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【東京都知事選の選挙ポスター掲示板騒動】前代未聞の掲示板ジャックはなぜ起きたのか?選挙制度の抜け穴とは?規制強化の是非を考える

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「東京都知事選の選挙ポスター掲示板騒動」です。先生役は静岡新聞の市川雄一ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年7月1日放送)

(山田)今日は東京都知事選を巡る話題ですね。

(市川)そうなんです。東京都知事選の投開票がいよいよ7月7日に迫ってきました。5月の静岡県知事選は全国的に注目を集めた選挙でしたが、東京都知事選も、日本の首都である東京のトップを決める選挙ということで、東京都民だけでなく、全国で注目されています。

前に静岡県知事選の話をしたとき、現職が一度も負けたことがないという話をしましたが、東京都知事選も現職が負けたことが一度もない選挙なんです。

(山田)そうなんですね。

(市川)現職が12回出て、結果は12勝0敗です。

(山田)うわー。

(市川)今回の都知事選は現職の小池百合子知事が3選を目指して立候補していますから、現職がまた勝つのか、初めて負けるのか、興味深い選挙です。

(山田)毎回、本当にいろんな方が立候補しますよね。

東京都知事選は史上最多の56人が乱立

(市川)選挙戦の最大の関心は誰が当選するか、ということですが、今回の都知事選は別の側面でも注目が集まっています。それは、56人という過去最多の立候補者数です。5月に行われた静岡県知事選も史上最多の立候補者数でしたが、それでも6人です。それよりも50人多い56人というのは本当に異例の数字だと思います。

日本では、基本的な年齢制限を受ける人や公民権停止中の人などを除き、選挙に出る機会は誰にでもあるので、何人出ても構わないんですが、今回は立候補者数が多いことに関連して選挙ポスターの使い方が大きな議論になっています。

(山田)そもそも掲示板に貼りきれないんじゃないかというようなニュースもありましたよね。

(市川)48人分しか用意していなかったのでクリアファイルを使ったりして対処していましたよね。

選挙ポスター用の白い掲示板は、選挙のたびに皆さん街中で見かけると思います。自治体が設置し、立候補者はそこに選挙期間中のみ選挙ポスターを掲示できます。有権者は選挙ポスターを通じ、選挙期間中であること、誰が立候補しているか、立候補者がどんな顔をしているのか、さらにはどんな主張をしているのかを知ることができます。

一般的な選挙ポスターは名前とバストアップの写真、主だった政策やキャッチコピーを載せるといったものです。僕も選挙の取材を長年やってきましたが、選挙ポスターを見て投票先を決めるといった声も多くはありませんが、聞いたことがあります。

(山田)あるでしょうね。あと、色合いだったり。

(市川)顔の表情で決めるということも聞いたことがあります。立候補者にとっては、それほど重要なもので、力を入れるものでもあります。

5月の静岡県知事選では、鈴木康友さんはキャッチフレーズだった「やります」という文字がポスターに大きく書かれていて、少し斜め上を見上げたような写真を使っていました。対抗馬だった大村慎一さんはカメラ目線の写真で「県民のための県政を実現」とうたっていました。

(山田)いろいろと与える印象がありますよね。

同じデザインのポスター24枚が並ぶ異常事態

(市川)その選挙ポスターを巡って、東京都知事選では騒ぎになっているんです。同じ人物やデザインのポスターが多数張られ、有権者に困惑が広がっています。「NHKから国民を守る党」(NHK党)からは今回19人が立候補しているんですが、NHK党が「あなたのオリジナルポスターを貼ってみませんか」と都知事選の前に募集したんです。

19人のNHK党の立候補者と他に協力する5人の計24人分の掲示板にオリジナルポスターが貼れるという呼びかけでした。宣伝でも主張でも、自分の飼っている犬の写真でもいいと。

最初は1口5000円とうたっていたようですが、今NHK党のHPを見ると1口2万5000円になっていました。都内には1万4000カ所の掲示場があり、1カ所の掲示板に24枚の同じポスターを貼ることができるという契約になっています。すべての掲示場に申し込みがあれば、2万5000円✕1万4000カ所分で、3億5000万円の寄付が集まる計算になります。新手のビジネスと言え、これが今回問題になっています。

同じポスターが一つの掲示板に複数枚貼られることだけでも異例ですが、それが24枚となると、僕は映像でしか見ていませんが、かなり目立ちます。さらに今回は、女性風俗店に誘導するポスターなども貼られ、警視庁が風俗営業法違反で警告を出すなんてこともありました。亡くなった若手俳優の似顔絵を使い、所属事務所が抗議したという話もありましたね。

公職選挙法には禁じる規定がない!

