実写映画『WIND BREAKER』桜遥役・水上恒司さん×梅宮一役・上杉柊平さんインタビュー|桜の中で変わっていく心情——拳を振る理由を大事に演じました
2025年12月5日(金)より、映画『WIND BREAKER』が劇場公開されます。
不良がヒーローになる。破壊ではなく、街を守るために拳を振るうワルたちの闘いを描いた大ヒット漫画『WIND BREAKER』が、この冬ついに実写映画となって降臨!
アニメイトタイムズでは、劇場公開を記念して桜遥役・水上恒司さん×梅宮一役・上杉柊平さんにインタビュー! 今作の魅力や作品を作っていく上で意識されたこと、共演2回目となるお二人の印象などをお話いただきました。
【写真】実写映画『WIND BREAKER』水上恒司×上杉柊平インタビュー
実写の魅力として、生身の人間が演じることの“生々しさ”を心がけました。桜の照れる表現も「攻撃性」を出しています
──お二人が思う『WIND BREAKER』という作品の魅力を教えてください。
桜遥役・水上恒司さん(以下、水上):『WIND BREAKER』は今の時代に合わせて作られているところが魅力のひとつだと思っています。僕らは血生臭い不良作品を見て育ってきたので、始めはギャップを感じていました。
桜も、僕らで言う『クローズ』を見て育ったような男。でも入学した風鈴高校は思っていた学校と異なり、攻撃性がなく、むしろ「大切なものを守っていく」という人として極めて正しいものを持っている集団なんですよね。桜は違和感や拒否感を持ちながらも少しずつ馴染んでいくのですが、そこに僕は令和ならではの不良作品という印象を受けました。この実写映画でもその部分はちゃんと表現できたと思っています。また、桜たち防風鈴からすると、獅子頭連は悪として捉えられるような見せ方をしています。でも獅子頭連がなぜあんな風になってしまったのかには理由があり、原作ではその過去をしっかり説明し、いわゆる“分かりやすい悪”ではない描き方がされている。そこも上手く表現できたのではないかなと思います。
梅宮一役・上杉柊平(以下、上杉):本作の出演の話をいただき、監督から「映画を観終わった時に喧嘩したくなるものではなく、誰かを守りたくなる作品を作りたい」と言われました。そういう人を想える喧嘩ものって今までなかったので、いいなって思いました。監督と話したあとに原作を読んだら、みんなが誰かのために行動したり、自分の大切なものをどうにか守りたいっていう気持ちでまっすぐ向き合っている作品で。不良漫画なんですけど、不思議と温かい気持ちになりました。僕も、血が吹き出る、腕がなくなるみたいな不良作品を見て育ってきたので、すごく新鮮で、逆にちょっと戸惑ったぐらい。新しい感覚を覚えたのが最初の印象です。
──その魅力を実写映画で最大化させるために、どういうアプローチを取られましたか?
水上:実写化作品を演じるにあたり相当なハードルがありました。原作の漫画、アニメ、そして 2.5次元の舞台とすべてが好調にいっているところに、実写が参加することで挫くわけにはいかない。挫かないためにも生身の人間であるという“生々しさ”の部分を大事にしました。桜の気持ちの移ろいが今作の中心を担っているので、その生々しさをいかに鮮やかにできるかが僕のやるべきことだと思い、心掛けていました。
上杉:作品の中で、桜と獅子頭連の兎耳山丁子が大きく変化していくんですけど、自分はその二人と深く関わる梅宮という役。どういう風に二人を見守るかを意識しました。導くのではなく見守る。二人がどう変わっていくかは彼らにしか分からないことでだと思っていたので、どうやって見守るかというのは意識して現場に臨んでいました。
──桜の心の変化が中心を担うという話がありましたが、その部分を表現する上で何か意識されましたか?
水上:中心だからといって特別に何かをしたわけではなく、意識したのは“弱さ”。撮影当時25歳の自分が10歳下の思春期特有のものを表現するにあたり、自分の中の何を削ればいいのか。単純に声を高くして子供っぽくすればいいというものでもない。この難しさをどう成立させるかを考え、僕は「暴力性」「攻撃性」という表現に至りました。桜が照れるところも「攻撃性」を出しています。
──原作やアニメでは、桜の照れるところも魅力でした。
水上:漫画やアニメでは“キャラクター”として可愛らしく描かれていますが、実際の人間で桜のように照れる人はいない。二次元の世界だからこそできる表現だと思うんです。だから「目、綺麗だね」とか「お前は家族だ」「よく頑張った、ありがとう」って言われると、桜はたぶん手を出したくなってしまう。「触るな!」みたいに。それが桜の正義だと思いました。
──アクションシーンの撮影で苦労されたことはありますか?
