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自らの「死」をお寺で体験!~東白楽「倶生山 慈陽院 なごみ庵」が主催する「死の体験旅行(R)」とは?

さんたつ

普段目を背けて生きている「死」。今回訪れた「死の体験旅行(R)」というワークショップでは、自分の死を仮想体験できるそうです。浄土真宗の僧侶である浦上哲也(うらかみ・てつや)さんの主宰するこのワークショップ、生きながら死を体験するとは一体どういうことなのでしょうか? ではいざ、死の世界へ……。

倶生山 慈陽院 なごみ庵(ぐしょうさん じよういん なごみあん)

一見普通の民家の門をくぐると……

会場となるお寺は、神奈川県の住宅街に立つ「なごみ庵」です。東白楽駅前の横断歩道を渡るとすぐ、小さな看板が見つかります。

お寺というと瓦の屋根があって……というイメージですが、一見ごく普通の一軒家です。

ところが2階に上がると、御本尊の阿弥陀如来像が。

ワークショップの進行役を務めるのは、ご住職の浦上哲也さん。後ろに掛けられた夕日を思わせる光背は、哲也さんが近所のステンドグラス教室で教わりながらご自身で手がけたものです。中央から放たれた48本の光は、阿弥陀如来が仏となる前に立てた48の誓願を表しているのだそう。

共にお寺を守る、妻の浦上智子さん。智子さんも僧籍を持ち、保谷果菜子さんというお名前で舞台女優としても活動されています。

智子さんが金子みすゞの母を演じる一人芝居『愛しき娘 みすゞ 〜いのち繋がる物語〜』。2023年10月20日公演の甚行寺ほか、全国の会場で上演。
「幼い頃はずっと図書委員をやっているような子供でした」と哲也さん。中学校のとき図書室にあった釈迦の名言集を愛読していたと話す。

「親戚のお寺で僧侶として働いていた頃、東京の築地本願寺内にある東京仏教学院に通っていました。そのときに受けた『都市開教』という授業で、今の時代にも新しくお寺を開くことができると知りました」と哲也さん。小さな借家での法話会からスタートし、数年後に中古家屋を購入し、13年の活動を経て、神奈川県庁から令和初の宗教法人として認可が下りたのだそう。昔のお坊さんのことが書かれた本を読んでいるとよく小さな庵を結んだという話が出てきますが、こちらのお寺はまさにその現代版。仏教演劇や「死の体験旅行(R)」の出張で全国を飛び回りながら、お寺を育てていらしたというわけです。

お二人で演じる仏教演劇『ふたり語り よきひと、親鸞 恵信尼(えしんに)ものがたり』。浄土真宗の祖である親鸞聖人(しんらんしょうにん)も、夫婦二人三脚で仏道を歩んでいた。
第3金曜日に行われる「写経と写仏の会」。重誓偈(じゅうせいげ)や正信偈(しょうしんげ)など、浄土真宗で使われるお経を用いて経本を作っていく。

死を思うことは生を思うこと

数ある行事の中でも多くの人の注目を集めているのが、不定期に開催する「死の体験旅行(R)」です。

死を体験すると聞くと、棺の中に入る「納棺体験」をイメージする人も多いかもしれません。こちらはそれとは全く異なり、自分が病にかかり、死を迎えるまでの物語を擬似体験するワークショップです。今回はなごみ庵本堂にて、6名と少人数に絞っての開催です。この日訪れたのは20〜50代くらいの方々。全員お一人で、みなさん初対面でした。職業も名前も明かすことはありませんが、「同志」という感覚を抱きました。

「死の体験旅行(R)」は、元々はホスピスで働く医療者向けのワークショップだったそう。過去にお父様を亡くされている哲也さんご自身が受講した際、深く感じるところがあり、それを一般向けにアレンジして開催しているのだそうです。

個別に設けられたテーブルの上に、カードが並んでいます。哲也さんのガイダンスに沿って、このカードに自分の大切なものを書き出していきます。

大切な人や、心の支えになっている記憶。パッと浮かぶものもあれば、たくさん書けると思いきや意外と出てこないものも。思いがけずよみがえった思い出に、書きながら涙がこぼれる場面もありました。

ここからが物語のスタートです。明かりを落とした部屋の中で目を閉じ、映画の主人公になったような気持ちで物語に身を委ねました。哲也さんの落ち着いた優しい声に導かれながら、病に侵され過ごす日々を体験します。

