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「北海道の夏は涼しい」はもう過去の話?実は、寒い地域ほど温暖化が進みやすい!そのわけを気象予報士が解説

Sitakke

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北海道では6月にもかかわらず、記録的な暑さが続いています。
実は北海道は、「温暖化の影響を受けやすい」地域なんです。

HBCウェザーセンターの気象予報士・篠田勇弥が、「地球温暖化と北海道」をテーマに、北海道では何が起こっているのか?これから何が起こるのか?連載企画でお届けします。今回は第2回です。

より影響が身近な暮らしに迫ってきた今、何ができるのか…。一緒に考えてみませんか?

【第1回:なぜキャベツ値上がり?なぜ極端な暑さが?いろんな暮らしの変化には、共通の背景があった】

連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」
特別企画:地球温暖化と北海道の話~「日本の気候変動2025」を紐解く~ 第2回・日本海側編

北海道は温暖化の影響を受けやすい

暑さで体調を崩した経験はありませんか?
ここ数年の夏は、北海道とは思えないような暑さが続いていて、「エアコンの売り上げが好調!」というニュースもよく目にするようになりましたね。

私の家にはまだエアコンがなく、去年、一昨年と、寝苦しい夜は保冷剤をタオルにくるんで抱えたり、扇風機の前に凍らせたペットボトルを置いて涼しい風を送ったり、などなど…昼夜を問わない暑さを乗り切るために、冷感グッズを総動員しました。早くもそのシーズンが目前に迫っています。

筆者愛用の冷感グッズです。今年もお世話になる機会が増えそうです。

気象台の見通しによると、今年の夏も気温は平年より高くなる見込みで、北海道では6年連続の暑い夏になると予想されています。

「北海道の夏は涼しい」というのは、もう過去の話なのかもしれません。
ただでさえ物価高なこのご時世。冬の暖房だけではなく、夏も冷房でお金がかかってしまうのか…そんなことが頭をよぎります。

こうした厳しい暑さを受けて、札幌市や函館市、北見市などでは去年から「クーリングシェルター」と呼ばれる、暑さを避けるための無料休憩所の開放が始まっています。家にエアコンがなく、厳しい暑さが予想される時には利用を考えてみるのはいかがでしょうか?
 
このように、地球温暖化は遠い国の話ではなく、私たちが暮らす北海道でも確実に進んでいます。
そして、日本の中でも比較的気温が低く、雪が降り積もり、流氷が流れ着く北海道は、温暖化の影響を受けやすい地域なのです。
 
文部科学省と気象庁が発表した「日本の気候変動2025」をもとに、今回は、北海道の中でも日本海側の雪と夏の暑さに注目し、将来、どのような変化が起こるか読み解いていきましょう。## 意外!?北海道平均と全国平均の違い

これまでの観測から、全国的に気温が上がってきていることがわかっていますが、北海道ではそのスピードが全国平均よりも速い傾向にあります。

都市化が進んだ場所ほど、気温の上がり幅が大きくなっています(「日本の気候変動2025」のデータをもとに筆者作成)

100年あたりの気温上昇率は
・全国平均 +1.40℃
・北海道平均 +1.75℃

※北海道は旭川、網走、札幌、帯広、根室、寿都、函館の7地点の平均

この差には「都市化」の影響が大きく関わっていると考えられます。

というのも、全国平均は、都市化の影響が比較的少ない全国15地点を抜き出した平均値となっています。

それに対し、北海道平均には札幌や旭川など、都市化が進んだ地域が含まれています。

都市部ではアスファルトの道路や建物が多く、夜になっても熱がこもる「ヒートアイランド現象」が起こりやすくなります。その結果、元々の温暖化に加えて、都市化による気温上昇も加わってしまっているのです。

なぜ!?今後は「雪」が気温上昇のポイントに

地球温暖化は、寒い地域ほど進行しやすい傾向があります。
その違いを生み出す**大きな要因の一つが「雪」**です。

晴れた日のスキー場で、雪の照り返しがまぶしく感じる経験をした方も多いと思います。真っ白な雪は太陽の光や熱をよく反射し、地球を冷やす働きがあります。

しかし、温暖化が進み、雪の量や期間が減ると、地面がむき出しになり、そこに太陽の熱が吸収されてしまいます。

すると気温はさらに上がりやすくなり、「温暖化→雪が減る→熱を吸収→さらに温暖化」という悪循環が起きやすくなるのです。

それは北極やシベリアなど、より寒い地域ですでにその傾向が現れていて、北極の氷にいたっては、21世紀末には夏の間、ほぼなくなってしまうと予測されています。

冬の間、北から寒気が流れ込む北海道も同様に、本州方面に比べて温暖化が進みやすいという特徴があるのです。

気温の将来変化(出典:文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」4℃上昇シナリオ(RCP8.5)による21世紀末(2076~2095年平均)と20世紀末(1980~1999年平均)の差))

「追加的な温暖化対策を取らなかった場合」の気温上昇量の予測です。
北の地域ほど真っ赤で、気温の上昇率が高いのがわかります。

温暖化でドカ雪?雪の降り方が極端に

温暖化の影響はすでに雪の降り方にも現れ始めていて、北海道の日本海側の積雪の深さは減少傾向となっています。

雪の少ない方が「生活は楽になる」と多くの喜びの声が聞こえてきそうです。実際に記録的に雪が少なかった今年の1月は、私自身もこの時は雪かきや車の雪下ろし機会がほとんどなく、逆に一気に雪が降るのではないかと心配になるほどでした。
(その後、札幌では1/29からの一週間で68センチの雪が降り、急に積雪が増えました)

