するようになりました。

そして、同年には紅白歌合戦への出場も決定。しかしこの大舞台への出演が、瑛人さんにとって大きなターニングポイントとなります。華やかな舞台を終えて迎えた翌日、瑛人さんはたった一人で新年を迎えていたのです。

連日のメイクで荒れた肌、腫れ上がって開かない目、狭くて汚れた一人暮らしの部屋――。瑛人さんは当時の心境をこう振り返ります。

「正直、ちょっと虚しいと思いました。やばい、みんなが遠くにいる、って。いつもなら地元のお寺に友人と鐘をつきに行っていたはずなのに。自分にとってそういう時間が大切だったんだなと、あらためて気付いたというか」

音楽での成功は手に入れたものの、本当に大切なものを失ってしまったような感覚。焦りと不安定なメンタルから、次第に人間関係に疲れを感じるようになり、ついには携帯電話を捨てるという極端な行動にまで発展します。

そんな瑛人さんが新たに始めたのが、現在の海の家での仕事でした。昔からの友人が海の家を開業する際、「ぼくもやりたい」と共同経営に名乗りを上げたのです。夏の2カ月という限られた期間は、音楽から離れて、まったく違う世界に身を置くという選択でした。

「ぼくはひとつのことをずっと続けるのが得意じゃなくて。だからこうして音楽から離れて、海の家で新しい景色をたくさん見て過ごすと、シーズンを終えて音楽仲間に会ったとき、不思議と新鮮な気持ちになれるんです」

さらに現在は3人の子どもがいる瑛人さん。「子どもがいるとめっちゃモチベーション上がりますね」と笑顔で語ります。音楽の世界で得た成功とはまた違う、日常の中にある確かな幸せを、瑛人さんはこの海の家で見つけているようでした。

「自分に嘘をついている気がする」すべての人へ

音楽活動と海の家での仕事を行き来する瑛人さんに、はたらく上で大切にしていることを伺いました。

「毎年何が起こるか想像もつかないので、あまり自分で将来のことを勝手に決めつけないようにしています。何が起こるかわからないけど、『どうなっても大丈夫だ』と思うようにする」

瑛人さんにとって、『香水』のヒットも、その後の虚無感に駆られた時期も、海の家の共同経営も、すべてが予想していなかった展開。将来設計を「決めすぎない」というスタンスは、人生に起こるすべてを楽しむための大切な姿勢なのかもしれません。

そんな瑛人さんにも、たったひとつだけ、将来への明確な目標があります。

「“楽しい”のプロフェッショナルになりたい。どんな状況も『全部楽しかった』って言えるようになりたいです。10年後でも、20年後でも、40年後でもいい。つまらないことも“楽しい”に変換できる、変換上手になりたいですね」

「仕事だけに楽しさを求めなくてもいいと思うんです。大事なのは、自分に正直になること。『あ、これは嫌いだな』『これは好きだな』って、実際に体験して分かることがたくさんある。頑張ることも、ときには手を抜くことも、好きなことを見つけることも、嫌いなことを見つけることも、全部“自分に正直になる練習”なんだと思います」

この日、海の家のステージで瑛人さんが歌った楽曲は『俺は俺で生きてるよ』。その歌声は、迷いながら進もうとする私たちの背中を、そっと押してくれているようでした。

※今回お伝えし切れなかったフルバージョンの動画はYouTube『スタジオパーソル』にて公開中

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

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