物語が進むにつれ、あちこちから鼻をすする声が。遺していく人への不安が高まり、途中で自分の死が本当に怖くなる場面もありました。心が揺さぶられるなかで、さきほどのカードをひとつひとつ手放してゆきます。そして物語は、最後の場面へ。

明るくなった部屋で、深い水の底から顔を出したような気持ちで瞼(まぶた)を開くと、目の前にはお坊さんの書がありました。人間はみんなこうして病や死の苦しみを味わってきたんだ、そこにずっと向き合ってきてくれたお坊さんがいたんだ、自分は今生きているんだ……と思うと、さっきとは違う涙がじんわりとあふれました。

こうして一人一人が人生の物語を体験し終えたところで、哲也さんに見守られながら、体験を語り合います。私が感じたのは、本当に大切なものって思ったほど多くないんだな、病気で亡くなった家族はあのときどんな気持ちだったのかな、自分はこんなにたくさんのものを持って生きてきたんだな、ということでした。

闘病中のご家族に気持ちを重ねる方や、「自分の大切な人にもそれぞれの大切な存在があると気づいた」と話す方もいました。死を通して見えてくるものはさまざまでしたが、共通していたのは、何を大切に生きているかということ。死を語っているはずなのに、生そのものについて話していたのです。

哲也さんは「死を考えることは生を考えることで、それは宗教的・仏教的な行為だと思っています。特別に仏教用語を使わなくても、仏教を伝えているつもりで開催しています」と話しています。

──死を前にすると、今までの人生で大切にしてきたものが浮かび上がってきて、未来よりもむしろ過去に光が当たったのがとても意外でしたし、大事なことだなと感じました。

なるほど、過去に光が当たる感覚ですか。逆に、自分のやりたいことが明確になって、未来に視点が向く人もたくさんいらっしゃいます。自分の中で迷っていることがあって、背中を押してほしくて来る人もいると感じています。タイトルからはネガティブに感じるかもしれませんが、暗い顔をして帰る人は極めて少ないんです。僕もワークショップ本編が終わったあとは気持ちをリカバリーすることに努めています。

――確かに、不思議と爽やかと言ってもいいような気持ちです。叶わない思いや失ったもののことを考えるのは辛いことですけども、それを経たあとに残るものは温かいものなのかもしれませんね。みなさん笑顔やポジティブな気持ちを持ち帰られているように見えました。

人間相手じゃないから言えることもある

──特に現代の男性には多いかと思うのですが、自分の弱いところを出さないようにと頑張っている人はとても多いですよね。見せていいんだよと言われても見せられない、頑張らなくていいんだよと言われてもやらなきゃいけない。普段無意識に押し込めている気持ちが、死を前にすると自然と浮かび上がってくるように感じました。

人前で涙を見せたり弱音を吐いたりしてはいけないという意識は強いと感じます。一方で、お寺の本堂やお墓参りでそういう思いを置いてくるんだという話も聞いたことがあります。仏像は何も言わずに聞いてくれるし、お墓の中のご先祖さまも何も言わずに聞いてくれる。そういうところでやっと吐き出せる思いというものはあるのだと思います。

哲也さん:僕は「自死・自殺に向き合う僧侶の会」の共同代表を務めていて、悩まれる方とお手紙のやり取りをしたりするのですが、SOSが出せずに抱え込んだままレッドゾーンを超えてしまって自死される方は、男性が多いんです。そんなとき、お坊さんでもいいし、生身の人間が嫌だったらお墓や本堂や御本尊でもいいし、なにか気持ちを開ける場所とか相手がいると、少し生きやすくなるんじゃないかなという気がしています。

――誰も相談できる人がいない、と悲しむ人は多いと思うんですが、生身の人間じゃないからこそ話せるという方もいるんですね。

哲也さん:東北にある「風の電話」ってご存知ですか。東日本大震災の後に注目を浴びた、電話線がつながっていない電話ボックスなんです。当然どこにもつながらないけれど、そこに来て亡くなった人への思いを話していくんだそうです。だから、生身の人間じゃないからこそ出せる気持ちというのはあるのかなって。

愛知県の豊橋にいる僕の先輩のお坊さんも、それをモチーフにして「風のポスト」というものを本堂に設置しています。亡くなった人への想いでもなんでも書いて入れてください、それは開封せずにお焚き上げします、というものです。自死・自殺に向き合う僧侶の会でも「虹のポスト」というものを設置していて、ご遺族の方が亡くなった方への手紙を書いて入れていきます。その手紙は開かずにお焚き上げして、煙と共に亡き人に届けています。みなさん何を書いてるんだろうなあ、と思いながら。

