最新タックルは追わない。80年代のオールドタックルで、内房シーバスと遊ぶ夜
最新テクノロジーを搭載したハイエンドタックルが全盛の今。その流れに背を向けるように、あえて80年代〜90年代の「オールドタックル」を愛用してシーバスを狙う男がいる。武浪望さんだ。
彼が求めるのは、数字としての釣果ではない。メインストリームから一歩引き、不便さすらも愛しながら「釣りのある生活」を慈しむ。流行に流されない彼がたどり着いた、静かなる反骨のシーバス哲学に迫る。
武浪望(たけなみ・のぞむ) 新宿区在住。アメ車に惹かれ20代で渡米。本場のバスフィッシングに親しんだが帰国後は過熱するバスブームを避けるようにシーバスへ転向。ゾンビやモンスター映画のクリーチャーなどサブカル系コンテンツも愛する。中央区月島で営むバー「GRUBRO」には武浪さんとのトークを慕う客が年齢を問わず集まる。カレーが名物
写真と文◎編集部
武浪さんの使うオールドタックル
シーバスの楽しみがどこか画一なものになってきていはいないだろうか。いつものポイントでいつものルアー。もちろん釣れれば嬉しいけれど、自分の中のモチベーションが天井に近づいてきてしまったと感じたら、メインストリームから脇道へ散策してみるのも悪くない。
バスフィッシングにおけるトッパーのように、クラシカルな道具立てでシーバスを楽しむ人がいる。そんな話を聞いて中央区月島のバー「グラブロ」を訪ねたのは今年1月のこと。米国で親しんだバスフィッシングの流れを汲んだ80~90年代ベイトタックルへの愛をマスターの武浪望さんに聞いたのだった。メインで使うルアーも米国のボーマーやヘドン、あるいはザウルスのヨルマル、タックルハウスのK-TENというから、ぜひ秋の盛期にその釣りを見せてもらいたいと思っていた。
とは言えハイシーズン幕開けに合わせて発売する月刊誌の取材はその1カ月前、近年の遅れがちな季節の進行もあって、無理に釣果を追い求めるよりもタックル愛も聞かせてもらいつつ普段の釣りを見せてください、とオファーしたのだった。
メジャーどころは使わない
「みんながやっていて定番化したことにはモチベーションが湧かない性分なのかもしれません」と話す武浪さんは、一時期はオールドタックルと言えば誰もが思い浮かべるABUの丸型アンバサダーを収集していたこともあった。
しかし、その魅力が多くの人に周知され中古市場でも価格が高騰するようになると一歩身を引き、現在のお気に入りは今回も持参したアンバサダー・ウルトラマグXLプラス、アンバサダーUSA1、シマノ・バンタムクラドなど。
持ち込んだロッドはシマノ・マグナムライト・ファイティンロッド、ザウルス・ボロンブラックフィン70ヨルマル、スローテーパー・ベイトプラッガー70、ハネダクラフト・へミスティックで、これらはベイトタックルでねらうシーバスゲーム用のロッドとしてシマノ・ファイティングロッドをベースに派生した一群という解釈だ。
古くからシーバスを続けてきた人ならピンときたかもしれないが、武浪さんのスタイルは90年代前半ごろにベイトタックルでのランカーシーバスねらいを提唱していたザウルス・相原元司さんの「ヨルマル」スタイルの影響を色濃く受けている。20代の大部分を米国で過ごし90年代後半に帰国した武浪さんは、バスタックルでシーバスをねらう方法を模索するなかで相原さんと知己を得、またヘドンの巨大ペンシルベイト・スーパーマグナムザラスプークを使ってビッグシーバスを釣らせてくれると評判だったガイド船オブセッションへ通い、今でいうコノシロパターンを引き出しに加えたりしながらスタイルを確立してきた。 つまり自身が歩んできた物語が今日の道具選びの背景にあるからシーバスを手にしたときに自分だけの感動がある。
