特集「プレママの夏のすごし方」リスクは一般人より高い…だからこそ知っておきたい妊婦さんの「熱中症対策」
夏は、プレママにとってはつらい季節。気温が上昇して湿度も高いので、疲れやすく、食欲もなくなってしまうという方も多いでしょう。
しかも近年は、最高気温35度を超える猛暑日も珍しくはなく、地域によっては40度を超える日が観測されることもありますから、暑さ対策や健康管理はしっかりと行いたいもの。プレママのからだの不調は、おなかの赤ちゃんに影響することだってあるのです。
というわけで、慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典先生に、プレママが夏を元気に乗り越えるために気をつけたいことについて、お話を伺いました。
プレママは熱中症になりやすい つわりが重なると要注意!
暑い夏は、突然のめまいや発熱、筋肉のけいれんなどに襲われる「熱中症」のリスクが高まります。からだが高温多湿の環境にうまく順応できずにそうした症状が表れると言われていますが、特にプレママは注意が必要だと吉村先生は言います。
「まず知っていただきたいのは、プレママは熱中症になりやすいし、重症化する危険もあるということ。ですから、これからの季節は十分に気をつけてください」と吉村先生。なぜプレママが熱中症になりやすいのか、簡単にご説明していただきました。
「妊娠中は、おなかの赤ちゃんを育てるために基礎代謝が上がるので、体温も高くなります。そのうえ気温が高いところにいると、さらに体温は上がりますね。そうすると、汗をかくことで体温を下げようとしますが、通常時より体温が高めなので、大量の汗をかくことに。すると当然、体内の水分が足りなくなって、場合によっては脱水症状が起こる。この脱水症状が熱中症を引き起こすわけです」(吉村先生)
そもそもプレママの場合、おなかの赤ちゃんに血液で酸素や栄養を届けているので、妊娠前より多くの水分を必要としていると吉村先生。なるほど、プレママが熱中症になりやすい理由はいくつもあるわけです。
一般的に脱水症状になると、まず血液の量が減り、血圧が低下して、からだに必要な栄養が行き渡りづらくなります。つまりプレママが脱水症状になると、赤ちゃんに十分な血液が供給できなくなり、赤ちゃんが循環不全を起こすこともあると言います。
吉村先生は、妊娠初期のつわりに苦しむプレママは「特に注意が必要」と指摘します。
「つわりの時期は、水分さえ思うように摂れなかったりしますよね。もともと脱水症状ぎみだと、汗をかくことで熱中症になりやすくなってしまいます。つわりと暑さが重なると、とてもつらいはずです。自分で水を飲めないとか、飲んでも吐いてしまうという場合は、すぐに医療機関を受診してください」(吉村先生)
水分補給は麦茶がおすすめ エアコンや日傘もうまく使って
水分をたくさん摂る場合は、「経口補水液か麦茶がいい」と吉村先生。特に麦茶は家庭で手軽に飲めるし、ミネラルが含まれているので、汗で失う塩分も補うことができるとのこと。一般にスポーツドリンクとして販売されている飲み物は糖分が多く、毎日大量に飲むと妊娠糖尿病になるおそれがあります。また糖を分解するために体内のビタミンB1が使われ、ビタミンB1欠乏症を引き起こすことがあるので、プレママの水分補給には向いていないようです。
「また風通しのいい服を着て、外出するときは直射日光に当たらないように日傘をさすなど暑さをしのぐための工夫もするといいでしょう。室内では夜でも冷えすぎない程度にエアコンを使うことをおすすめします。また(プレママに限らず言えることですが)熱中症の危険があるのは、真夏だけではありません。気温が35度を超える日が続くときは皆さん気をつけているんですよね。ところが、気温が28度ぐらいの梅雨の晴れ間などに発症することも多いのです。湿度が高くて汗をかきやすいのに、それほど暑くないと油断してしまうようです」(吉村先生)
妊娠中はホルモンバランスの変化などで体調が乱れがちなので、軽いめまいや立ちくらみを感じても「貧血かな」などと軽く見てしまいがちですが、汗をかく時期にそんな不調があったら、無理をせず、まずは水分を補給して、涼しい場所で休んで様子を見るようにしましょう。
なお日本救急医学会は、これまで3段階だった熱中症の分類に、最重症群「IV度」を追加し、Active Cooling(積極的な冷却)を含めた治療の早急開始を提唱しています(※1)。めまいや吐き気、けいれんなど熱中症の症状が表れたら、まずは涼しい場所でからだを冷やしましょう。意識がなければ、すぐに救急車を。水分補給できない場合も、医療機関を受診しましょう。
最後に吉村先生からアドバイスをいただきました。
「妊娠中に熱中症になりやすいのは事実ですが、基本的によほど無茶なことをしない限り、また症状を放置しない限り、そんな心配になるようなことはないので、あまり不安にならないでください。ただ、プレママの“夏のすごし方”は少し注意が必要ですよ、ということがわかっていただければと思います」(吉村先生)
〈参考文献〉
※1 熱中症診療ガイドライン2024(日本救急医学会)
(https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf)
【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。