木彫植物が建築空間に溶け込む、渋谷で「須田悦弘」展が開催
「渋谷区立松濤美術館」で、「須田悦弘」展が2024年11月30日からスタートした。新作13点や貴重な卒業制作をはじめ、絵画、ドローイング、補作を公開する本展は、東京の美術館では25年ぶりとなる。建築家・白井晟一が手がけた1980年代風の雰囲気がたっぷりと漂う同館に、草花や雑草の木彫作品を須田悦弘自身が感覚的に配置し、植物が持つ静けさが広がる唯一無二の世界を作り上げている。会期は2025年2月2日(日)までだ。
白井晟一の建築空間に植物が溶け込む
須田は多摩美術大学でグラフィックデザインを学ぶも、授業でスルメを彫ったのをきっかけに木彫りの楽しさに目覚めた。卒業後、日本デザインセンターに就職するが、1年で退職。その後、植物の彫刻を30年以上制作し続けている。
本展では、須田が館内で気になった箇所にインスタレーションとして実物代の植物たちが展示され、美術館の建築とコラボレーションした空間が広がる。小さな雑草や草花が、さりげない箇所や意外な空間、屋外にも配されているため、館内のあらゆる箇所に目を向けてほしい。
真ん中の吹き抜けに池と噴水があり、レトロさとノスタルジックさが漂う同館の建築空間は非常に魅力的だ。ベルベットの壁のサロンのような雰囲気の2階展示室は、中央に大きなソファが置かれている。ゆったりと落ち着きながら美術鑑賞を楽しみたい。
本物と見紛うほどの精巧さ
「好きな植物しか作っていない」という須田は、同じ植物を何度も作ることもある。ツバキやアサガオ、サザンカなど、形や色、薄さを見ながら、道を歩いてきれいだと思ったものを制作している。花芯や細い茎、花弁や葉の精巧さは驚異的で、間近でじっくりと鑑賞すると本物そのもののようだ。ひっそりと存在する草花や雑草は、館内の見落としそうな箇所に配置され、非常に愛らしい。
須田はドローイングや下絵を描かず、実物や写真を見てじかに掘り出している。基本的には、非常に彫りやすい素材だという朴(ほお)の木を使用。「非常に彫りやすい素材」なのだとか。
古美術やデザインの仕事も
個人的に古い仏像や寺が好きな須田による、古美術の欠損部分を補う「補作」の作品も展示。現代美術作家の杉本博司に依頼されて補った鎌倉時代の神鹿像の補作などは、どこを補ったか分からないほどの精緻さが見られるだろう。 また、現在までデザインを手がけている須田のパッケージデザインのイラストも並ぶ。写実的であったり、イラスト的であったりと、クライアントに応じて巧みに描き分けている。
日常を忘れ、小さな植物たちと対峙(たいじ)する贅沢な時間が過ごせる本展。宝探しのように館内で作品探しを楽しんでほしい。