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「努力すれば成果が出る」は過去の価値観? 佐藤航陽が教える、エンジニアに求められる“ストイック”の新常識

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「努力すれば成果が出る」は過去の価値観? 佐藤航陽が教える、エンジニアに求められる“ストイック”の新常識

「一生勉強」といわれ続けてきたエンジニア。だからこそ、「時間と労力を投資して勉強し続ければ報われる」「頑張れば結果につながる」と思いたくなるだろう。

しかし、「『努力をすれば成果が出る』という考え自体が思い込み」と指摘するのは、仮想現実や宇宙開発の専門家である佐藤航陽さんだ。

では、現代のエンジニアはどんな努力をすればよいのだろうか。そもそも努力はむだなのか? 2月に著書『ゆるストイック』を上梓したばかりの佐藤さんに詳しく伺った。

佐藤航陽さん(@ka2aki86)

株式会社スペースデータ 代表取締役社長。1986年福島県生まれ。2007年、早稲田大学在学中にIT企業を創業してビッグデータ解析やオンライン決済事業を展開。15年には東証マザーズに上場、年商200億円規模まで成長させる。17年、宇宙開発分野での研究と投資を目的にスペースデータを設立し、衛星データとAIを活用した仮想地球の生成技術を開発。現在も「テクノロジーで新しい宇宙を作る」をテーマに研究を続ける。著書に『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(ともに幻冬舎)など
■YouTube:佐藤航陽の宇宙会議
■Instagram:katsuaki1986

自分にも他人にも厳しい「ストイックさ」は時代遅れ

ーーエンジニアは自己研鑽の積み重ねが大切な職業ではあるものの、「ストイックであり続けること」に辛さを感じている人もいるのではと思います。

もしかすると、そういう方は「長く続けられないスタイル」を自分に強いてしまっているのかもしれません。

あまり興味のない技術を無理やり勉強していたり、得意ではない分野でトップを目指していたり……。でも、自分がストレスを感じる勉強は早々に限界がきます。

大切なのは、無理せず続けられる範囲とペースを探ること。それは一人一人異なるので、周囲に合わせる必要はありません。

ーーとすると、「ストイック」である必要はない……ということですか?

いえ、そんなことはありません。今の時代に合った「ストイックさ」にシフトした方が良いということです。

一昔前のストイックとは、一つの分野をとことん究めたり、覚悟を決めるために退路を立ったりと、自分を窮地に追い込むようなものでした。しかも組織の中では「全員こうするべきだ」と、同じ努力を他のメンバーに押し付けるようなことも行われていた。つまり、自分にも他人にも厳しくして、短期間で成果を出すことがストイックの典型だったのです。

しかしコロナ禍を境に「頑張りすぎなくていい」という機運が高まり、私たちは従来型のストイックから解放されました。今の時代に必要なのは、まるで修行僧のように淡々と自分のペースで歩み続ける「持続可能なストイックさ」なのだと思います。

ーーとはいえ、早く成果を出すためには集中的に努力する必要があるのでは?

はっきりいってその考え方は、旧時代のストイックさにとらわれている人たちの「思い込み」というほかありません。

そもそも、短期的な成果の良し悪しは運で決まる部分がほとんどです。「努力をすれば結果がついてくる」「自分の姿勢次第で成果は決まる」という価値観自体、私たちは捨てるべきなんです。

少し哲学の話をすると、17世紀にデカルトという哲学者が現れて「困難は分割せよ」という言葉を残してから、「世の中の全ては分解でき、理解可能である」という価値観が広がりました。その結果、人々は「全ての出来事は説明できるはずだ」と考えるようになったのです。

その考え方が、科学の発展を後押ししたのは間違いありません。しかしそれは、必ずしも私たちの人生そのものに当てはまるものではない。デカルト以前の人たちが当たり前のように信じていた「個人でコントロールできない偶然が、私たちの人生を決めていく」という価値観に、もう一度立ち戻るべきだと思います。

ーー確かに、努力すれば成果が出るとは限りませんよね……。

「頑張ったから成果が得られた」と感じる瞬間はあるかもしれませんが、それは自分のやってきたことと世の中の流れがたまたま噛み合って生じた「おまけ」のようなものです。

どのように生きたとしても、成果が出るかどうかは誰にも分かりません。だったら短期的な成果にこだわるよりも、努力するプロセス自体を楽しむ生き方をした方がいいですよね。

