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『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』薬売り役・神谷浩史さんインタビュー|「薬売りは煙みたいな存在ですけど、それに触れるようにするのが大切だと思っています」

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2025年3月14日(金)より『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』が全国公開!

天子の寵愛を受けるフキと、御年寄として規律と均衡を重んじるボタンが対立する大奥で、今度は人が燃えて消し炭になる事件が発生。薬売りは大奥に渦巻く闇と陰謀を突き止め、モノノ怪を鎮めることができるのか!?

第二章の公開を記念して、薬売り役・神谷浩史さんのインタビューをお届け! 今作の鍵を握るフキとボタンの印象や『劇場版モノノ怪 唐傘』を経て感じた薬売りの在り方などを語っていただきました。

【写真】『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』神谷浩史インタビュー

大奥を舞台に描かれる全三章の劇場版は「面白い試み」

ーーまずは第一章である『劇場版モノノ怪 唐傘』公開後の感想をお聞かせください。

薬売り役・神谷浩史さん(以下、神谷):予告映像を拝見した時に「これはすごいな」って思ったんですけど、まさかあのクオリティが90分続くとは。画面の情報量が多くて、「正気かよ」と思いました(笑)。公開後の反響というものは意外と僕の耳には届かないんですが、監督たちスタッフの皆さんに「薬売りかっこよかったです」という風におっしゃっていただけたのは、ありがたかったですね。

ーー第一章の収録の時点で、劇場版が全三章で描かれることは知っていたのでしょうか?

神谷:中村健治総監督(第一章では監督)から聞いていました。「三章全て、大奥を舞台でやっていきます」と。非常に面白い試みだと思います。「ということは今後の第二章、第三章のメインキャラクターになる人は既に登場しているんですか?」と尋ねたら、「そうです」とおっしゃっていて。それを聞いて「これは面白いな」と。その作品に僕も参加できることは光栄だと感じました。

ーーそして続編となる『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』ですが、台本を読まれた時にどのような感想を持ちましたか?

神谷:中村総監督から「第一章と比較すると第二章は非常にわかりやすい話になります」と言われていたんですが、その通りだと感じました。『モノノ怪』は、各話ごとにキーとなるモノノ怪がいて、それを誰かが呼び寄せてしまい問題が起きる、という物語になっています。つまり、モノノ怪を呼び寄せた原因となる悪者的な存在がいるわけです。ですが、第一章ではその悪者がいなかった。特定の誰かが悪いわけではなく、それぞれが置かれた立場や状況の中で動いた結果として生じてしまった事態だったので、言葉では説明しづらい難解な部分があったかもしれません。そういった面で、第二章ではモノノ怪を呼び寄せた原因だったり、いわゆる悪者的なキャラクターが描かれているので、物語としてわかりやすくなっていると思います。

ーー第二章は母と子どもの関係がテーマでした。

神谷:こんなこと言うとすごく安っぽいんですけど……泣けるんです。人間の情というか、母親の情ですよね。やっぱりすべての人間は母親から産まれているがゆえのものなのかもしれないですけど、母親の気持ちみたいなものがすごくダイレクトに伝わってきて、とてもいい話でした。

ーー今回のモノノ怪は「火鼠」ということで、“火”ならではの怖さがありましたね。

神谷:いわゆる火鼠の犠牲になっている人たちの断末魔が台本に書いてあるんです。「あじーあじー」って、最初は何のことだか全然わからなくて。絵を見てようやく「あ、そうか燃えてるんだ。それで“熱い”ってことか」って理解したんですけど、初めて台本を見たときは面喰いましたね。

煙のような薬売りを“触れる”ようにする役作り

ーー今回薬売りを演じるにあたって意識したことはありますか?

