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「I'm donut ? (アイムドーナツ ?)」、「AMAM DACOTAN(アマムダコタン)」のオーナーシェフが語る、表参道・原宿と行列の理由

OMOHARAREAL

表参道・原宿エリア「I’m donut ?(アイムドーナツ)」を手で提げて歩いている人を見ることが多くなった。それもそのはず。2023年7月に「アイムドーナツ ? 原宿」、9月に「アイムドーナツ ? 表参道」が立て続けにオモハラエリア内にオープン。連日行列は後を絶たない。

運営をしているのは福岡に本社を置く株式会社ヒラコンシェ。青山通り沿いだけで3つの行列を作る“行列メーカー”だ。代表の平子良太さんはシェフとして経営者としてタクトを振る人物だ。「アイムドーナツ ? 表参道」店舗オープンの際もキッチンに立つ姿を見ていたが良い意味で、いわゆる職人気質なシェフらしからぬオシャレな見た目が斬新。「アイムドーナツ ?」や「AMAM DACOTAN(アマムダコタン)」の世界観と繋がり、なるほどと納得した次第だ。

一過性のトレンドとしてだけではなく、オモハラエリアの新定番として根付き始めている「アイムドーナツ ?」と「アマムダコタン」。オーナーシェフとして腕を奮う、平子シェフとオモハラの街には果たしてどんな結びつきがあるのか。あらためてオモハラのパンとドーナツ好きを魅了する“小麦粉の魔法使い”に表参道・原宿の街について話を聞いた。

平子良太(ひらこ りょうた)
1983年長崎県生まれ。ホテルレストランに勤務後、東京のイタリアンなどで働き、さらに料理の技術を磨く。福岡のイタリア料理店で料理長を務めた後、2012年「パスタ食堂ヒラコンシェ」を独立開業。イタリア料理店、ドライフラワーショップ、ベーカリー、カフェなど多分野にわたって店舗を展開する。2021年10月「アマムダコタン 表参道」をオープンを皮切りにドーナツ専門店「I’m donut ? (アイムドーナツ ?)」を中目黒・渋谷・原宿・表参道と次々にオープンさせ話題と人気を呼んでいる。2023年10月にはアマムダコタンの姉妹店「dacō(ダコー)」を世田谷区・桜新町にオープンした。

「すぐ空いている物件を見てしまう」

表参道交差点、山陽堂書店を左に曲がって青山通りを真っ直ぐ歩いていくと「アイムドーナツ ? 表参道」がある。そこにたどり着くまでに行列を発見するはずなので、見過ごしてしまうことはまずないだろう。取材日も多くの人が「アイムドーナツ ?」を求め、青山通り沿いに列を成していた。

2023年10月にオープンしたばかりの「アイムドーナツ ? 表参道店」。ピンク色がテーマカラーとなっており、初となる一棟型の店舗。

パステルピンクの外壁が目を引くアイコニックなオープンキッチンの裏から、平子シェフの待つ4Fに通してもらう。調理場のある2Fから上はスタッフのバックルームになっていて、4Fはミーティングや取材などに使われることが多いという。平子シェフによってセレクトされたインテリア、飾られたアートたちは「アイムドーナツ ?」の世界観を体現。その感性を語るに、あまりにも雄弁だ。

青山通りを窓から見下ろす部屋の中央。シェフと知らなければ、そうは思えないスタイリッシュな装いで座る平子シェフがいた。鮮やかなブルーの差し色が効いた身幅の大きいコートが、なんだか魔法使いを思わせる。

開口一番に渋谷、とりわけ表参道・原宿の街に出店を集中させている理由を問いてみた。

「いちばんの理由は、表参道・原宿がよく行く街で、好きだったからですね。20代前半の頃、それこそ18、19年近く前になるのかな。このエリアの飲食店で働いていたから街を良く歩いていたし、馴染みがあるんですよ」

予想はしていたが、やはりだ。しかし、ただ馴染みがあって好きなだけではない。聞けば、アマムダコタンを表参道に開店する際、立地という点に関してかなりこだわったそう。

「アマムダコタンではドーナツ*だけではなく、いろいろなパンを販売しています。だからとにかくいろいろな人に来てもらえる立地が良かった。もうひとつ、ドーナツに関しては鮮度が命。いい状態でどんどん売らないといけない。だからとにかく立地が良いところで探していて、その条件を満たす候補に表参道が入っていたんです。」

*アマムダコタン表参道でも展開メニューのひとつとしてドーナツの販売を行っている。

そんな中で出会った物件が現在の「アマムダコタン 表参道」がある場所だった。開店をきっかけに平子シェフの生活圏、行動範囲は再び表参道・原宿の街にシフトしていったそうだ。

「歩いていると、すぐ空いている物件を見てしまうんですよ。そうしているうちに周辺でも良い物件に出会うことが多くなり、現在に至ります」

街を歩きつつ、物件を常に意識している平子シェフが、良いと思う物件とはどんなものなのか。

「物件の面構え、空気感、周辺の雰囲気、自分の直感でピンと来るもの。最低限の判断条件はありますけどね。例えば(店同士が)近すぎないこと。皆さん、近いと思われてるかもしれないですけど(笑)。この街に店を出したいから探しに行く。ということはしません。本当にタイミングと出会いですね」

運命的な物件の出会いから、東京への出店を決めた平子シェフ。表参道・原宿の街ではとくに物件との出会いに恵まれたようだ。実際に出店してみて、その手応えをどう感じているのか?

