今年憧れの魚<ギバチ>を採集できた話 アリアケギバチとの違い&飼育方法とは?
2024年は私にとって、あこがれの魚を採集することができた年になりました。その憧れの魚は、ナマズ目ギギ科の「ギバチ」です。
ギバチは関東地方や東北地方など東日本に生息するもので、2005年に当時に私が住んでいた福岡県で近縁種のアリアケギバチを採集して以降、ずっと採集したいとおもっていた魚。
それを今年、ついに網におさめることができたのでした。
ギバチを初めて採集
2024年春。関東地方某所の河川で筆者は魚採りをしていました。網の中には国内外来魚であるカワムツやヌマエビの仲間が多数見られました。
そして、その中をくねくねと泳ぐ、“奇妙な黒い魚”が網に入ったのでした。
オタマジャクシかとおもいましたが、よく見るとギバチ。このギバチは、私が19年間ずっと「いつかは採集してみたい」と思っていた魚だったのです。
もちろん、この珍しい魚を大事に持って帰ったことは言うまでもありません。少数を持ち帰って飼育することにしました。
翌日、近所のホームセンターに行き、ギバチの飼育に必要な水槽や機材などを購入。ギバチ飼育がスタートしたのでした。
ギバチとアリアケギバチ
ギバチは神奈川県および富山県以東の本州に生息する日本固有のナマズ目・ギギ科の淡水魚です。
河川の中流域から下流域の緩やかな流れを好み、昼間は岩や流木などの陰にかくれていますが、夜間には積極的に泳ぎ小魚やエビ、水生昆虫などを捕食します。
このギバチによく似ている魚にアリアケギバチという魚がいます。アリアケギバチは名前に「アリアケ」とついているように、九州にのみ生息する種です。
主に筑後川水系、矢部川水系、川内川水系などに生息していますが、ほかにも生息する河川が多くあるものの、近年は河川の開発などによりその生息数は大きく減ってしまっています。
私は九州在住が長く、基本的に「ギバチ」といえば、このアリアケギバチでした。
もともとはシーボルトが採集した、九州産と思われる標本をもとに、テンミンクとシュレーゲルがBagrus aurantiacusを記載し、デーデルラインが1887年に東京で採集された個体をもとにPseudobagrus tokiensisを記載するも、のちにこれらは同じ種とされ、後者は前者のシノニム(同物異名)として扱われてきました。
しかし1995年にようやく、ギバチとアリアケギバチの再記載がなされこの2種は再び別種とされました。
なお学名についてはその後、属が変更され、『日本産魚類検索』の第三版において、ギバチはTachysurus tokiensisとされ、アリアケギバチのほうはTachysurus aurantiatusとされています。
ギバチには縁のない日々……
筆者は2005年に初めてアリアケギバチを採集。そこからいつかはギバチも見てみたいと思うようになりました。
しかし、ギバチをはじめとした関東地方の淡水魚については全く縁がありませんでした。
2014年に関東に引っ越してからも、居住地域は大規模な開発の手が入っていたり、オオクチバスやブルーギル、チャネルキャットフィッシュといった外来魚も多く、なかなか関東地方や東日本固有の淡水魚とは出会うことができていませんでした。
しかしながら今年4月、X(旧Twitter)のフォロワーの方と栃木県へと、タナゴなど東日本産の淡水魚を探しに出かけた際、ついにギバチを採集することができたのでした。初めてアリアケギバチを採集してから19年も経っていました。
ギバチとアリアケギバチには細かい違いが
ギバチとアリアケギバチには細かな違いが見られます。
例えば、ギバチよりもアリアケギバチのほうが背鰭がより高いことや、アリアケギバチでは胸鰭前縁の鋸歯列がより顕著に見られる、などです。
色彩としては、以前採集したアリアケギバチは緑がかった茶色に黄色い模様が入っていましたが、ギバチは全身がより黒っぽく、例えるならおまんじゅうの中に入っている「あんこ」の色をより暗くしたような感じで、それに薄く白い模様が入っているのが特徴のようです。
