認知症の人は家にいるのに帰りたくなる…居心地のよい場所を求めてさまよう不安の霧の中の世界とは?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】
14:ここより居心地のよい場所を求めてさまよう不安の霧の中の世界
○エピソード
認知症のある父は、自宅にいるのに「家に帰る」と出ていこうとします。「新築して20年も住んでいる家じゃないの」と話しても、「ここは自分の家じゃないから帰る!」と聞きません。
【あるある行動】家にいるのにそわそわして「帰る」と出ていこうとする
認知症のある人は、脳の病気や身に覚えがない失敗体験による影響で、自分で不安の原因を突き止めて解決することが難しくなっています。まさしく、「原因のない不安」が認知症のある人の不安の特徴です。
不安が大きければ、「安心できる存在や場所」を求めたくなるのは当然です。認知症の人の「安心できる存在や場所」の一つが、「帰りたい場所」なのです。
色濃く残る昔の記憶の中で、それはどこなのでしょうか?「親」「実家」「職場」など、人にはそれぞれ思い入れのある存在や場所があるかと思います。この場面では「家」と言っていますが、それは昔の家そのものではなく、かつての時間や場所であり、物理的な場所とは限りません。本人が求めているのは「記憶の中にある家」なのです。それは”心が安心できる源”であり、”時空を超えた存在”です。見当識は、時間→場所→人の順番で失われいていくといいます。人は最終的には「物」ではなく、より思い入れの強い「人が存在していた時間や場所」を求めるのかもしれません。
現在の場所が「居心地のよい場所」になれば、「帰りたい」という気持ちを和らげることができます。本人を取り巻く環境を「心地いい場所」「なじみの人を感じられる場所」に整えることが重要になります。
○もしあなたがこの世界にいたら?
自分の持ち物もなく知り合いもいない、知らない場所の慣れない家で暮らすことになったら、「帰りたい」と思うでしょう。あなたが帰りたい、価値のある場所とはどこでしょうか?
【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子