『ある魔女が死ぬまで』声優インタビュー連載第3回:青山吉能さん×伊藤静さん | 「“死”について考える作品に参加できるのは嬉しい」。器が大きい祈でも「足が臭い」は本当に傷付いていそう……?
2025年4月より放送中のTVアニメ『ある魔女が死ぬまで』(以下、ある魔女)。電撃の新文芸で刊行中の坂先生によるライトノベルを原作とした作品で、呪いによって余命1年を宣告された見習い魔女・メグと、その師匠である魔女・ファウストが過ごす日々が描かれます。
アニメイトタイムズでは、『ある魔女』に出演するメインキャスト陣へのインタビューを連載形式で更新中。
連載第3回では、ファウストと同じ七賢人の“英知の魔女”である祈を演じた伊藤静さんと、青山吉能さんを直撃。
作品やキャラクターへの印象から、アニメ第3話で描かれたエピソードについてのお話もお聞きました。
【写真】春アニメ『ある魔女』青山吉能&伊藤静インタビュー【連載第3回】
原作を読んだ時から、青山さんの脳内では伊藤さんの声が
──まず伊藤さんは、『ある魔女』への出演が決まった時の心境はいかがでしたか?
伊藤静さん(以下、伊藤):『ある魔女』はテープオーディションだったので、お家で録ったんですけど、その時の台詞が祈の足の匂いに関するところだったんです(笑)。なので、どうしたら本当に臭そうに聞こえるか、ちょっとおっさんぽさを出そうとか工夫していたので、匂いがちゃんと伝わったのかなと嬉しかったのを覚えてます(笑)。
あとは、“死”について考える作品に参加できるのは嬉しいなと思いました。やっぱり死ぬのって怖いじゃないですか。そういう普段は目を逸らしているものにしっかりと目を向けて向き合える機会ってなかなかないですし、光栄なことだなと。
──オーディションも祈役を?
伊藤:そうですね、受けたのは祈だけです。キャラの年齢や雰囲気もそうですし、メグちゃんの先生であり、ちょっと残念なお姉ちゃんみたいな感じとか。私としてもやりやすいし、演じるのが楽しそうだなと思える役でもあったので。
──青山さんは祈というキャラクターにはどんな印象を持ちましたか?
青山吉能さん(以下、青山):とにかく、もう本当に伊藤静さんの声すぎて……!
私ってよく脳内声優メーカーをやってるんですけど、『ある魔女』を読んだ時から、祈はずっと伊藤さんの声のイメージだったので、お芝居とか声が本当の意味ですっと入ってくるような感覚がありました。やっぱりすごくテンポが早い作品なので、ギャグのあとにシリアスなことを言ったりとか、テンションの切り替えが激しいんですよね。
伊藤:メグはとくにそれが大変だよね。
青山:そうなんです。すごい勢いで喋った後に、「はぁ。それで……」みたいな感じで、急に温度感が変わるみたいなことも多くて。
個人的に第3話で好きなのが、メグが足が臭いことを指摘した時に、祈が「アンタ殺す」って返すところなんですよ。
「アンタ殺す」って台詞にも、圧をかけて言うのか、「♪」をつけるように言うのかとか、いろんな言い方があるじゃないですか。そういういろんなニュアンスのバランスが完璧というか、すべてのパラメータが最大みたいな。「殺す」って言われているのに喜んでいる、厄介なオタクが現場に紛れ込んでましたね(笑)。
伊藤:ありがとう、それは素晴らしいオタクだと思う(笑)。
第3話ではほぼ二人きりでの収録に
──祈は第3話が初登場になりましたが、収録はいかがでしたか?
伊藤:実は第3話は別撮りで、ファウスト様(榊原さん)にはまだお会いできてなくて、他の面々がどんな感じなのかは、原作を読んで想像しながらやっていました。
さっきも話したところですけど、ちょっとダメなお姉さん的でありつつも、先生っぽさもあるのが祈の特徴なので。飄々となんでも知っているような雰囲気とかフランクさを出しつつ、ファウストとは違う形でメグに何かを伝えていけるようなキャラクターとして役作りをしていましたね。
──印象的なディレクションはありましたか?