(市川)そもそも、選挙掲示板は有権者が投票の判断材料として使うことが目的なので、宣伝目的に使うことが許されていいのかということなんです。ただ、実は選挙の規定をまとめた公職選挙法には、それを禁じる規定がないんです。

(山田)そのニュースを見て「えっ?」と思っていたところなんですよ。

(市川)元々想定していないということがあると思うんですけど、公選法では選挙ポスターに他の候補者を誹謗中傷したり、虚偽の事実を掲載したりすることは禁じられていますが、選挙に当選することを目的としたポスター以外を禁止する規定はないんです。その選挙制度の穴をついたのが今回の騒動になっています。

林芳正官房長官は記者会見で「(掲示板は)候補者以外が使用できるものではない」と発言したり、選挙を司る総務省の松本剛明総務相も「公選法上、掲示の権利を売買するものとはされていない」と述べたりしています。ただ、法律では禁じていないのでやりたい放題になっています。

そもそもNHK党がやっていることは売名目的なので、炎上すればするほどいいと思っているはずです。政府がそういった批判をするというのは、むしろガソリンを注ぐようなもので、さらに世間の注目を浴びる結果となり、当人たちにとってこの苦言は痛くも痒くもないんですよね。

(山田)ちょっと、なんかそれは納得がいかないんですけど。

(市川)日本は立法国家ではありますが、法律に違反していなければ何をしてもいいという価値観が広がれば、社会が乱れてしまいます。「法律に書いていないから」ということを言っていると、どんどん法律で縛らなければならなくなります。そうなると、堅苦しい社会になってしまいます。

(山田)モラルの問題ですよね。小学生ぐらいのときに、親から「選挙ポスターに落書きをしたら犯罪だ」「ポスターは神聖なものだ」と言われたことがあります。だから、僕は選挙ポスターはそういうものだと思っていました。

(市川)それは正しくて、選挙ポスターに落書きをしたり、剥がしたりする行為は公選法違反で犯罪になります。場合によっては逮捕されます。

(山田)そうなんですね。

(市川)今回は女性の卑猥な写真などのポスターを貼った候補者がいるんですが、そういったものを剥がしたりすると、剥がした方の人が罪に問われてしまいます。

(山田)おかしな話ですね。

(市川)今の法律の建付けではそうなっていて、今回も実際に選挙ポスターを剥がしたとして逮捕者が出るような事案も起きています。それぐらい、選挙ポスターというのは神聖なもので、守られているということです。

なぜ東京都知事選が狙われたのか

(市川)ところで、なぜ都知事選でこういうことが起きるのかということですけど、まず、有権者が一番多くて注目を浴びるということがあります。さらに、政見放送があるというのも大きな要素になっています。

都知事選に19人の候補者を擁立したNHK党の立花孝志代表はX(旧Twitter)で「NHKの政見放送で19名の立候補者が次々出演して、#NHKをぶっ壊す!#NHKに受信料支払う人は馬鹿!って拡散したかった!」と理由を説明しています。さらには、ポスタージャックではなくて、政見放送をジャックするのが目的なので、ポスター掲示板はおまけみたいなものだから販売しただけだというような発言もしています。元々は政見放送でNHKを批判することが候補者を大量に擁立した目的だったということです。

有権者の数だけでいうと、参院選東京選挙区も同じなんですが、実は、国政選挙では政党に所属していない無所属候補は、政見放送ができないんです。

(山田)そうなんですね。無所属ではできないと。

(市川)これは公職選挙法で定められています。理由は国政は政党本位の政治が行われているという建前があるからで、無所属の人は基本的には政見放送ができないんです。都知事選や静岡県知事選は政党本位ではないので、無所属の候補者も政見放送ができます。となると、目立つことや、選挙に受かることではなく自分の主張を拡散したい人にとっては、政見放送ができる都知事選は一番都合がいいというわけなんです。

(山田)だからこれだけの候補者を立てたんですね。

悩ましい供託金問題。売名行為防げても、政治参加の壁は高くなる

(市川)この候補者乱立で問題になっているのは、供託金の話です。都知事選の供託金は1人300万円です。

(山田)選挙に出るために300万円のお金が必要なんですね。

(市川)得票率というものがあって、全体の得票数の10%以上を獲得しないと供託金は没収されてしまいます。先日の静岡県知事選でも、10%を上回ったのは上位の2人だけでした。

共産党公認の方が3番目に多くて10万票を取っているんですが、それでも10%に届いていないんです。それぐらい10%というのは高いハードルなので、今回の都知事選も数人しか条件を満たせず、多くの候補者は300万円を没収されてしまうのではないかと思います。

(山田)今回のような騒動が起きたら、供託金の額を上げようという話が出てくるのではないかと思うんですけど。

(市川)インターネット上ではそういう話が出ています。ただ、世界的に見ると、日本の供託金は実は高いんです。

(山田)そうなんですか。

(市川)供託金を上げるとなると、若者やお金はないけど志が高い人たちにとって政治の扉を開くハードルを高くしてしまうことになります。それがいいことなのかという声もあると思います。ここは難しい問題です。売名目的の立候補者の乱立で供託金が上がり、志のある人が選挙に出られなくなるとしたら、残念なことです。

(山田)きちんとした候補を選ぼうというベクトルになるといいですね。

(市川)NHK党はそもそも、このネットの時代にポスター掲示板自体が無駄だと主張しています。今回のような騒動を起こすことで、「それならポスター掲示板をやめよう」という話が出てくる可能性は確かにあるかもしれません。

一方で、さまざまな規制が強まる可能性もあります。そうなると、民主主義の根幹である選挙を規制でがんじがらめに縛るということが本当にいいことなのかというのは今後、議論になると思います。

(山田)確かに。単純にもっと法律をきちんと整備して、がちがちに縛ればいいのにと思っていたんですけど、問題はそれだけではないということですね。

(市川)そうですね。

(山田)番組の公式Xにもリスナーさんからたくさんの書き込みをいただいています。この都知事選はわれわれにとっても影響がないわけではないですよね。

(市川)静岡県民にとってもすごく大事な選挙だと思います。

(山田)ということなので、また後日、解説していただけたらと思います。今日の勉強はこれでおしまい!

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