智子さん:同じように、自分の気持ちを言えるところが家にあるといいですよね。仏壇じゃなくても、ぬいぐるみやお写真、絵、なんでもいいけれど、自分の気持ちを吐露できる場所があると楽になるのかなって思います。

第2金曜日開催の法話会でも、参加者が一言話す時間を設けている。「顔見知りではないから話しやすいのかもしれません」と哲也さん。
自分自身、適当にはなれないタイプだという哲也さん。だからこそ著書の中でも「もう少してきとうにしてもいいんだよ」「自分を適当に甘やかそう」というメッセージを繰り返している。

あなたのままでOKと阿弥陀さまが言っている

──生身の人間じゃないからいいんだというお話が、とても新鮮でした。誰にでもどこかに気持ちを開ける場所があるという希望にもつながりますよね。浄土真宗で信仰されている阿弥陀さまも、たとえ背を向けたとしても追いかけて救ってあげるよ、という仏さまだと聞いています。

今でこそ一般の人も難しい仏教の本を読めるし、仏教の修行も体験できますでしょ。でも、多くの宗派が生まれた鎌倉時代っていうのは、庶民はもちろん読み書きもできませんでした。修行どころか明日の飯はどうするんだという人々に対してどうアプローチしていくかっていうと、もう細かいことを言ってもしょうがなかった。だから「南無阿弥陀仏」のお念仏一つでいいんですよ、と説いて人々を救おうとしたんです。

智子さん:知り合いのお坊さんも言ってました。「ほら、ちゃんとOKって言ってるでしょ。あなたのままでOKって言ってるよ」って。

――本当ですね!阿弥陀さまの指がOKのサインと同じ形になっています!

哲也さん:阿弥陀さまって、9種類のポーズがあるんです。こちらの右手は恐れを取り除き、左手は救いとっていくということを表しています。九品仏という駅がありますが、9種類の阿弥陀さまがいるお寺があるので、九品仏というんです。生前の行いなどによって、極楽浄土へ往生するときの形に9つの種類があるのですが、それによって手の表し方が違うとも言われているんですよ。一番ポピュラーなこの手は上品下生(じょうぼんげしょう)または下品上生(げぼんじょうしょう)といいます。両手でOKを作ったような形もあって、知り合いのお寺の御本尊もその形です。

――手の形に、そんなメッセージが込められているんですね! いろんな阿弥陀さまのところにお参りしたくなります。そんなふうに、楽しく仏教の教えに触れられるようなお寺がありましたら、ご紹介いただいてよろしいでしょうか?

哲也さん:自死・自殺に向き合う僧侶の会でご一緒している、増田俊康さんをご紹介します。真言宗豊山派の円東寺のご住職で、マジシャンでもあるんです。

智子さん:PRINCOちゃんという大道芸人としても活動されているんですよ。

哲也さん:真言宗は密教のミステリアスなイメージがありますが、増田さんはとっても明るい方で、みなさんに親しまれています。

――かの弘法大師空海が開いた真言宗×大道芸! どんなお寺なのでしょうか、とても楽しみです!

浦上哲也さんプロフィール

昭和48年(1973)、東京都内の一般家庭に生まれ、縁あって僧侶となる。

「自分らしい方法で仏教を伝えたい」と発願し、平成18年に なごみ庵を開所。13年を経た令和元年5月に、全国で令和初の宗教法人として認可を受ける。宗派を越えた活動として、「仏教死生観研究会」代表、「自死・自殺に向き合う僧侶の会」共同代表、「お坊さんQ&A hasunoha」回答僧などを務める。著書『てきとう和尚が説く この世の歩き方』 (PHP研究所)。

なごみ庵ホームページ https://753an.net/

なごみ庵ブログ http://blog.753an.net/

浦上哲也さんTwitter https://twitter.com/bouzu_ura

なごみ庵Facebook https://www.facebook.com/753an/?ref=embed_page

なごみ庵YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/753an

倶生山 慈陽院 なごみ庵(ぐしょうさん じよういん なごみあん)
住所:神奈川県横浜市神奈川区平川町2-1-7/アクセス:東急東横線「東白楽」駅西口から徒歩1分

取材・文・イラスト=増山かおり 撮影=なごみ庵、増山かおり

増山かおり
ライター
1984年青森県生まれ。かわいい・レトロ・人間の生きざまが守備範囲。道を極めている人を書くことで応援するのがモットー。著書『東京のちいさなアンティークさんぽレトロ雑貨と喫茶店』(エクスナレッジ)等。

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