伊藤:オーディションの時に出したものを確認してからリハーサルに臨んでいたのもあって、止められたりすることはほとんどなくて、結構自然体で演じられたかなと。それ以上に、もうメグちゃんが朝からものすごい一人でカロリー使っていたので、「大変だね」と声をかけたりしていたことの方が印象に残ってます(笑)。
青山:いつもいろいろ気を使っていただいて、ありがとうございます(笑)。
伊藤:祈もメグに対してそんな感じだと思うんですけど、私自身もその様子を傍から笑いながら見守っている感覚だったので、あまり難しく考える必要はないなって。ただ、場面によっては感情を多めに乗せていいキャラクターでもあると思ったので、普段のコミカルな顔と、シリアスな顔のギャップみたいな部分は意識していましたね。
──個人的に面白いなと思ったのが、「殺す」っていう発言こそありましたけど、祈ってかなりメグに失礼なことを言われているのに、そんなには怒ってないイメージがあります。
伊藤:そうですね。そういうのあまり気にしないタイプというか、だいぶ失礼なことを言われても、「この子はそういう子なんだ」って受け入れてくれるような、大きい器を持っている人なんだなと思ってます。
ただ、“足臭い”だけは本当にちょっと傷付いているんじゃないかなって(笑)。私も、自分の足が臭かったらどうしようと思って、たまらず匂いケアとかやりましたから。
青山:それ、めっちゃ分かります……! 私もパンプスをよく履くので。
伊藤:たぶん祈もそうなんじゃないかと思うんですけど、自分の匂いって気付けないものなので、何も感じてなくてもいろいろやっておかないといけないなって。祈は、そういう匂い対策の大切さみたいなことも教えてくれましたね(笑)。
──第3話の収録はほぼお二人だけだったんでしょうか?
青山:そうですね。その時は榊原さんも別撮りで、アナウンサーの方はいらっしゃっていましたが、私達とは完全に別撮りだったので。ずっと伊藤さんの隣で、私がギャーギャー言ってるっていう(笑)。
伊藤:本番も一緒に掛け合いできてね。超少人数の収録でしたけど楽しかったです。
──お二人で何か話をされたりも?
伊藤:それがなんかもう、あまりにもメグちゃんが大変そうすぎて、余計な話をするよりは休ませてあげなくちゃって。
青山:あの時って、ちょうど私がお仕事でアメリカから帰ってきた時のタイミングだったのもあって、より大変そうに見えてしまったのかもしれません。
差し入れにアメリカのマドレーヌを持っていったんですけど、めちゃくちゃ箱が大きかったんですよ。だからたくさん入っているだろうと思っていざ開けてみたら、6個しかなくて。現場で配っていたら、監督さんたちの分がなくなってしまって、一度渡したものを返してもらうっていう、本当にダメなことをやってしまって……。
これからは英語が読めなかろうが、中に何個入ってるかは絶対に確認しないといけないと学びました。
伊藤:確かにね、それは大事だったかも(笑)。
青山:でも、ああいう差し入れって渡したら「ありがとうございます」って言われて終わることが多いんですけど、伊藤さんはすぐに「美味しい」と言いながら食べてくださったのが嬉しかったです。
ただ、その時ちょうど原作者の坂先生と原作編集部さんもマドレーヌを持って来られていて、まさかのマドレーヌ被りも起きてたんですけど(笑)。そっちは小さくて食べやすいサイズのものが沢山入っていて、ちゃんと人数分もあって。やっぱりこういうところが気遣いの差だよな……と反省したりもしていました。
──第3話の収録はご一緒ではなかったようですが、伊藤さんもキャリアを重ねられ、最年長になる現場も珍しくなくなってきていると思うのですが、榊原さんのような存在がおられると気が引き締まったりもしますか?
伊藤:榊原さんとは、私は別の作品でご一緒したことがあったんですけど、やっぱりそういう方がいるといつもよりピリっとするというか、「きちんとしないといけない」という気持ちになりますよね。昔ってそれが割と当たり前だったんですけど、今ってやっぱり締めてくれる人があまりいないんですよね。それで、私もヘラヘラしちゃったりしてるんですけど(笑)。
でも、そういった良い意味での緊張感みたいな空気、私はすごく好きなんですよね。そういう人たちに「“やるな”と思われるようになりたい」みたいな想いも湧いてきますから。
「羊宮妃那を守りたい」と思わせるようなソフィのかわいさ
──まだ第3話なので、話せない部分も多いと思いますが、現時点での伊藤さんのお気に入りのキャラクターはいますか?