そんなふうに手にした忘れられない1尾がいる。2012年11月、千葉県・小糸川でキャッチした81cmだ。JGFA(ジャパンゲームフィッシュ協会)が開催していたシーバスフォトコンテストにエントリーした1尾で、武浪さんは関東&中部エリア男性部門で3位に入賞。
「あまり賞をもらえるようなことに時間を費やしてこなかった人生だから、表彰された記念に賞状をお店にずっと飾ってました」
JGFA のシーバスフォトコンテストにエントリーし、3位入賞した1尾
使用タックルの詳細
1.マグナムライトGT-1652ファイティンロッド(シマノ)+AmbassadeurUSA1(ABU)
時代を先取りしたモノコックデザインのリールシートを搭載したバスロッドで、他3本の源流に当たるロッドと捉えている。USA1はプラスチックボディーのAmbassadeurで、ブリスターパッケージで売られていた安価なモデル。剛性感は丸型と比べるべくもないが、プラスチックのおもちゃっぽさがサブカル趣味の武浪さんの感性に刺さった。
80年代の発売ながら今のモノコックグリップに通じる「直感ブランク構造」が搭載されたファイティンロッド。武浪さんにとっては中高生のときに売られていたモデルで当時は存在を知っているだけだったが、ブラックフィン70の逸話を聞いて手に入れた2.ボロンブラックフィン70ヨルマル(ザウルス)+AmbassadeurUSA1(ABU)
親交のあるザウルス・相原元司さんが、厳寒期の特大マルスズキをベイトタックルでねらう「ヨルマル」スタイルのためにデザインした傑作がブラックフィン70で、前述のファイティンロッドからアクションなどに大きな影響を受けているという。高速巻きしたいルアーには利き手の右ハンドルのリールを合わせている。
3.ベイトプラッガー70(スローテーパー)+バンタムクラド(シマノ)
武浪さん行きつけのショップ「スローテーパー」のオリジナルロッド。こちらもヨルマルスタイルの流れをくむ7ft。バンタムクラドは1990年にデビューして一世を風靡したバンタムスコーピオンのUSAモデル。国内版より安価でボールベアリングが少なかった。米国で愛用していた思い入れのある機種で最近買い直した
4.ベイトプラッガー70(スローテーパー)+バンタムクラド(シマノ)
こちらも行きつけのハネダクラフトのオリジナルロッドで小糸川の81cmをキャッチした思い出のロッド。グリップ周りをAAAグレードのコルクと削り出しの銘木でリビルドしている。ウルトラマグは丸型からロープロに移行しつつある過渡期のリールでそのマイナーさがいとおしい
オールドタックルを手に内房へシーバス釣行
武浪さんが現在通っているのは内房の小規模河川。思い立ったらフットワーク軽くアクアラインを渡り、木更津から館山までの小糸川、小櫃川、湊川などを回るのがルーティンだ。
「館山寄りで釣れるシーバスは魚体が太くて湾奥で釣れる個体とは別の系統の魚だと思っています。常磐の魚が館山を回り込んでこの辺りまで入っているのかなと自分なりに仮説を立てて釣りをしているんですが、そういう情報はあまり出回っていないからやっていて楽しいですよね」と武浪さん。
武浪さんのルアーボックス。左上/ヨルマルシリーズ(ザウルス)、ロング16a(ボーマー)、飛豚73 プロップ(ハルシオンシステム)など。ビッグタイガー(へドン)はいつか釣りたい枠。左下/米国製のターポン用のシンペン類など。引いても全く泳がないI字系だが、これが効くときがある。右/ K-TEN(タックルハウス)シリーズを収めたボックス。武浪さんの中では最も手堅い枠
湊川の明暗へ
今回入ったのは富津市の湊川だ。 明るいうちに到着し、4本のタックルをセット。試し投げでブレーキセッティングなどを調整する。
「家でオーバーホールしてきたリールを実践で使えるようにしていく、この時間も好きなんです」 趣味の道具が実戦の相棒になる瞬間がある。これらの河川の川幅は広くても30m前後。使用するルアーもウエイトが大きいものがメインなのでタックルに不足はない。