「深さ」より「幅」を広げる戦略で、キャリアの可能性を広げる

ーーただ、すぐに成果が出るか分からない状態でコツコツ努力する……というのは、心理的ハードルが高そうです。

その気持ちも分かります。キャリアのリスクを下げるためには、副業や兼業といった個人的な活動を通じて「領域の幅を広げる」戦略を取るとよいでしょう。

一つの領域の技術だけを追求していると、社会のルールが変わったときに突然ハシゴを外されるリスクが付きまといます。この危機を回避するためには、さまざまな活動を通じてたくさんの選択肢を持つしかありませんよね。

実際、本業とは遠い領域の技術に触れてYouTubeで発信したり、オープンソースのプロジェクトに関わったりすることで、いいオファーを得ているエンジニアは散見されます。

仮に、領域の幅ではなく、特定領域に対する知識の深さで勝負するなら、かなり厳しい戦いになるといわざるを得ません。技術力で勝負するということは、技術的な先進国である海外のアカデミック人材たちと戦うということですから。

ーー「幅を広げる」戦略を取るとして、学ぶ領域はどのような基準で選ぶのがよいでしょうか?

投資のポートフォリオのように、自分自身の技術のポートフォリオを作るイメージを持つのがいいと思います。

例えばAIや仮想現実といった、今誰もが学ぶべき「鉄板」の技術を抑えつつ、量子コンピューターのように上手くいけば将来役立つかもしれない分野や、自分自身が興味を持てる技術を触ってみる。債権やインデックスのような安定的な投資をしながら、将来性が期待できる企業にも一部投資する感覚です。

そうやって全体のバランスを取りながらリスクを分散していくと、活動が広がり、自分を知ってもらえる機会が増えていきます。結果的に、偶然がキャリアの味方をしてくれる可能性も高まると思いますよ。

今すぐ始める三つのストイック行動

ーー新時代のストイックさを体現するために、エンジニアはまず何から始めたらよいでしょう?

大きく三つあります。

一つ目は、ホットなテクノロジーに触り続けること。これは多くのエンジニアが普段からやっていることだと思うので、そのまま続けてもらえれば特に問題ありません。

二つ目は、金融リテラシーを持つこと。少額でもいいので投資をしたり、事業をやってみたりして、金融市場のメカニズムをきちんと理解してください。キャリアでつまずくことがあっても乗り越える力となるでしょう。

そして三つ目は、継続的な情報発信です。何も「SNSでバズる」ことを目指す必要はありませんが、今は万人がメディアになれる時代であることは事実です。自分がどんな技術力を持っていて、どんな活動をしているのかを発信していれば、誰かの目に留まる可能性があります。世の中の需要を探るセンサーにもなりますよ。

ーー情報発信の重要性は多くの方が指摘していますが、なんとなく抵抗がある人も多い気がします。

それは本当にもったいない話です。情報発信は「自分にはできない、関係ない」と思っている人ほど、やってみると効果が大きいもの。思いもよらなかった人とつながれるだけでなく、仕事の機会が得られることもあります。

情報発信に限らず、苦手な分野を自覚しているなら、それは積極的に潰すべきです。人前で話したり、言語化したりすることが苦手だと感じている人もいるかもしれませんが、それができるようになればチャンスは格段に広がります。

苦手なことほど短期的な成果が望めないので、モチベーションは上がりづらいかもしれません。しかし実際にやってみると、周囲から何かしらのフィードバックが得られます。それは脳にとっての報酬です。

ぜひ自分を気持ちよく“沼らせる”状態をつくり、エンジニアとしてのキャリアの可能性をゆるく、ストイックに広げていってください。

取材・文/一本麻衣 編集/秋元 祐香里(編集部)

書籍情報

『ゆるストイック』(佐藤航陽 著/ダイヤモンド社 刊)

稀代の起業家が語る、次の世代の生活スタイルとはーー

優秀な若者は、「淡々と」「粛々と」「黙々と」自分のやりたいことをし続けることができる。まさに、「ゆるストイック」を体現している。この生活スタイルを身につけるために、「運・努力・才能」を学び直し、生き方を変えよう。

>>詳しくはこちら

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