Two Chairs、和田唱がスキマスイッチ大橋卓弥を迎えてのアコースティック2マンは楽しさと希望に満ちた空間に
『SHO WADA presents Two Chairs Vol.2』2025.10.09(thu)東京・草月ホール
和田唱による不定期アコースティック2マン企画、『SHO WADA presents Two Chairs』がスキマスイッチの大橋卓弥を迎えて、10月9日に東京・草月ホールで開催された。5月11日には藤巻亮太を迎えて第1回が開催されており、これが2回目となる。この2マン企画の大きな特徴は、2人のミュージシャンそれぞれがソロでアコースティックギターの弾き語りのステージを行うことと、コラボレーション・コーナーが設けられていることだ。ステージに上がるのが2人だけで、椅子が2つ用意されていることからイベントタイトルが付けられていて、和田のバンド、TRICERATOPS(現在は活動休止中)の同名の楽曲にもちなんでいる。
椅子が2つ置かれたステージに和田と大橋が登場すると、大きな拍手と歓声が起こった。まず、和田がギターを演奏し、続いて大橋のギターが加わって始まったのは、ビートルズの初期のロックンロールナンバー「 I Saw Her Standing There」。1コーラス目は和田がリードボーカルで大橋がコーラス、2コーラス目は大橋がリードボーカルで和田がコーラスだ。観客もハンドクラップで参加。柔らかくみずみずしい和田の歌声と伸びやかで力強い大橋の歌声、2人のハーモニーが混ざり合った瞬間にマジカルでポップな空気が漂った。赤と青を混ぜると紫になるように、事前にはまったく予想のつかない音楽の化学変化が楽しい。2人のコラボレーションというサプライズなスタートに、会場内が沸いた。
「みなさん、ようこそ! 今日のトップバッターはオレです!」と和田が挨拶すると、「それ、ちょっと変だよ。ゲストが後なの?」と大橋。「それでいいんです」と和田が返答し、大橋がいったん下がり、和田のステージからの始まりとなった。まずは、TRICERATOPSの「Hotter Than Fire」から。スリーピースのバンドサウンドから内省的なソロシンガーの世界へと、曲の表情が大きく変わっていたのだが、研ぎ澄まされた歌声とファンキーなカッティングによって、内に秘めた熱さが鮮明に伝わってきた。後半はコール&レスポンスもあり。緩急自在の演奏が見事だ。さらに、和田のソロ曲の「1975」では、ギターと一体となった歌声に胸を揺さぶられた。途中から床に設置したストンプボックスを足で踏み、リズムを刻みながらの演奏となり、歌の世界がさらに広がった。この曲には“明治通りを左折”という歌詞が出てくる。曲の歌詞に沿って左折して表参道を下ると、やがて青山通りに出る。青山通りを左折してしばらく歩いたところに草月ホールがある。1975年の原宿あたりから2025年10月9日の草月ホールへ、時空を超えて目指していく感覚を味わった。
「バンドを休止してソロ活動をするにあたり、シリーズで楽しくできることはないかな、2マンでのアコースティック・ライブ、おもしろいなと考えて企画しました。大橋くんとは以前から『何やろう』という話をしていました。素敵だなと思っている人と一緒にライブをできるのは喜びです。もう1つの喜びは新曲を作ることです」との和田の言葉に続いて、まだレコーディングもしていない新曲「いま」が披露された。自らに問いかけるような思索的な要素がありながらも平易な歌詞になっていて、親しみやすいメロディと素直な歌声とギターの繊細な調べが魅力的なフォーキーなナンバーだ。ファルセットも交えての柔らかな歌声の奥から、確かな意思のようなものも伝わってきた。大きな拍手が起こると、和田が「レコーディングしよう」と一言。
続いては、TRICERATOPSでもほとんどライブでやったことのないレア曲の「It」。<まだ見ぬ自分に出会う旅>を続けていくという歌詞の内容は、現在の和田の心境にも重なりそうだ。コール&レスポンス、ハンドクラップなどで観客も参加。ソロ活動の中で、埋もれていたTRICERATOPSの曲を発掘するのは有意義なことだ。和田のソロコーナー、最後の曲は子どもの頃の自分を振り返りながら作った「Home」。ステージ下手側にあるピアノでの弾き語りとなり、シンガーソングライターとしてのヒューマンな歌声を堪能した。最後のピアノの音は、歌詞の中で描かれた家のドアを開ける鍵の音のように優しく響いてきた。深い余韻の残る歌と演奏に、温かな拍手が起こった。
「(拍手が長くて)出づらくなりました」と言いつつ、再び大橋が登場。「せっかくだから“Two Chairs”しよう」と和田が提案して、ともに椅子に座り、2人の仲の良さがうかがえる愉快なトークを繰り広げた。そのまま2人とも椅子に座ったまま始まったのは、かつてスキマスイッチがTRICERATOPSのトリビュートアルバム『TRIBUTE TO TRICERATOPS』でカバーしていた「if」だ。和田と大橋が向き合って呼吸を合わせ、和田のギターソロで始まり、大橋のボーカルが加わった。ふかふかの毛布のような包容力を備えた大橋の歌声が、スイートなラブソングによく似合っている。2コーラス目のリードボーカルは和田。その歌声からは、せつなさがじわりと滲んだ。それぞれの個性あふれる歌声を堪能できる構成で、後半はソウルフルな掛け合いとなり、どんどん熱を帯びていった。
