無理させなくてよかった!WISCで知った発達障害息子の特性と高校生になった今
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
親も勉強には無頓着だった幼児期。小学生になれば当たり前にみんなと同じことができると思っていたのに……(汗)
家庭環境にもよるかと思いますが、わが家はいわゆる「早期教育」には無頓着で、保育園の頃はひらがな、数字は全くと言っていいほど教えていませんでした。私はフルタイムの会社員として働いていて、平日は会社への行き帰りだけで精一杯。保育園には早朝からラストまでコチ丸を預かってもらい、帰ってきたらあっという間に寝る時間……。さらに休みの日まで根気よく勉強を教えようなどという気持ちにはとてもなれず、まぁ小学校で教えてくれるから良いでしょう……と高を括っておりました。
実際に小学校へ入学してみると、ひらがなや簡単な足し算・引き算をマスターしている子は結構いて、出遅れたかなーと不安にもなりました。が、私の持ち前のマイペースさもあって「学校で教えてもらう時間がちゃんとあるんだから、そこで覚えられればいいわ」と切り替えました。
1年生の頃は学校での授業や宿題の内容もそれほど難しくなく、文字をなぞるだけのドリルや簡単な計算がほとんどだったので、コチ丸も問題なくやっていました。
「あれ?」っと思ったのは2年生の半ばくらい。漢字の書き取り練習やかけ算が、なかなかできませんでした。算数は自分も苦手だったので、コチ丸も苦手なのかな?と思っていましたが、漢字をノートに書き写すのが難しいという経験が自分にはなく、それがどういう状態なのか正直理解ができませんでした。「ただ書くだけじゃん、一番楽な宿題では……?」というのが私の認識。
さらに、当時は私も、「宿題なんだから、ちゃんとやらなくてはダメ」という考え方をしていたので、側につきっきりで宿題を見たり、ゲームの前に宿題を終わらせるというルールをつくったりしたのですが、どうしても無理。コチ丸は3回、4回漢字を書くと「もうだめ」と言って机に突っ伏してしまうのでした。結局、何行か書くだけのことに数時間かけて、寝る時間になってしまう……ということが度々ありました。
ちょうど同じ時期に、担任の先生との面談で「コチ丸くんが授業を座って聞いていられない」と言われたのです。2年生の時の担任の先生は、前年度まで他校の特別支援学級にいたこともあり、コチ丸が授業を受けづらくなると、机の下につくった段ボールのシェルターへ避難できるようにするなどの対応をしてくれたので、私も安心していました。
が、3年生になって担任の先生が変わるとそういった対応はしてもらえなくなり、コチ丸は授業を休みがちになり、当然宿題もやらなくなりました。
当時、悩ましかったのは長期休暇の宿題です。漢字ドリルや計算ドリルは全く手をつけず諦めましたが、日誌だけは親子の目標として終わらせようと、毎日少しずつ進めました。苦手な書く作業も日誌なら量が少ないので、力尽きることもありませんでした(笑)。
家庭学習開始!何が息子に合っているのか?模索の数年……。
不登校気味になっていたコチ丸に、家庭で学習できるものをと思い、私は時間ができると本屋へ行き、コチ丸が興味を持ちそうな問題集を何冊か買ってきました。
コチ丸が学校を休んで自宅にいる時には、毎朝出勤前に紙にやることリストを書き、終わったら線で消していくということをコチ丸にやってもらっていました。見える化して「できた」という自信を持ってもらえたらなという気持ちと、このくらいの量ならやれる、という判断基準にもなりました。
多すぎる課題を出せば途中で挫折してしまうだろうと考え、量も都度調整しながら、時にはごほうびのゲームをチラつかせながら……と、手を変え品を変え、コチ丸のやる気を引き出すのに苦労しました(汗)。この小出し勉強は中学受験の勉強法にも応用でき、日々無理のない学習時間で集中して勉強をすることができるようになりました。
また、3年生の時、タブレット端末を使った通信教育も試してみたのですが、最初こそ面白がってやっていたものの、問題が解けないと先に進めなくなり、そのうちに教材のおまけのゲームにも飽きてタブレットすら触らなくなり、この作戦は意外にも数回で失敗に終わりました。
板書や書き取りが超苦手な理由は……。WISCで判明したワーキングメモリの低さ
小学校の高学年になってもコチ丸はまだひらがなを書くことも怪しく、よく鏡文字を書いていました。「を」や「お」の区別ができるようになったのも、高校に入ったあたりです。
漢字のテストは中学でもほぼ0点。「もうどうせ漢字は点数取れないから、ほかのところで頑張りな」と親子ともども諦めていました(笑)。
実際に5年生の頃に受けたWISCでも、ワーキングメモリの数値が飛び抜けて低く、板書が苦手という結果が出ていました。小学校に結果を持っていってタブレットを使わせてもらえないかと掛け合ったこともありましたが、小さな学校だったこともあるのか、壊れたりしたら責任が取れないとか、コチ丸だけ特別扱いはできないという回答で対応はしてもらえず。
毎年4月になったら買い揃える教科ごとのノートは、3月まで数えるほどしかページを使わないか、落書きに支配されているのでした(笑)。今でこそ合理的配慮は義務化されていますが、まだ当時は特別支援教育に携わっている人間でなければ、その言葉さえ知らなかった頃でした。
ただ、私の中では、WISCで数値としてコチ丸の状態が見ることができたのはとても大きく、苦手なことを無理にさせる必要もないし、学校側も対応してくれないのだったら、学校でみんなと同じことをやらせる必要もない、と割り切る理由になりました。板書を取らないコチ丸に無理強いすることもやめました。
小学校の先生からは、地元の中学の特別支援学級への進学を勧められていたコチ丸ですが、中学受験して学びの多様化学校を選択。公立の中学でもフリースクールでもない環境の中で、コチ丸の勉強に対する向き合い方は大きく変わりました。
現在は北海道の公立高校に通い、ほかの生徒さんと一緒に授業を受け、部活動に生徒会活動にと充実した日々を送っていますが、あのまま無理をさせ続けていたら、おそらく学校には行けていなかったでしょう。今のコチ丸の姿があるのは、中学で自分に合った学びの場を見つけられたからだと思っています。
執筆/あき
(監修:藤井先生より)
コチ丸さんの歩みに丁寧に寄り添いながら、焦らず支えてこられたあきさんの姿勢が伝わってきました。本人のペースを大切にしながら、少しずつ学びへと導かれたことが印象に残りました。「できないことを無理にやらせる」というよりも、「どうすればその子が理解しやすくなるか」を一緒に考えることは、学びにおいても心の成長においても、とても大切です。コチ丸さんらしい学びが続いていくことを、願っています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。