今後も温暖化が進めば沿岸部を中心に積雪は減る傾向となりますが、そんなに話は単純ではありません。

まず一つに、全体的な降雪量が減っても、一度に大量の雪が降る**「ドカ雪」のリスクが高まる**ということです。
 
温暖化の影響で海の水温が上がると、日本海の上空に流れ込む大陸からの冷たい空気との温度差が大きくなり、雪雲が発達しやすくなります。

さらに、気温が上がることで空気中に蓄えられる水蒸気の量が増えるため、より多くの水分を含んだ雲ができやすくなります。
これは、夏季の大雨にも同じようなことが言えます。

このように、気温や海水温が上昇することで、一度で大量の雪の降るリスクが高まるのです。

わずか一晩で腰の高さまで雪が積もる異常事態に…。HBC今日ドキッ!内ニュースより 記録的な大雪となった帯広の様子(2025年2月4日放送)

実際に、近年はこうした傾向が現れ始めています。
例えば、札幌では2022年2月5日から6日にかけて、24時間降雪量としては統計史上最大となる55センチの雪が降りました。この時は除雪作業が追いつかず、電車がほぼ丸3日ストップするなど、生活に大きな影響が出たのを覚えている方も多いのではないでしょうか?

さらに、今年2月には帯広で、わずか12時間の間に120センチと、全国でも例がないほどの記録的な大雪となりました。これは釧路沖の海水温が記録的に高かったことがひとつの要因とされています。

このように、これまでに経験したことのない極端な雪が、これから降りやすくなるかもしれません。

雪が減ってしまうと…?

この先も温暖化が急速に進んだ場合、日本海側の積雪の深さは20世紀末に比べておよそ4割も減るという試算が出ています。

北海道にとって「雪」は単なる冬の風物詩ではなく、貴重な水資源ということは忘れてはいけません。

本州のように梅雨がない北海道では、年間の降水量は本州に比べて少なめです。
そして、降水量のおよそ3割は「雪」として降るという、北海道ならではの特徴があります。

冬の間に降り積もった雪が、春になると少しずつとけて、北海道の豊かな水資源を支えています。

ところが、雪が減ってしまうと、水がもっとも必要とされる春から夏の農作業の時期に、水不足の起こる可能性が出てきます。

その結果、「日本の食糧供給基地」とも言われる北海道で農作物の育ちが悪くなったり、価格が高騰したり。最悪の場合は、取水制限を検討しなければならない場合が出てくるかもしれません。

急速な温暖化は、これまで当たり前だった生活が揺らいでしまう可能性があるのです。

文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」より。最深積雪の変化傾向。日本海側の最深積雪は減少傾向で、将来的にはさらに減っていく見通しです。

真夏日が8倍に!?

温暖化が進むと夏の暑さも当然厳しくなります。

追加的な温暖化対策を取らなかった場合、最高気温が30度以上となる**「真夏日」が大幅に増える**と予想されています。

例えば、石狩地方では20世紀末の真夏日の日数は平年で4日ほどでしたが、今世紀末にはおよそ8倍となる年間32日にまで増える見込みです。

石狩地方と同じ日本海側の地域では新潟が平年の真夏日日数が36日なので、将来的に北海道が北陸くらいの気候に変わってしまうかもしれません。

ちなみに、新潟では2018年に観測史上最高となる39.9度まで上がるなど、2000年頃から最高気温が35度以上の「猛暑日」が毎年のように観測されています。

北海道で最高気温が40度超え…なんてことも将来的にはありえない話ではないのです。

2023年8月23日の記録的な猛暑についてのHBCニュースより。札幌では2023年に観測史上最高となる36.3度を記録し、熱中症による緊急搬送が過去最高に。危険な暑さが将来的には当たり前に…?

一方で、冬の寒さにも変化が見られます。一日の最高気温が0度未満となる真冬日の日数は石狩地方で20世紀末時点では1シーズンあたり平均58日に対し、将来的におよそ10日程度まで減少する見込みです。

2024年12月1日のスキー場オープンについてのHBCニュースより

去年は思うように雪が積もらず、各地でスキー場のオープンが遅れました。
冬でも日中、プラスの気温となる日が多くなれば、スキー場のオープンがさらに遅れ、北海道ならではのサラサラな雪「パウダースノー」は貴重なものとなるかもしれませんね。

まとめ

地球温暖化は北海道の風景や季節感に少しずつですが、確実に変化をもたらします。

その結果、今までには考えられなかった極端な暑さや大雪、大雨などの気象災害だけではなく、北海道が誇る一次産業への影響や水不足など、生活をする上で欠かせないところにも影響が出るかもしれません。

これまでの話は**「追加的な温暖化対策を取らなかった場合」**のシミュレーションに基づいたものです。

こうした未来の可能性があることをまずは知ることが、急激な温暖化を防ぐための第一歩になると思います。

次回は北海道の太平洋側と海の温暖化に注目して、将来的にどのような影響が出るかを一緒に見ていきましょう。
海水温の変化は、気温ほど変化を感じにくいことではありますが、台風の発達など今後の北海道にも深く関わってくる大切な要因です。

ぜひ、次回も読みに来てくださいね。

連載「気象予報士コラム・お天気を味方に」
特別企画:地球温暖化と北海道の話~「日本の気候変動2025」を紐解く~

文: HBCウェザーセンター 気象予報士 篠田勇弥
札幌生まれ札幌育ちの気象予報士、防災士、熱中症予防指導員。 気温など気象に関する記録を調べるのが得意。 趣味はドライブ。一日で数百キロ運転することもしばしば。
HBCウェザーセンターのインスタグラムでも、予報士のゆる~い日常も見られますよ。

※掲載の情報は記事執筆時(2025年5月)の情報に基づきます

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