神谷:第一章の時に中村監督から「能動的に人を助けようとする性格設定です」という説明をしていただいて。なので、今回も隙あらば大奥に入って行こうとする。能動的に助けたいという気持ちがあるから、男子禁制の大奥という場所でも踏み入っていくわけです。そういったベースの部分は第一章と変わりません。

あと、薬売りは相変わらずケレンがすごい(笑)。火鼠の予告をご覧になった方はご存知かと思いますが、「火の用心」っていう短いセリフを言うのにものすごいカット数を使ってます。そういった「どこかひっかかる、無視できない」という存在感は気にしたほうがいいんだろうなと。でも、そういうものを音の要素で構成しようとするとトゥーマッチになりそうで。ケレンは絵やカット割りで十分に表現していただいてるので、音においてはどれだけトゥーマッチにならないかということの方が大切かなと。足し算ではなく引き算で薬売りを構成したいというのは第一章の時から考えていたことですが、第二章ではそれがより顕著かもしれないです。

ーー第一章を経て第二章で演じやすくなった、ということはありましたか?

神谷:どうでしょう……。当然監督が求めてるものを僕はボールとして投げたいわけです。キャッチャーミットを構えてるところにボールを投げたい、という心づもりで臨むんですが、『劇場版モノノ怪』のアフレコでは「ストライクゾーン広く取ってあるからとりあえず投げてみようか!いいね!じゃあ次のシーン!」みたいに、どんどん収録していく感じでした。もちろん「ここは決めてほしい」といった決め球のようなものも求められるんですけど、そこに至るまでの組み立てはこちらに任せていただいてましたね。

ーー時田フキ役の日笠陽子さん、大友ボタン役の戸松遥さんにお話を伺ったところ、神谷さんのお芝居について、「薬売りの輪郭をクッキリさせて、「ここにいる」という足跡をちゃんと残してくれている」とおっしゃっていました。

神谷:それは嬉しいですね。薬売りは煙みたいな存在ですけど、それに触れるようにするのが大切だと思っています。触れないものを触れないままにするのも表現の一つで、よく分からないミステリアスな魅力も感じられるかもしれません。でも僕はそういう役作りが苦手で、逆に触れるようになると、どうしても「地に足を付けている人」になってしまいます。

例えば、『進撃の巨人』で演じたリヴァイは「人類最強」と言われていて、近寄りがたいキャラクターだったと思いますが、僕が表現できるのは彼の弱さをフィーチャーすること。そういった人間臭さみたいなものでキャラクターを形成しました。その結果、触れる、そこに存在しているキャラクターになったと思います。

ただ薬売りを演じる時、そのやり方が正解なのかは今もわかりません。やっぱり煙は煙のまま、よくわからない存在にした方が良かったのかもしれない。ただ中村総監督から「最大64本ある退魔の剣と同じだけの薬売りが存在する」と説明されているので、64通りいる中に色々なタイプがいて、今回の薬売りに関しては、最終的な存在や正体は曖昧なままですけど、煙のように消えてはいきません。僕が演じる以上は、「いる時はちゃんといる」存在になってしまう訳です。僕の役作りの仕方がしっかり存在を感じさせてしまうからこそ、逆説的に輪郭もハッキリ見えたのかもしれませんね。

慣習に縛られた年長者と行動理由を求める若者。その構図はまるで「現代社会」

ーー第二章のメインキャラクターとして描かれているフキとボタンの印象をお聞かせください。

神谷:最初は「女って怖いな」と思いました(笑)。両方に言えることですが、自分の人生を大切にしながら、そうではない大儀(大事なこと)を見て行動できる冷静な人たちです。もしかしたら感情に任せて動いているように見えるかもしれないけど、そうではない部分もある。非常に頭が良くて、自分の信念に対して、忠実に行動できるタイプだと思います。最終的には好感が持てるキャラクターになりました。

ーー一見、対照的な二人に見えますが、自分が大切にしているものへの想いや信念の強さは共通しているなと。親や家系に抗えないところも。

神谷:どうしても人間は現状維持や古い習慣に則った行動を重んじるところがありますけど、その理由について考えることは少ないですよね。年齢を重ねた人はその年月の中で習慣の大切さを会得できているかもしれませんが、若い人は、目上の人や親に「こうするように」と言われた時、納得できる理由が欲しいはず。

「なぜ?」と疑問が残る故に、フキもボタンも突き動かされている気がします。納得できる理由や意味が必要な若い人と、理由や意味を考えることを失ってしまったり、説明することを放棄してしまった古い人の構図は観ていて歯がゆさを感じつつ、「現代にも通ずる縮図だな」と思いました。

ーーフキ役の日笠陽子さん、ボタン役の戸松遥さんのお芝居はいかがでしたか?

