キャリアアンカーとは?診断方法や分類、活かす方法などを解説
キャリアを選択する際に重視する要素や価値観である「キャリアアンカー」。働く人にとって自身のキャリアアンカーを明確にすることは、理想のキャリア形成に役立ちます。企業にとっても従業員のキャリアアンカーを把握することで適材適所の人材配置や効果的な育成が可能となり、組織の成果向上が期待できるでしょう。
この記事では、キャリアアンカーの8つのタイプやその診断方法に触れたうえで、それらをどのように活かせるかについて個人と企業の両者の視点から解説します。
キャリアアンカーとは
キャリアアンカーとは 「働くうえでこれだけは譲れない」といったキャリアを選択する際に、最も重視する要素や価値観 のことを指します。この概念が生まれた背景には、グローバル化や人工知能の発展に伴い、業務内容が変化しているなかで従業員一人ひとりが「何を大切にし、どのように働きたいのか」を把握する必要性が高まったことが挙げられます。
キャリアアンカーの3要素
キャリアアンカーを考える際には欠かせない3つの要素があります。
コンピタンス
コンピタンスとは、 自己の得意分野や特技 を意味します。これは、自らのスキルや知識、経験に基づいており、自信を持って他者と差別化できるポイントです。自身のキャリアを考える際には自分が何に強く、どのような業務で成果を上げられるかを見極めることで、適切な職務を選択したり、自身の強みを生かすポジションを目指したりすることが可能になります。
動機
動機とは、 自分が関心を持っていることや実際にやりたいと思っている活動 を指します。例えば、特定の職種に魅力を感じたり、ある業界での経験を積みたいと願ったりすることです。自身の動機を明確にすると、どのような方向に進んでいきたいのかの軸を持つことができ、理想のキャリアパスを実現しやすくなるでしょう。
価値観
価値観とは、 自分にとって何に意味や価値を感じるか を指し、これは個々の人生における優先順位や倫理観に深く根ざしています。自身の価値観を把握することは納得できる職場環境を見つけ、満足できるキャリアを築いていくために必要不可欠です。
キャリアアンカーと類似する用語
キャリアアンカーと類似する用語として「キャリアサバイバル」と「プランドハプンスタンス」があります。それぞれの特徴やキャリアアンカーとの違いについて解説します。
キャリアサバイバル
キャリアサバイバルとは、環境や組織のニーズを分析し、個人のキャリア要求と組織のニーズを合わせる考え方です。この概念は個人の性格や価値観が重要である一方で、企業とのマッチングが適切に行われないことから生じる課題を解決するために考案されました。キャリアサバイバルでは、「どうすれば組織の期待に応えられるか」や「企業の成長にどのように貢献できるか」が重視されます。
キャリアアンカーは自己の内面に焦点を当てた個人の視点であるのに対し、キャリアサバイバルは外部環境との調和を図り、より実践的なアプローチでキャリアを考えるといった組織・企業の視点というのが両者の違いです。
プランドハプンスタンス
プランドハプンスタンスとは、「計画された偶然」や「計画された偶発性理論」と呼ばれるキャリア理論です。この概念は、従来のキャリア形成の考え方とは異なり、意図せず発生した出来事や環境の変化を積極的に受け入れ、それをキャリアに活かそうとする姿勢を強調しています。具体的には予期しない出来事や機会に対して柔軟に対応し、そこから新たなスキルや経験を獲得することを重視します。つまり、当初の計画に囚われず、状況に応じて柔軟にキャリアを展開していくことを目指すものです。
キャリアアンカーは環境が変化しても変わらないものであるのに対し、プランドハプンスタンスは外部環境に柔軟に対応し偶然の機会を活かす、変化を前提とした点が両者の違いです。
キャリアアンカーの8つのタイプ
キャリアアンカーは、次の8つのタイプに分類されます。各タイプは異なる価値観を反映しており、自身に合った働き方や職種を見つける際の指針となります。
1. 専門・職能別能力
