「日本で学んだ韓国人監督」は両国の映画界をどう見る?NCTジェヒョン主演『6時間後に君は死ぬ』インタビュー
NCTジェヒョンが映画主演デビュー
K-POPグループ・NCTのジェヒョンの映画デビュー作『6時間後に君は死ぬ』が5月16日(金)から日本で公開される。原作は高野和明が2001年に発表した同名ミステリー小説。ジェヒョンは他人の死を予言する謎の男を熱演している。公開を前に、イ・ユンソク監督と企画・製作のミステリー・ピクチャーズ代表、イ・ウンギョン氏にオンラインで話を聞いた。
『6時間後に君は死ぬ』映画化の背景
30歳の誕生日を目前にした女性・ジョンユン(パク・ジュヒョン)は、突然現れた謎の男・ジュヌ(ジェヒョン)に「君は6時間後に殺される」と予言される。半信半疑のまま、ジョンユンはジュヌとともに自分を殺す犯人を探し出し、運命を変えようとする。ジョンユンの知り合いの刑事・ギフン(クァク・シヤン)はその話を聞き、最近の連続殺人事件との関わりからジュヌを犯人と特定し、彼を追い始める――。
本作は、6時間という限られた時間の中で状況が二転三転するスリリングな展開が見ものだ。2024年の<第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭>では観客賞を受賞し、2025年の<第20回大阪アジアン映画祭>で日本プレミア上映を果たした。
『6時間後に君は死ぬ』の映画化は、イ・ウンギョン氏と原作者の高野氏が20年来の知人だったことから実現した。2008年にも映像化されたが、本作は舞台を現代の韓国に置き換え、新たなキャラクターや設定を加えている。
映画化ならではの新設定とは
ジョンユンのアルバイト先の“デートクラブ”は本作では“出会い系アプリ”に変更。ジョンユンが自分を殺す犯人だと疑うストーカーは、原作では“地方出身の男”だが、本作では“中国から出稼ぎに来ている朝鮮族”となっている。朝鮮族とは朝鮮系中国人で、韓国語ができることから出稼ぎなどで韓国に移住するケースが多い。イ・ユンソク監督が「単なる田舎の男ではあまり面白くないと思った」と言うように、社会のマイノリティーの存在を原作よりも強く打ち出したことで、物語に深みが生まれている。
原作に登場しない新人女性刑事のキャラクターも目を引く。イ監督は、この新キャラクターはイ・ウンギョン氏とも話し合って作ったとして、「警察という男性中心の組織の新人女性刑事が、韓国社会で生きづらさを感じている女性の共感を呼ぶと考えた」と説明する。警察の男たちがいずれも怪しい動きをする中で、イ・スジョンが演じる女性刑事が真実に近づいていく姿がストーリーの緊張感を増している。
撮影は監督のホームグラウンドである仁川市内で行われた。チャイナタウンや港といった異国的な風景も見どころのひとつだ。
「ジェヒョンは“ぜひやりたい”と言ってくれた」
NCTのジェヒョンは本作がスクリーンデビュー作。イ監督は「ジェヒョンにオファーすると、ぜひやりたいと言ってくれた。人気アイドルだが、顔合わせのとき性格や考え方は普通の28歳と同じだと思った」と振り返る。共演のパク・ジュヒョンは紹介を受けてキャスティングしたと言い、「出演したNetflixドラマ『人間レッスン』(2022年)を見ていて、目力のある俳優だと印象に残っていた」と縁を感じていた。
なお、原作小説には後日談の「3時間後に僕は死ぬ」がある。イ・ウンギョン氏は「こちらもぜひ映画化したい」と意欲を示していた。
イ監督は日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業し、日本の映画制作現場で15年間活動した経歴を持つ。日韓合作映画の経験も豊富で、中山美穂が主演した『蝶の眠り』(2018年、チョン・ジェウン監督)にも参加。数年前に韓国に帰国し、本作が韓国での長編デビュー作となった。
韓国の映画業界は、ここ数年でスタッフの労働環境の改善が急速に進んだ。労働時間や賃金が契約書で守られ、ハラスメント防止講習もある。そのおかげで人材確保も以前より容易になっているという。監督は日韓の制作現場の違いをどう見ているのか聞くと、率直な答えが返ってきた。
今の韓国の現場の労働環境は日本よりもはるかに良い。しかし、それゆえに“時間内に終わらせる仕事”というドライな考え方になっているかもしれない。
日本では一人一人のスタッフが良い作品を作るために何をするかを考え、(労働時間などは)フレキシブルに対応している。韓国も、もう少し柔軟に考えてもいいのではないか。
取材・文:芳賀 恵
『6時間後に君は死ぬ』は5月16日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開