「側からみると余裕そうに見えるかもしれないけれど、毎日必死というのが本当のところです。クオリティ、品質、ブランディング、攻めながらも守っていかなきゃいけないことがたくさんありますから。ありがたいことに連日お客さんに並んでいただいていることには感謝しています」

行列もまた、「アマムダコタン 表参道」と「アイムドーナツ ?」の代名詞となっている。行列を呼ぶ“生ドーナツ”のおいしさについて話を聞いてみよう。

大ヒットの“生ドーナツ”「本当は行列をつくりたくない」

表参道・原宿に「アイムドーナツ ?」が2店舗できたことで、このエリアらしい高品質で趣向を凝らしたドーナツや新しいドーナツショップも注目を集め、表参道・原宿では“ドーナツブーム”といった様相を呈しているのも事実。一世を風靡した「アマムダコタン」のマリトッツォ*に続き、「アイムドーナツ ?」はオモハラドーナツブームに拍車をかけたと言っていいだろう。当の本人はどう思っているのか?

*表参道店に先駆けて、福岡・六本松にある「アマムダコタン」では2020年に豊富な種類のマリトッツォを開発し、販売した。2021年の「マリトッツォ」ブームの震源と言われている。

「もともとおいしいドーナツを作ろうと言う気は全然なかったんです。でもウチのパン生地のおいしさには自信があったので、いつか揚げてみたいと思っていました。そうしてできたのが看板商品の“生ドーナツ”です。中にカスタードが入っているかのような食感は他に形容しがたい。火はちゃんと入っているけど、あえて“生”と名付けました」

計画的に先を見据えて何かを実現する、というよりはその時の直感と好奇心で決断して行動に移すことが多いと、ヒラコンシェの運営を振り返る。それは自身が作るものに絶対的な自信と自負があるからこそだ。人は、そういうものに惹かれる。

とろけながら、ふんわり、しゅわっと溶けるような、なんとも言えない揚げたての“生ドーナツ”は今まで体験したことがない食感を味わえる。そんな「アイムドーナツ ?」でしか食べられないドーナツを求めて、人々は行列を作る。青山通りだけでも「アマムダコタン表参道」、「アイムドーナツ ? 表参道」、「アイムドーナツ ? 渋谷」と3つの行列を作っており通るたびに興味を引くが、これも平子シェフの作戦なのだろうか。

「よくそう言われるんですけど、本当は行列を作りたくないんですよ(笑)。だけどオペレーションの都合上、並んでいただくほかないんです。レストランのように番号札で待たせる営業スタイルでは成立しません。より多くの人にいちばんおいしい状態で届けるための苦肉の策で、できるだけ行列に並んでいただく時間を短縮する努力をしています」

実際「アイムドーナツ ? 表参道」では事前に注文表への記入をすることで、スムーズに商品の注文と提供を可能にしている。さらに、メニュー数を限定し、イートインスペースを設けたJR原宿駅前の「アイムドーナツ ? 原宿」は特に提供が早いという。並んでいるお客さんはもちろん、周辺に迷惑をかけないような施策を試行錯誤している。

しばらくは表参道・原宿エリアへの出店はひと段落だと語る平子シェフ。2023年10月5日には、世田谷区桜新町にアマムダコタンの姉妹店「dacō」を開店したが、今後は果たして。

「アマムダコタン表参道」をオープン後、「アイムドーナツ ?」として最初の店舗である「アイムドーナツ ? 中目黒」を翌年開店。往年の名作「ドラゴンクエスト」に登場する僧侶をモチーフにした制服が話題となった。

前述の通り、おしゃれな見た目も平子シェフの特徴であり、その感性はダイレクトに「アイムドーナツ ?」の世界観にも落とし込まれている。そのルーツに少なからず表参道・原宿で過ごしたことは影響しているのではないだろうか。せっかくの機会、時代を遡って振り返ってもらおう。

平子シェフと『CHUM』

「アイムドーナツ ?」のロゴやショッパー、持ち帰り用のボックスは、ポップでありながらも直感的でミニマルなデザイン性とのバランスが絶妙だ。その点も表参道・原宿エリアには非常に親和性が高いと言える。

「パッケージも全部オリジナルでデザインしています。新しく出るフリーザーバッグも完全にオリジナルですし、制服もパターンから作っています。自分がファッションが好き、というのはもちろんそうなんですけど、やっぱり表参道・原宿はファッションの街。感度の高い人に来てもらいたいというのはありました。なので見せ方にはかなりこだわっています」

鮮度が命という生ドーナツのために開発された新しいフリーザーバッグ。一目で分かるロゴデザインにポップな素材使いとカラーリングが絶妙だ。主張しつつも自然と日常に溶け込むアイテムデザインに、平子シェフのセンスがひかる。

