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【キラン・ラオ監督「花嫁はどこへ?」】 インド社会、女性のポジション

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで10月4日から上映中のキラン・ラオ監督「花嫁はどこへ?」から。2025年3月2日に受賞作が発表される第97回米国アカデミー賞国際長編映画賞のインド代表作品。

舞台は2001年のインドの農村部。同じ赤いベールで顔を覆った花嫁2人が、花婿の家に向かう列車の中で取り違えられる。善良で朴訥としたティーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ)が家族の前に連れてきたのは結婚式を挙げたプール(ニターンシー・ゴーエル)ではなく、列車で偶然居合わせたジャヤ(プラティバー・ランター)だったー。

花嫁を取り違えるミスの一つの因子として「顔をすっぽり覆うベール」という小道具がある。もともとは「幕などで内と外を隔離する」という意味を持つ「パルダー」という習慣によるもので、家から外へ出るときや目上の人と接する時、敬意を払う意味を込めて視線を合わせないように目深に被るという。劇中でもこれをかぶったジャヤが「(自分と相手の)靴しか見えない」と言い、女性側が相手の取り違えに気づかない理由としても語られる。

このことも含め、作中ではインド社会の慣習や制度でいかに女性が被抑圧的な立場に置かれているかが、繰り返し語られる。女性が夫の名を口にすることがはばかられること。嫁ぐ女性の持参金や「持参財」の多寡が一つの物差しになっていること。進学の意思があっても家族が決めた結婚話を容易には覆せないこと。

そうした事情を声高に主張するのではなく、社会にうっすらと共有されている価値観として、さり気なく提示するのが本作の美点だ。そして、悲劇的な状況に置かれたヒロイン2人は、それぞれに自らの進むべき道を見定めていく。「あなたのおかげで自分を見つけた」「夢に許しはいらないよ」。終盤のとある応答が、本作の本質をよく表している。(は)

<DATA>※県内のその他の上映館。10月4日時点
シネマイーラ(浜松市中央区)※11月22日から(予定)

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