ただし、撮影用のケースに長時間入れるなどすると、全身が黄色っぽくなってしまうことがあるように思いました。下記画像の黄色いギバチは本記事冒頭の画像のものとは別の個体で、だいぶ小さい個体です。
ギバチもアリアケギバチも先述した通り、背鰭や胸鰭に強い棘を備えています。この棘には毒があるため、素手で触らないように注意が必要です。
さらに厄介なことにその棘は鋸歯状になっており、なかなか抜けにくく、網などに絡まることもあります。採集しても手を触れずに、バケツやプラケースで水ごと掬い観察するようにしましょう。
ギバチを飼育する
ギバチを飼育するのには、次の準備が必要です。
そして本来なら、これらの準備はできればギバチを採集した当日ではなく、あらかじめ準備しておきたいものです。
餌と混泳について
餌はおもに動物性のものを好みますが、ドンコなどとは違って最初から冷凍のエビなどを食べてくれるので助かります。ただ最初のうちは明るい環境では餌を食べないこともあるため、夜間に餌を水槽に投入してあげましょう。
ほかに経験上モロコやモツゴ、ムギツクといったスリムなコイ科魚類や、ヌマチチブなどの小魚も食べますが、それはこれらの魚とは一緒に飼育できないことを意味します。
また、ギバチは配合飼料もならせば食べてくれるので、餌についてはあまり心配はいらないように思います。
ギギ科の魚は同種同士争うこともあり、大型の水槽でもない限り飼育は原則ひとつの水槽に1匹しか飼えないと思ってよいでしょう。これはほかの日本産種や、海外産の種の多くにもいえそうです。
水槽のサイズ
筆者がギバチを飼育している水槽は幅が35センチある水槽と、幅40センチの水槽。
幼魚個体であれば十分飼育できるサイズですが、水槽内でも成長することを考えると、できればもう少し大きな水槽で飼育してあげたいところです。
幼魚であっても、できれば60センチ以上の水槽で飼育するようにしてあげたほうがよいと思います。成魚は90センチ、個体によっては120センチ以上の水槽が必要になることもあります。
筆者は成長したらもっと大きな水槽で飼育する予定です。もちろん大きくなり飼育しきれなくなったから放流する、というのは絶対にやめましょう。
ろ過装置
ろ過装置はとくに高価なものは必要ありません。上部ろ過槽は酸欠に弱いオイカワやカワムツなどの飼育に最適ですが、ろ過能力も高いため、肉食性で生の餌を好んで食う(水を汚しやすい)ギバチには最適といえます。
投げ込み濾過槽もパワーはありませんが、非常に使いやすいため日本産淡水魚愛好家にはよく使われており、筆者が使用している40センチほどの水槽でも意外なほど高いパフォーマンスを披露してくれます。
ただし、中のフィルターはこまめに取り換える必要があり、酸素を送るためのエアチューブなども硬くなったら交換するようにします。
外部ろ過槽は通称「パワーフィルター」と呼ばれますが、その呼び名のわりにはろ過能力はあまり高くありません。密閉式で酸欠になる危険性もあるためです。
一方、水草水槽であれば二酸化炭素を分散させないというメリットがあるため、この方式が主流です。
隠れ家と底砂
ギバチの仲間は岩の下に隠れていたり、空き缶やパイプの中に潜んでいることも多いため、飼育下でもそのような隠れ家を作ってあげることが長期飼育の秘訣ではないかと思っています。
岩や流木などは観賞魚店で販売されることもあり入手は容易ですが、よくアクを取っておかないと、流木からでる成分のせいで水が茶色に濁ってしまう、なんてこともあります。
パイプの中のギバチ
殺風景なものになってしまいますが、塩ビパイプを入れて隠れ家にするのもよいです。
底には川砂を敷いてあげれば、ギバチの地味であるものの魅力的な色彩を引き立たせてくれるでしょう。なおギバチは普通砂には潜らないため、砂は薄く敷くだけでかまいません。
水温
比較的高水温・低水温にはいずれも強い魚ですが、25℃を超えると餌の食いが悪くなるように思います。
ただし、地域個体群によっては高水温には弱い可能性もあります。筆者の家では室内用クーラーをつけて水温調整をしています。