神谷:こんなことを言ったら老害だと言われてしまうかもしれませんが、戸松ちゃんは彼女が17歳でデビューして、制服姿で現場に通っていた頃から知っています。元々器用というか……もしかしたら不器用だったから感情が弾ける役の方がやりやすかったのかもしれないですけど、キャリアと共にそうではないものも表現できるようになった。今回も見事な存在感を見せてくれましたし、「やっぱり戸松ちゃんはすごいな」と思わされました。

日笠は元々上手で、何でもできる人です。本人はよくわからない、おせっかいな性格だけど(笑)。それでも、ちゃんとできているから不思議なバランスで成り立っている人だと思います。現場にいると非常に頼もしいです。

ーー戸松さんと日笠さんはほぼキャリアが一緒で、仲も良いそうです。

神谷:そうなんですね。というか日笠と仲が良くない人なんて、この世にいないでしょう。戸松ちゃんもそうですけど、基本的に「陽」の人たちなので、相性がいいんじゃないでしょうか。

自分が傷つくことも厭わない、薬売りと神谷さんに共通するもの

ーー神谷さんの中で、印象に残っているキャラクターやシーンはありますか?

神谷:あくまで薬売りはメインで活躍するのではなく、問題に対してのみ行動する人です。大奥に息づいている人たちが起こす問題を丁寧に描いてこそ、薬売りが活躍する。なので、第二章に関しても薬売り以外のキャラクターの見せ場が強く印象に残っています。特に広敷番の坂下(CV.細見大輔)は非常にいい役ですよね。薬売りという得体の知れない存在に対して、みんな彼のことを理解はしないけども助けだけは求めるという中で、坂下だけはある程度理解しようとしてくれている。好意的とも違うのかもしれないけども、協力的なところを見せてくれたりするので、登場人物の中だと変わった存在として映りますよね。今回の物語で多少彼の過去が描かれていますけど、大奥に何かを縛られている人ではあるんだと思います。

あとは、第二章から登場した老中たちも印象的でした。やっぱりベテランの声優さんたちってすごいですよね。もちろん若い頃からすごかったですが、当然皆さん若い頃だったら薬売りを演じている可能性のある方たちなわけです。そんな方々が歳を重ねて味のあるジジイの役をやるっていうのは、たまらないですよね。うまく説明できないですけれども、「楽しそうに演じてらっしゃるな」と。自分もベテランの年齢感に達した時に、こういう味のあるジジイの役が果たしてできるのだろうかと。すごく尊敬しますし、うらやましいです。

ーー第二章の公開を楽しみにしている方、そして『劇場版モノノ怪』をこれから初めてご覧になる方にメッセージをお願いします。

神谷:第一章からの続きものなので少しハードル高めに感じるかもしれないですが、第二章から観ていただいても全く問題ないです。ただ、興味があったら絶対に劇場で観てください。間違いないです、これは。第一章の時もお伝えしましたけど、『劇場版モノノ怪』はトリップムービーみたいなものなので、映像の洪水に身を任せながら観ていただきたいです。第二章も劇場という、その作品のためだけの贅沢な空間で観るにふさわしい作品になっているので、楽しみにしていてください。

ーー気が早いかもしれませんが、第二章のあとには、いよいよ完結編となる第三章も控えているかと思います。

神谷:第三章ですか? 知ったこっちゃないです(笑)。台本をもらってアフレコする段階になったら考えますけど、とりあえず目の前にあることをただ一生懸命やるのが僕の仕事なので、先のことは考えていません。というのも、今回の薬売りの特徴として、「傷つきながらも能動的に目の前で困っている人を助ける性格」と中村総監督に言われているからです。

先々のことを見越してはいるけど、基本的には目の前で起きた事象を片付けていくだけ。そのうえで自分が傷つくことも厭わないという部分に僕自身も共感できました。第三章までやることを考えたら、その過程や余計なことを考えてしまって、演じるうえでは邪魔になってしまいます。プロット的なものはぼんやりと聞いていますが、ただ「大変そうだな」と思うだけで、「スタッフさん、頑張ってくださいね」みたいな感じです。今のところは。

[インタビュー/永井和幸 撮影/MoA]

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