水上:僕はたくさんありますけど、上杉さんは……(笑)。
上杉:おいおいおい(笑)。現場でも「今日、立っているだけじゃないですか」って言ってくるんですよ。今日は受けるだけでしょって。喧嘩は受けるのがいちばん難しい。受け次第で相手が強くも弱くも見えるんです。
水上:本当にそうだと思います。この間、十亀条役の濱尾君と番宣した時に、「僕は濱尾とやるのが一番大変だった」って話しました。受ける方が大変で、受ける方が上手ければ相手も上手く見えるんだぞって。
上杉:僕は基本受けでパンチも1回しか打たないし、あとは頭突きと、最後は台詞で相手をねじ伏せていく感じでした。なるべく兎耳山が弱く見えないようにしながら、パンチが効いてないように見える受け方、パンチをもらった時の目線の置き方、顔や体の戻し方、というところを徹底してやりました。そういう意味ではスキルを身につけないとやれないことがたくさんありましたね。作品全体でアクションシーンが多かったから、毎日アクションシーンがある水上君は、体もきついだろうし覚える手も多いから大変だろうなと思いつつ、手は簡単そうだなと思いながら見ていました(笑)。
水上:今回の実写で描ききれるのはここまでという制限がある中で、桜がどれくらい変われるかっていう塩梅は意識しました。人間そんなに簡単には変わらないと思いますし、都合よく変われないところが最初の質問でお話した“人間の生々しさ”だと思うんです。心情はアクションを大きく変えなくても自然と変わって見えると思っていたので、桜の拳を振る理由が変わっていく心情は大事にしていました。
──表情とかも変わっていくものですか?
水上:僕は芝居をするときに、表情を変えることがあまりないんです。中を変えるというか心の中を変えれば自然と出てくるものが変わってくる。それでいうと、桜が一番変わったのは行動かな。アクションも変わって見えていると思います。
上杉:最後のシーンの桜の顔、すごく良かった。
水上:あのシーンは萩原健太郎監督と撮影の岡村良憲さんにも、桜がどんな顔をするのか楽しみだってずっと言われていたんです。普段だったらプレッシャーに感じると思うんですけど、あのシーンに関しては「大丈夫です。任せてください!」って伝えていました。ラストに向けて逆算して、この時点では桜はこうかな、ああかな、って考えながらやっていたので、思っていたような表現になりました。
上杉さんは兎耳山とのシーンで、一方的に受けていた中で1回だけダメージを受けていたじゃないですか。その芝居を入れたことに驚きました。それまでずっと効いているけど効いていないように見せていた中で、ちょっとの弱さを見せるところが、この『WIND BREAKER』という作品なのかなと感じました。
上杉:梅宮はその1回で兎耳山に負ける気は1ミリもしていなかったと思うし、その時に現場で生まれたものがあったんだと思います。演技プランとして立てたことではなく、特にアクションは現場で生まれるものが多かった。アクションって約束事がたくさんある。その中で出てきたものを大事にしていったという印象を覚えています。
──梅宮は人格者というイメージがありますが、梅宮の考えに共感する部分はありましたか?
上杉:僕は梅宮を理解するのに結構苦労しました。原作を読んだりアニメを見たりしても、共感できない部分が多かったかもしれない。僕は生きていく上でそこまで他人を信じていないので、どちらかというと桜の気持ちの方がわかる。だから梅宮を自分が演じるにあたり、すごいギャップがありました。もちろん表面上では梅宮を理解できます。言っていることの正しさも分かりますが、体現するのは難しかったです。
水上君とはお互いの意思を組み取れる。撮影前にこの作品をどう作っていくかっていうのを二人で話せたのはありがたかった。
──劇中で防風鈴の掟が大事な要素として出てきますが、お二人が自分に課しているルールはありますか?
水上:「誠実に、実直に向き合うこと」ですかね。仕事に対しても何に対しても嘘をつかない。
上杉:大事だね。僕も、「母親が悲しむことはしない」かな。だから水上君と近いかも。
水上:ママ、好きなんですね。
上杉:仲良いね。父親は、自分も男だからわかるんだけど元気でいてれくれるだけで嬉しいんだと思う。でも母親ってそうでもない。色々気にするよね。
水上:母って偉大ですよね。
上杉:だから母親が嫌だなと思うことはしたくない。
水上:自分が嫌なことは人にもしないですよね。
上杉:本当にそう!