水位が落ち始めるタイミングを待って護岸際にエントリーした。
「ここは水を被っている段差の上にイナッコが乗っていれば期待大なんですが、見えませんね。やっぱりまだ時期が早いみたいです」
シンペンやリップレスミノーをローテーションしながら橋の下の明暗をねらう。まずは左岸から、次に右岸から。右岸からK-TENブルーオーシャンのリップレスミノーをドリフトさせて橋脚際をタイトに通したタイミングでバイトらしき感触があったが……。
「サイズが小さかったかな~」 あまり執着せずにポイントを変え、ひとつ上の橋まで移動し釣りを続行。どうにも反応が出ないため館山の小河川へも足を延ばしたものの、こちらも期待したベイトの入り方ではない。
バンタム・クラドと7ftのベイトロッドでアメリカンなペンシルをブン投げる
潔い撤退。釣りのある生活そのものを愛する
「普段の釣りだったら、期待している釣りで反応が無ければ帰り支度してますよ」
近所の川にフラッと出かけたわけではなくアクアラインを渡ってきているにもかかわらず、その潔さはどこから来るのだろうか。
「シーバスって、しっかり万全の準備を整えて臨んでも空振りになってしまうことも多いターゲットじゃないですか。でも状況がいいときなら入って2~3投で釣れてしまうこともあります。それって、結局は行ってみなければわからない。情報を仕入れて釣れないときに粘って答え合わせのように釣るよりも、自分のやりたい釣り方で短時間結果の出る勝負をしたほうが僕の場合はドキドキ感というか釣れたときの感動を味わえる。それなら釣れないとわかっている釣りで粘るよりも、家に帰ってフックを研いでいたほうが釣りを楽しんでいる時間は増えるから有意義です。だから魚を釣りたいというよりも、釣りのある生活を楽しんでいたら魚がついてきてるって考えると釣れなくても嫌にならないし、そういうゆるいスタンスで釣りをしているから長く楽しめているのかもしれないですね」
釣果ありきでの釣りにのめり込むのももちろん楽しいが、あるときふと気持ちが離れてしまう感覚は筆者にも身に覚えがある。人生の時間の多くを釣りに費やしてきた人ほど、アイデンティティーにぽっかり穴が開いてしまう恐怖に駆られてしまう。それは不幸なことだと思うのだ。
橋脚の明暗部を探ってワンバイトを得たのみで納竿となったが、そのスタイルはオルタナティブな楽しみを教えてくれた
「寛容な心」で釣りを楽しむために
メインストリームから一歩引いて楽しむ武浪さんはこうも言う。
「趣味の世界って排他的になりがちなことってあるじゃないですか。俺はこのスタイルしか認めないとか、道具はこうじゃなきゃいけないとか。自分で思っているだけならいいんですけど、価値観に合わない人を攻撃してしまう人もいる。釣果ありきの釣りだと、どこかで他人との比較になって自分がやりたかったこととズレてきてしまう。そうなると寛容さをなくしてしまう人もいるんじゃないかなと。そういう世界からは離れていたいんです」
SNSの発達は釣果情報なども集めやすくなった反面、社会のいたるところで人々の不寛容が可視化され多くの人が傷ついている昨今、武浪さんの言葉が心地よい余韻を残してくれた取材となった。
マイペースに楽しむ武浪さんもフックだけは妥協しない。「フックがしっかりしていないと釣りという遊びとして成立しませんから」と話す。極力錆びずに長持ちしてくれてハリ先が鈍りにくいという基準でオーナーばりの「STX-58」「スティンガートレブルSTBL-56」「同ST-46」などを愛用。小糸川の81cm はロング16AとST-46#3でキャッチ。宍道湖で人生初の90cm オーバーをキャッチしたときはスーパーマグナムザラスプークにST-36BC#2/0 だった
※このページは『つり人 2025年12月号』の記事を再編集したものです。