伊藤:第3話の最後にチラッと出てきたソフィちゃんですね。原作を読んだ時、彼女の境遇とかもあって、すごくぎゅっとしてあげたくなりました。
青山:ソフィさんはこの後の第4話に出てきて、収録も一緒だったんですけど……もう、とにかく「俺が羊宮妃那を守りたい」って気持ちになりました(笑)。
一同:(爆笑)。
伊藤:最初はちょっと失礼な人みたいに見えるかもしれないけど、決してそういうわけではないんだよね。
青山:ソフィさんもそうですけど、この作品に出てくるキャラクターって、何かしらの運命とか責務みたいなものを背負って生きている感じがしますよね。
祈さんとかも、普段は飄々としていて明るいのでそんな風には見えないんですけど、きっといろんなバックボーンがあるんだろうなと。その上で、誰かを接する時には、あえて明るくて朗らかな雰囲気を作ってくれているんだろうとか、いろいろ想像が膨らみます。
──青山さんの方はお気に入りのキャラクターはおられますか?
青山:私はやっぱりファウスト様になっちゃいますね。私って、人生の深みが見えるようなキャラクターが好きなんですけど、基本的にファウスト様って、メグに対しても街の人に対しても、平等にフランクに接するじゃないですか。
私、他人によく思われたいって気持ちが強くて、今こうして喋っている時とか、収録の現場でも、親や友達と話す時とは声からして全然違うんですよね。でも、なるべく友達と話している時みたいにしようと意識しても、それはそれで嘘に嘘を重ねるみたいで、本当の自分って何なんだろう、とか考えちゃうこともあって。
伊藤:でも、それもひっくるめて全部本当の青山ちゃんだってことだと私は思うよ。相手とか場面に応じてちゃんと顔を変えられるのも大事なことだし。今日も「おはようございます」って挨拶してくれたけど、これが「おはよう」だったらめっちゃビックリしてるよ(笑)。
青山:でも、たまに先輩に対しても後輩に対しても、すごくニュートラルに接する方もいらっしゃるじゃないですか。そういう方を見ると、本当にすごいなって思っちゃうんですよね。ファウスト様の他人への距離感を見ていると、そういう方たちと通じるところがあるなって。
──確かに、ファウストの他人への接し方って面白いですよね。メグが祈の弟子になるという話を切り出した時とかも、あっさりとOKしたり。それだけ祈のことを信頼しているからではありますが。
青山:ファウスト様って、メグが余命一年なのを知っているのにいろんな雑用をやらせたりするんですけど、それもきっと、どんな小さいことでもいろんなことを知っていくのが大事だって考えを持っているからだと思うんですよね。
そういう意味では、きっと自分には見せられない景色を、祈さんならメグに見せてくれるだろうっていう信頼があったからこそ、助手にするのを承諾したんだと思いますね。
伊藤:私もそこは同じ意見で、祈は祈でファウスト様とはまったく違う経験をしてきているはずなので、それをメグに見てほしいと考えたんだと思うんですよね。祈の方も、ギャーギャー文句は言うし、口も悪いけど、土いじりとかの仕事はちゃんとしているメグに何かを感じたから、助手にしたいと思ったんでしょうし。
きっとファウスト様は、そこまで見抜いていたからこそOKしてくれたと思うので、七賢人同士の信頼関係みたいなところも凄く感じましたね。
──ちなみにお二人なら、ファウストと祈のどちらの弟子になりたいですか?
青山:難しいですね。どっちにもどっちの良さがあって……。
伊藤:でも、(祈は)足臭いんだよ? こうやって洗ってあげないといけない(笑)。
青山:なんでそんなに臭いんだろう(笑)。やっぱり生活習慣なんですかね。でも、命ってやっぱり有限じゃないですか。私はやっぱり別れのことも考えてしまうので、どちらかというなら祈さんと、より長く一緒にいたいかもしれないです。
伊藤:私は祈といると自堕落になっていきそうなので(笑)、ファウスト様に厳しくされた方がいいような気がします。実は「やれ」と言われたことをやるのって割と好きなんですよ。逆に自分から探すのは苦手だったりして、言われたことをきちっと守っていく生活の方が合ってるんじゃないかなと。そうしないと、無駄にダラダラしちゃいそう(笑)。
実は根っこはネガティブ同士だった二人
──第3話では“ポジティブモンスター”という表現も使われていましたが、お二人はご自分のことをポジティブとネガティブ、どちら寄りだと思われていますか?