──『八犬伝』でも共演されているお二人ですが、第一印象とその後のイメージをお聞かせください。
上杉:水上君は本当にストイックで頭がいい。役の向き合い方とか、この役ってこうだよねっていうのを言葉にするのが上手。僕は微妙な心情みたいなものを言葉にするのが苦手。でも自分が理解する上でも、周りに伝える上でも、考えていることを言語化できるって大事だと思っている。水上君はそれがすごい得意なんだろうなって感じていました。
『八犬伝』は陽気な方や遊び心のある人たちが多く、その中に僕らも入ってわちゃわちゃしていて。作品もファンタジーだったので、現場もなんでもありみたいな空気感でした。今回は桜という役もあって、水上君は自分の時間を作ったり自分の空気を大事にしていたと思う。僕も僕で、みんなよりも上の学年の役でしたし毎回現場にいるわけでもないので、少し距離を取っていましたが、それでも水上君にはなるべく話しかけるようにしていましたね。僕にとってあまり印象は変わらず、馬鹿を装っている頭のいい野球部っていう印象です(笑)。
水上:その通りって感じです(笑)。
僕の上杉柊平というイメージは、作品でご一緒した時のイメージでしかないんですけど、上杉さんをいじる人ってあまりいないなと感じていて。
上杉:確かにあまりいじられないかも。
水上:僕は、人はいじられなくなったら終わりだと思っている。僕もいじられるようになっていかないといけないですし、ある種の隙も見せていかないといけない。でも締める所は締めるっていうのは、上の立場の人間がやらないといけないと思うんです。僕は上杉さんのことをいじれるからこそ、上杉さんはその両方の要素をしっかり持っている方だなと思いました。誰しもが上杉柊平をいじろうとはしない。でもその空気を感じたからこそ、僕は上杉さんにとって生意気な後輩みたいな感じでいたいなと。
『八犬伝』が初めての共演でしたが、その舞台挨拶で上杉さんにお会いした時、この作品も「頼むぞ」って言ってもらって。気が引き締まりました。
上杉:そうだったね。
水上:僕は役者ってこうあるべきというのが自分の中にある。それが正解だとは思いませんが、上杉さんとは僕の思っているモノを共有できる人だと思っています。現場で役者同士の言語って違ったりするので、同じ言語を持つ人を1人でも見つけることができるのは救いになる。上杉さんがいる現場は純粋に楽しいですね。だから上杉さんがどんな梅宮を作るんだろうって楽しみでした。桜として全てをぶつける役だったので、役の関係性と同じように本気でぶつかることができるお兄さんというイメージです。
上杉:撮影が始まる前に、声を聞きたいというのもあり、僕と水上君と橘ことは役の八木莉可子さんだけで一度本読みをさせてもらったんです。それで監督の意見も聞いた上でこの作品をどう作っていくかっていうのを、水上君と二人で話しました。桜役で主演を務める水上君と最年長で梅宮を演じる僕の、振る舞い方や現場の空気をどう作っていこうかという話を撮影前にできたのは大きかった。それは『八犬伝』で共演していたから話せたことでもあるし、さっき水上君が言ったようにお互いの意思を組み取れる相手だったというのが僕にとってもありがたかったです。
──ルックの作り込みはどうされたのでしょうか。衣装や美術セットも含めて、気づかれた点を教えてください。
水上:桜は特徴的なヘアなので、撮影期間は帽子を被らないと移動できなかったり、1週間に1回ブリーチをしていたので髪もパサパサだったりと大変ではありました。でもそれは役者として当たり前だと思っています。それよりも、ヘアメイクや衣装、そして美術の方々によって作品が成り立っているということを伝えていきたい。一例挙げると、風鈴高校の制服の素材って綿で皺になりやすい。衣装部にとって皺って嫌なんです。だからといって化学繊維にしてしまうとコスプレっぽくなってしまうので、綿の方が良いんじゃないかと僕からも提案させていただきました。でも撮影はつながりが重要。さっきまでここに皺はなかったのになんであるんだろうって思われてしまうので、衣装の部数や番手を増やしたり衣装部の方々の苦労がたくさんあったと思います。観る方には、そういった裏の部分にも思いを巡らせてもらえたら嬉しいです。
上杉:美術も照明もすごかったので、そういうところも見どころです。役者として、その空間にいたから作り込める気持ちというのもあるので。いろんな方のおかげで作品を作り上げることができたと思います。
──最後に、風鈴高校の制服を着用された感想をお聞かせください。
水上:緑!って思いました。自分的には、もう学生役は厳しいのかなって思ったりもします。すみません、33歳の上杉さんを前にして言うのもなんですけど……(笑)。
上杉:またか、またか! でも朝現場に行くと、自分の椅子の前にだけ電気バリブラシが置いてあった(笑)。僕は、みんなが信じて自分に声をかけてくださっているので、その気持ちを信じて向き合いました。「大丈夫です、任せてください」っていう感じ(笑)。
水上:長ラン、格好良かったです!
上杉:アクション用に動きやすくしてくださっていたのも良かったです。みんなが制服を着て集まっているところを見ると、気持ちもぐっと上がりました。休憩のとき、みんな暑いから上着を脱いでインナーで過ごしているんですけど、撮影が始まるとなると一斉に上着を着だす。その瞬間が最高に格好良かったですね。
[取材・文/万木サエ 撮影/佐藤ポン]