続いては、スキマスイッチのリアレンジ・リプロデュースアルバム『re:Action』でTRICERATOPSが編曲とプロデュースを担当した「マリンスノウ」。「スキマスイッチの曲はすべてセルフプロデュースで作ってきましたが、既発曲のアレンジを他のアーティストの方にお願いしたら、おもしろいんじゃないかと思いました」と大橋が説明。「曲の良さは残しつつも、オレたちらしさをぶちこみました」と和田が語るように、コード進行やメロディの一部を変更することで新たな表情が加わった。2人の歌と演奏からは、恋の喪失感やせつなさ、儚さなどが浮かび上がった。和田はフルアコースティックギター、Gibson ES-125を手にしての演奏。フルアコの深くて柔らかな音色は、歌から浮かび上がる、雪が海に降り静かに溶けていく情景と見事にマッチしていた。
MCでは子どもの頃に観ていたドラマの話題となり、2人が『俺はあばれはっちゃく』の主題歌「タンゴむりすんな!」を歌う場面もあった。和田は1975年生まれ、大橋は1978年生まれで、ほぼ同世代。ともに大好きだったという『101回目のプロポーズ』の主題歌、CHAGE and ASKAの「SAY YES」のカバーも披露された。ちなみに大橋が初めて行ったコンサートはCHAGE and ASKAとのこと。リスペクトあふれる「SAY YES」は絶品で、恋に落ちた瞬間のせつなさや密やかさを見事に表現。「本気の『SAY YES』です」との大橋の言葉どおり、楽曲に対する深い理解力と豊かな表現力とを両立した歌声に観客が酔いしれていた。ここで和田がステージから去って、大橋のソロコーナーへ。
「先輩の後に演奏するのはどうなのかと思いますが、先輩からのバトンタッチということで僕なりに演奏したいと思います」との発言からは、大橋の謙虚な人柄もうかがえた。まずはソロ曲の「はじまりの歌」から。“真っ直ぐな歌声”がダイレクトにズシッと届いてきてた。ギターのソリッドなカッティングに観客がハンドクラップで参加し、会場内に一体感が漂った。ここからはスキマスイッチの曲が4曲演奏された。「life×life×life」では、フォーキーなアルペジオを奏でながらの体温のある歌声がリアルに響いてきた。この曲には“山手通り”という言葉が出てくる。“明治通り”が登場した「1975」とシンクロするように響いてきたのは、2マンならではの楽しさの1つだろう。ブルージーなハープで始まったのは「さみしくとも明日を待つ」。陰影の深い歌と演奏が聴く者に寄り添い、焦燥感や欠乏感をなだめていくかのようだ。
「唱くんみたいに、みんなで歌える歌を持ってきていません。歌いたい曲、何かありますか?」と問いつつ、大橋が即興で「犬のおまわりさん」を演奏する場面もあった。会場が一体になって、<ワンワン、ワワン>とシンガロングし、会場内にほのぼのとした空気が漂った。すべての観客を笑顔にするステージだ。さらに「犬のおまわりさん」からの「パラボラヴァ」へ。伸びやかな歌声が会場内に響き渡っていく。曲の後半ではストンプボックスでリズムを刻み、観客もハンドクラップで参加し、一緒に歌う場面もあった。大橋のソロの最後の曲の前にはこんな言葉。
「今日は呼んでもらってうれしかったし、楽しかったです。僕も互いに刺激を与えることをできたらと思っています。最後にピアノで1曲弾き語りをします。普段、相方が弾いていますが、真太くん(常田真太郎)がどんな気持ちでピアノを弾いているのか、やってみよう」と言いつつ、「藍」が演奏された。愛ゆえの苦しみや痛みを浄化するような純度の高い歌声に観客が聴き入っていた。大橋のピアノはまるでもう1つの彼の歌声のようだ。深い余韻の残る歌と演奏に長い拍手が起こった。
アンコールでは、和田と大橋が肩を組んで登場。「ありがとう!ナイス・デイ!」と和田。「楽しかった!」と大橋。2人のギターによるロックンロール・セッションから始まったのは、TRICERATOPSの「GOING TO THE MOON」とスキマスイッチの「全力少年」をマッシュアップした「全力GOING TO THE MOON」だった。<Oh Yeah>というコール&レスポンスに続いて、「GOING TO THE MOON」のリフが演奏されると、歓声とどよめきが起こった。2曲の名フレーズが交互に繰り出されて、高揚感がさらなる高揚感をもたらしていく。曲作りの名手にして歌と演奏の名手である2人だからこその自由自在なマッシュアップに、観客も拍手喝采。
「今日は来てくれてありがとうございました」と和田、「呼んでくれてありがとうございました」と大橋。アンコール最後の曲は、坂本九の大ヒットでお馴染みの昭和の名曲「見上げてごらん夜の星を」のカバーだ。輪唱も交えてのぬくもりのある歌声が会場内を照らしていく。祈りのような歌声が重なり合うことによって、ささやかな思いが確かな思いへと強化されていくようだった。演奏が終わり、2人は肩を組んで挨拶すると、盛大な拍手とともに、「ありがとう」という声が客席からあがった。
とても密度の濃い2マンだった。これまでの2人の音楽の交流の成果が形になっていることも実感した。音楽への情熱、互いへのリスペクト、ミュージシャンとしての演奏する喜び、同じステージに立つ者同士の意地、観客に対するサービス精神などが連鎖して、音楽の楽しみが果てしなく増幅していた。この日の2マンからは2人の共通点も見えてきた。率直で気さくな人間性がそのまま歌にも反映されていること、歌詞を大切にして歌っていること、そして、どんなに暗い題材を扱ったとしても、最終的に希望を提示する歌を歌っていたことなどだ。アンコールの最後の『見上げてごらん夜の星を』が象徴的だった。草月ホールのステージから全力で月に向かった2人は、夜空の星のように確かな輝きを放っていた。
取材・文=長谷川誠 撮影=山本倫子