青山:私はもう、ゴリゴリのネガティブです。まず前提が「自分なんかが好かれているわけがない」から入ってしまうので……。
伊藤:(笑)。それは何かトラウマでもあったりする?
青山:私の周りって、やっぱりすごい人達がいっぱいいて。それは周囲に恵まれているということでもあるんですけど、どうしても「その中にいる自分なんかが好かれる理由がない」って思っちゃうんですよね。
でも、だからこそ「おはようございます」って挨拶した時に「おはようございます」って返してもらうだけでも、「この人いい人だ……!」ってなるくらいハードルが低いので、めちゃくちゃネガティブではあるんですけど、ある意味ではハッピーに生きられている気がします(笑)。
伊藤:といいつつ、実は私もネガティブ派なんです。
──そうなんですか!? イメージ的に、完全に伊藤さんはポジティブ寄りの方かと……。
青山:私もそう思ってました……。
伊藤:そうなんです(笑)。周りからはポジティブに見られがちなんですけど、意外と家に帰るともう一気に沈むタイプというか。一回吹っ切れちゃうと結構割り切れるんですけど、結構ネガティブの時間も長かったりして、寝て忘れることもあれば、しばらく引きずっちゃうこともありますね。
ただ、それでもしばらくすると「ま、いっか」みたいな気持ちにはなるんですけど、ウジウジしてはポンと忘れる、みたいなのをずっと繰り返してますね(笑)。
──伊藤さんから見た青山さんとメグ、青山さんから見た伊藤さんと祈には、似ていると感じる部分はありますか?
青山:もう、結構そのまんま……(何かに気付いて) いや! すっごくいい匂いのする祈さんって感じがします!
一同:(爆笑)
青山:でもこうやってお話させていただいている今もまさにそうなんですけど、伊藤さんが現場にいてくださると現場がすごく朗らかになるんですよね。いろんな方から、「現場に一人、伊藤静が欲しい」みたいな話も聞いていくらいで。
伊藤:本当に? 初めて聞いたかも(笑)。
青山:いや本当に、伊藤さんがいると場が明るくなったり面白くなるという話はお聞きしていましたね。『ある魔女』って、結構新人の子たちが多い現場だったんですけど、やっぱり新人の子って、「せ、先輩だ……」みたいに構えがちじゃないですか。だから私も座長として、「楽しい現場作りをしないと……」と緊張しまくっていて。さっきのマドレーヌの話とかもそうですけど、伊藤さんにはいろいろ気持ちを楽にさせていただきました。
収録の二人での掛け合いもすごくテンポが早いので、私がミスったら終わりみたいな感じでガチガチだったんですけど、そこも笑いの空気に変えてもらったり、青山としてもメグとしてもやりやすかったですね。
伊藤:すごい褒められちゃった(笑)。収録現場だと、私は青山ちゃんが朝からめちゃくちゃカロリーを使っている横でなんか飄々としてるだけだったので。
でも、さっきの数が足りなかったっていうお土産の話もそうですけど(笑)、その大変な中でも座長として周りを気遣っている様子を見て、こっちも明るい気持ちにしてくれるところとかは、タイプは違うけどメグと同じところがあるんじゃないかなって思いましたね。
実は私、座長だとしてもその辺はあんまり気を使わないタイプで、普通に一人でスマホとか見てたりしてたので(笑)、すごいなと思いながら見ていましたね。
──最後に伊藤さんから、放送を楽しみにされているファンの方へのメッセージをお願いします。
伊藤:『ある魔女』に出てくるキャラクターって、みんないろんなバックボーン持っているんですけど、その人たちがどうメグと関わって、メグ自身がどんなふうになっていくのかは注目していただきたいですし、私自身も楽しみにしています。
青山:メグって天真爛漫なだけじゃなくて、すごく周りが見えているタイプで、本当にさり気なく他人のミスをフォローしたりもできるんですよね。人といて純粋に憧れられますし、見ていてすごく気持ちがいいキャラクターでもあると思うので、そんなメグがあの瓶いっぱいに嬉し涙を集めることができるのか、ぜひ見届けていただければと思います。
──ありがとうございました。
[取材・文/米澤崇史]