1歳半でようやく言えた「ママ」。その後言葉が増えず…支援を求めると、壁が次々と現れて!?
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1歳半でついに発語が!安心したのもつかの間……
発語がないことを心配していた次男かーでしたが、1歳半で「ママ」という言葉が出たことで、私は「これからきっと言葉が増えていくはず!」と安心していました。言葉の発達に良いものをと思い、玩具や絵本などもたくさん用意して言葉の発達を促そうとしました。しかし、そこからかーの言葉は一向に増えませんでした。
再びかーの言葉の発達に悩み始めたところ、それに加えて新たな困りごとが出てきました。それは母である私に対する執着の強さです。私がトイレに行くなど、少しでも姿が見えなくなると大泣きするようになったのです。このような行動は定型発達の子どもにもよく見られることかもしれませんが、かーの場合は、その程度が非常に激しいものでした。
ある日、私に用事があって、かーを実家に預けたときのことです。かーに気づかれないように、そっと出かけようとしたのですが、ちょうど私が行くところをかーに見られてしまい、大泣き。以前であれば、遊んでいるうちに切り替えができていたのですが、その日は私が迎えに行くまで数時間泣き続けていました。
児童発達支援を利用したい!保健所に連絡すると……
このようなことが何度か続き、どのように対処したらいいのか困るようになってきました。そこで以前、長男のりー(知的障害/知的発達症、ASD/自閉スペクトラム症と診断)が利用していた児童発達支援施設を頼りたいと考えるようになりました。
さっそく保健所へ連絡し、児童発達支援施設を利用したい旨を伝えました。しかし、かーの言葉が出たことで、以前から発達をみてくれていた保健師さんに「もう大丈夫です」と伝えたことに加え、地域の担当者も代わったことで、改めて相談をすることになってしまったのです……。一時の安心で余計なことを言って、再び支援につながるまでに時間がかかってしまったと後悔しました。
悔やむ気持ちと焦りを抱えながらも、新しい保健師さんにかーの様子を見てもらったところ、発達支援が必要という判断になり、児童発達支援施設の利用ができることになりました。幸い、希望していた施設に空きがあり、すぐに通えることになったので、かーは3歳前から児童発達支援施設に通い始めました。通い始めた当初は泣いてばかりで、出されたおやつも食べないほどでしたが、先生方の丁寧な対応を受け、徐々に環境にも慣れていき、お気に入りの先生を見つけたあとは、気持ちも安定して発達支援を受けられるようになりました。
人との関わりが好きな次男。しかし、幼稚園入園には壁が!?
そして、私は同時に、満3歳児から通える幼稚園を検討し始めました。というのも、かーは人と接するのが好きで、同じ年頃の子から大人まで、あまり人見知りもせず、楽しそうな雰囲気を感じるとどこへでも入っていきます。動物にたとえるならば、次男かーは犬のような素直さと人懐っこさがありました(ちなみに長男は気まぐれで接してくる猫のようでした)。
また何度か同い年のいとこと遊ぶ機会があったのですが、その子の後ろをくっついて歩き、手をつないだり、一緒にいたずらしたりととても楽しそう。「この子には集団の中で過ごしてほしい」とより強く感じました。
以前から長男りーの通っていた幼稚園へは、かーも通わせたいと考えていることは伝えていました。その時は歓迎してくれていたので幼稚園へ連絡してみたのですが……りーの時のようにマンツーマンでつくことができないため、入園はできないという返事が。
かーが話せないということは伝えていました。しかしかーの様子を見てもいないのにそう言われてしまったことに納得がいかず、本当に難しいかどうか、本人の様子を実際に見てから判断してほしいと食い下がり、かーを連れて幼稚園へ行くことになりました。
幼稚園に通っていた時の長男りーは、初めての集団生活ということに加え、周りを見て動くということがあまりない子どもだったので、何をするにも先生の手が必要でした。幼稚園の先生は、おそらくかーも長男と同じような状態の子どもだと思ったのでしょう。しかし、かーは、小集団ですが児童発達支援施設に通っていたことと、もともと人への興味もある子どもだったので、話を聞いて人と同じことをやろうとする姿が見られていました。
幼稚園でそのことを伝え、また実際にかーが先生の話をよく聞いておもちゃを出したり片づけたりする様子を見ていただいたことで、これなら通っても大丈夫という判断を受け、無事に幼稚園に通うことができるようになりました。
こうして満3歳から幼稚園と児童発達支援施設に通えるようになった次男かー。兄とは違う姿が見えてきました。その様子はまた別の機会に書いていこうと思います。
執筆/かしりりあ
(監修:鈴木先生より)
一般的に2歳までに単語が、3歳までに二語文が出れば正常域と考えられています。かーさんは言葉が増えなかったり、入園を断られたりした時点で医療につなげることが必要だったのかもしれません。言葉の増えないお子さんはまず難聴を疑うことから始まります。聴性脳幹反応(ABR)と言う検査で客観的に評価できます。難聴には多少聞こえる軽度から全く聞こえない重度まであります。場合によっては言語聴覚士(ST)によるハビリテーションも必要になります。発達支援施設と医療と連携することが重要です。奥手なお子さんは集団に入ってから言葉が増えることもある(表出型言語遅滞)ので、かかりつけ医と相談しながら経過を見ることが重要です。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。