ドーナツやパンのおいしさはもちろん、革新的な商品と、シンプルに訴求するデザイン。言うなればスイーツ界のAppleではないか。平子シェフは言わば小麦粉を操るスティーブ・ジョブズ。そう言えば、ジョブズも魔法の杖を振るという、そんな逸話が語り継がれていたような。さておき、かつて表参道・原宿で働いていたことがある平子シェフに当時の思い出を聞いてみた。

「タレントのちはるさんがオーナーとして経営する『CHUM(チャム)』*という店が当時、青山にあったんですけど、そこで働いていました。」

*2005年に青山からJR目黒駅近くに「CHUM APARTMENT(チャム アパートメント)」として移転。2022年に武蔵小山に移転し、2023年1周年を迎えた。

『CHUM』で働くことになったのも平子シェフの一目惚れからだったという。知人からカフェが可愛いと聞いて、足を運んだ際、店内の可愛い世界観を見て働きたいと思い飛び込んだ。そこで、飲食を通じて間近で見る最先端のファッションやカルチャーを享受し、自らの感性を育んでいく。当時の平子シェフに原宿の街はどう映っていたのだろうか。

「振り返ると、当時の原宿は若い子達が古着だったりファッションをもっと楽しんでいたかな。表参道には、今よりももう少しだけ街のパン屋さんだったり、八百屋さん的なローカルのエッセンスが混在していてたような気がしますね。だけど20年前とはいえ、やっぱり今と同じようにファッションの街としての存在感がありました。」

そんな風にオモハラの街を眺めながら働いていた『CHUM』は業界の方を中心にクリエイティブな方が多く訪れる店でもあったそうだ。そこでの毎日はきっと刺激的だったに違いない。特に印象深い出来事はどんなものだったのだろう。

「グリーンアーティストの川本諭さんと仲良くなったんですね。いろいろと当時の表参道・原宿のイケてる物事を教えてもらっていましたね」

川本諭さんは『GREEN FINGERS』というプラントアートプロジェクトを行い、ニューヨークやミラノにもショップを開くグリーンアーティストだ。現在は拠点をミラノに置いているそうだが、平子シェフとの交流は今でも続いているという。2005年当時の、オモハラのイケてる場所とは一体どこだった?

「カフェの走りと言われる、山本宇一さんのLOTUS(ロータス)に連れて行ってもらったことは、印象的でした。川本さんのビッグスクーターの後ろに乗せてもらってつれて行ってもらったんですが、22歳だった自分にとってはとても刺激的でした。その流れから行くカフェの、作り込まれた最先端の空間は、なおさらカッコよく感じましたよ!東京って洒落てるなー!と思いました(笑)」

現在も人気のカフェ「LOTUS」は当時最先端のスポットとして注目を集めていた。今もなおクールな東京を凝縮した場所だ。
(編集部撮影)

時を経て、表参道・原宿に店舗を構える平子シェフが今、街を眺めて思うことを聞いてみた。

「パンとドーナツとディスコ」


仲が良いというアーティスト/イラストレーター•Ed TSUWAKIさんのアートがかけられていた。「アイムドーナツ ?」にも、平子さんにも似合うポップな作品。やはり類は友を呼ぶ!?

「やっぱり表参道・原宿はファッションの街。だからこそ、若い人たちがおしゃれをして出かける文化があったらいいなと思います。気合いの入った服装でも笑われないような場所がもっとあっても良い気がします。僕の過ごした時代よりも前に遡りますが、ディスコのように週末に繰り出しておしゃれを楽しむ文化が表参道・原宿には似合う。そこに集まる人たちのコミュニケーションの中に、僕たちの作るドーナツやパンもあったら嬉しいですね」

平子シェフが20代を過ごした2000年代の表参道・原宿よりも、今は良くも悪くもファッションが全体的にカジュアルになっていることは否めない。ファッション好きな平子シェフらしいアイデアと言える。もしかしたら、今後平子シェフがそのようなコミュニティの受け皿を手掛ける可能性も?そんな期待を込めて、最後に表参道・原宿で将来的に実現したいことを尋ねた。

クリエイティブ領域に人脈が広い、というのも平子シェフの人柄と感性ならではかもしれない。よく行くお店は「CIBONE/HAY」でインテリアを物色しに覗くのだとか。

「僕はまだイチ事業主にすぎないけど、これからもっと影響力や発言力を持つことができたら、街の中心となるところで、文化を作っていくような一人になりたいとは思っています。もしそうなれたら、さっき言ったようにおしゃれをして遊ぶ場所作りに関わってみたいですね。今はちょっといっぱいいっぱいですけど(笑)」

柔らかな語り口で、淡々とその想いを語ってくれた平子シェフ。表参道・原宿らしいユニークなアイデアを生むクリエイターであるとともに、ファッションと街に対して熱い情熱を抱いている人だった。その旺盛な好奇心と探究心でこれから、どんな手法で私たちを楽しませてくれるのか。平子良太シェフが魔法の杖を振る、その動向からは引き続き目が離せない。

Photo:Takashi Minekura
Interview・Text:Tomohisa Mochizuki

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