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どうなる「東九州新幹線」 宮崎県が調査した3ルートの詳細は【コラム】

鉄道チャンネル

今回の調査対象となった3ルート(資料:宮崎県)

宮崎県が東九州新幹線に関する調査結果を発表しました。今後の県の新幹線整備に向けた基礎資料として位置づけられるもので、「日豊本線ルート」「鹿児島中央先行ルート」「新八代ルート」の3ルートについて、それぞれ整備費や時短効果などを試算しています。

福岡市から大分市・宮崎市附近を経由して鹿児島市へ向かう東九州新幹線は、1973年に基本計画路線に位置づけられました。以来およそ半世紀にわたり目立った進展はなかったのですが、最近では2023年に大分県が「久大本線ルート」を提示するなど、整備計画への格上げを目指す動きが見られます。

本稿では宮崎県の調査結果について、各ルートの特徴などをかいつまんで紹介します。なお、調査結果にも「本調査は各ルートの基礎的な検討調査であり、個別ルートの優劣や実現性を保証するものではない」とある通り、特定のルートを推すものではないことは予めご了承ください。

どこに新幹線を通すのか 3つのルートを比較

今回宮崎県が調査した3つのルートのうち、整備区間が最も長くなるのが「日豊本線ルート」です。博多から小倉までは山陽新幹線と共用し、その先は日豊本線に沿って九州の東側を南下。大分・宮崎を経由して九州新幹線の終点である鹿児島中央へと向かいます。

一般に「東九州新幹線」と言った場合、ほとんどの方が思い浮かべるのがこのルートでしょう。本州から宮崎までの最短ルートとなっており、時短効果は3案で最大。本州から山陽新幹線でやって来る旅客、北部九州~大分県の移動需要も見込めるため利用者便益も大きいのですが、整備区間の長さがネックです。

なお、2023年に大分県が「久大本線ルート」を提示したことで、福岡から「主要な経由地」である大分までは日豊本線に沿わない可能性も浮上しています。

「鹿児島中央先行ルート」は、日豊本線ルートの宮崎~鹿児島中央間を先行整備する案です。整備区間は最短ですが、時短効果を最大化するには全線開業を待つ必要があります。

たとえば県北部の延岡から福岡へ向かう場合は、このルートで鹿児島中央まで出て既存の九州新幹線で北上すれば1時間ほどの時短効果が期待できますが、北九州市へ向かう場合は現行のルートが最速となるため全く効果が発揮されません。

最後に「新八代ルート」。宮崎から都城を経由し、鹿児島中央ではなく新八代で既存の九州新幹線と接続する案です。建設しなければならない路線延長は鹿児島中央先行ルートより長くなるものの、福岡~宮崎間の時短効果は高くなります。

ただし基本計画に定められておらず、根拠法が存在しません。また鹿児島中央先行ルート同様、宮崎県北部への移動という点では時短効果は限られます(宮崎から延岡まで延伸するアイデアも出てきています)。

整備費・費用便益・需要予測

これらのルートで新幹線を建設するとして、その路線延長や整備費はどのくらいの規模になるのでしょうか。調査結果によると、日豊本線ルートは路線延長379km、整備費3兆8068億円。鹿児島中央先行ルートは路線延長103km、整備費1兆642億円。新八代ルートは路線延長141km、整備費1兆4978億円です。

各ルートの整備費(資料:宮崎県)

所要時間は宮崎市・都城市・延岡市~福岡市・北九州市間で算出されています。一例として、宮崎市~福岡市間は現状の231分(宮崎から鹿児島中央を経由し九州新幹線で北上)から98分となり、2時間以上の時短効果が得られる想定です。

各ルートの所要時間と現状との差分(資料:宮崎県)

費用便益については建設開始を2045年度、運行開始を2060年度と仮定して試算。今回の調査では時短効果や運賃低減などの「利用者便益」、運行事業者が得る「供給者便益」、そして「残存価値」の3項目の合計を便益としており、計算期間は開業後50年間としました。結果、平均成長ケースでは、社会的割引率(※)が1%以下ならどのルートも1以上、2%・4%であれば1未満となります。

平均成⾧ケースにおける社会的割引率ごとの費用便益の試算結果(資料:宮崎県)

最後に需要予測について。新幹線開業年度の輸送密度は、日豊本線ルートが1万2416人、鹿児島中央先行ルートが5701人、新八代ルートが8710人の見込み。新八代ルートでは他の交通機関(航空・バス)からの転換が他ルートと比べて多めに見積もられています。

平均成⾧ケースにおける需要予測結果(区間平均)(資料:宮崎県)

※社会的割引率は「将来的に価値が失われていくものの価値の逓減度合」(国土交通省)を示しています。平成16年に国債等の実質利回りを参考値として当面4%とし、必要に応じて見直すと定められました。本稿ではその数値の妥当性については言及しませんが、近年では今回の調査のように、比較のために1%や2%など参考とすべき値を設定しても良いとされています。

あくまでも基礎調査

整備新幹線は残すところ北海道新幹線、北陸新幹線、西九州新幹線の全線開業のみで、「次の新幹線」に向けた動きが各地で活発化しています。基本計画路線は11路線もあり、東九州新幹線が浮上するかどうかはなんとも言えません。

今回の調査でも”「整備計画」に格上げされる目途は立っていない”と報告されており、すでに駅候補地などの案も出ている四国新幹線などと比べると出遅れている印象は否めません。

最初に述べた通り、宮崎県は今回の調査を「基礎資料」として位置づけており、調査結果については「広く県民の皆様と共有し、新幹線整備に対する理解と関心を高めるために活用してまいります」としています。

今後はこうした資料を叩き台として「東九州新幹線をつくるべきか」「建設するとしたら、どのルートを選ぶべきか」といった議論が交わされていくことになります。直近では来年1月15日に「みやざきの新幹線を考えるシンポジウム」の開催が予定されており、県民に向けた説明の場も設けられていくでしょう。

記事:一橋正浩

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