専門的なスキルや知識を追求することを重視するタイプです。専門性を高めるのがキャリアの中心であり、自身の成長を感じることでモチベーションが高まります。技術職、研究職といった知識や技術を積み上げる職種に向いており、専門性を活かせない仕事を任されると仕事への満足度が下がる傾向にあります。
適職例:研究職、弁護士、エンジニア
特徴:自分の専門性を高め、能力を発揮することで自己実現を果たす。
2. 管理能力
組織全体を見渡し、リーダーシップを発揮することに喜びを感じるタイプです。戦略的な思考やチームをまとめる能力、問題解決能力に長けています。専門性に特化するのではなく、責任を負う立場を担うことで成長します。
適職例:コンサルタント、マネージャー、管理職
特徴:大規模なプロジェクトを統括し、チームを率いる役割で成果を出すことにやりがいを感じる。
3. 自律・独立
自分のペースで仕事を進めることを重視するタイプです。他者からの指示に依存せず、自らの意志でプロジェクトを進めることで、創造性が発揮される傾向があります。自由な職場環境やフレキシブルな働き方を望みます。
適職例:フリーランス、クリエイティブ職、研究職
特徴:自分のペースやスタイルを守りながら働くことを重視する。
4. 保障・安定
将来の安定性や長期的な雇用を求めるタイプです。経済的な安定や福利厚生を重要視しており、ストレスの少ない職場環境を好みます。変化やリスクを避け、親しんだ環境で長く勤める傾向があります。
適職例:公務員、銀行員、大企業の正社員
特徴:同じ企業でキャリアを積むことを望む。保証や安定を重視する。
5. 創造性
新しい価値を生み出すことを重視するタイプです。独自の視点で物事を捉え、創造的なプロジェクトに熱意を持つ傾向があります。リスクを取ることを厭わず、革新を追求する姿勢が特徴的です。
適職例:起業家、スタートアップ企業、ベンチャー企業、商品企画
特徴:リスクを恐れず、新しいサービスや商品を創り出す。
6. 奉仕・社会貢献
他者や社会に貢献することを重視するタイプです。自らの仕事が社会にどのように役立つかに強い価値を置き、世の中や人に奉仕する仕事へ情熱を注ぐ傾向があります。自分の能力を発揮して活躍するよりも、人の役に立つことに喜びを感じます。
適職例:医療従事者、教育者、NPO職員
特徴:人の役に立つ仕事、社会貢献活動に喜びを感じる。正義感が強いため、監査、人事部門などにも向いている。
7. チャレンジ
高い目標を設定し、それを達成することに喜びを感じるタイプです。困難を乗り越えることでさらなる成長を遂げられ、リスクを恐れずに新しい領域に挑む傾向があります。単純作業やルーティンワークは苦手ですが、ハードワークを厭わず自分磨きに余念がないタイプです。
適職例:営業職、スポーツ選手、エンジニア
特徴:困難な状況を乗り越えたり、課題を解決したりすることに喜びを感じる。
8. ワークライフバランス
仕事とプライベートの調和を重視し、家庭や趣味の時間を確保することを望むタイプです。仕事に対して情熱を持ちながら働く一方で、プライベートの時間も大切にできるフレキシブルな働き方を求める傾向にあります。
適職例:柔軟な勤務形態の職場、事務職、クリエイティブ職
特徴:家族との時間や趣味の時間を大切にする。仕事とプライベートを両立できるフレキシブルな働き方が向いている。
キャリアアンカーのタイプ診断方法
前章の8タイプどれに該当するかは40個の質問に回答することで明らかになります。以下に示す各カテゴリの質問事項に対して、「1:全く違う」「2:やや違う」「3:どちらかというと違う」「4:どちらかというと当てはまる」「5:だいたい当てはまる」「6:完全に当てはまる」の6段階で評価のうえ合計点を算出し、その数字が大きいタイプほど該当する度合いが大きいということです。
専門能力を評価するための質問
「この領域は○○に相談して」と言われるほど、専門家としての意見を頼られる分野で成果を出すことを目指している。 仕事を通じて専門的な技能や技術を磨けると感じると、成功の可能性を感じる。 ゼネラルマネージャー(部門長)よりも、専門的な領域でマネージャーになるほうに魅力を感じる。 自分の専門的な知識以外の職務に異動する場合、退職することを選ぶ。 自らのスキルや才能を活かせたときにこそ、仕事への充実感を最も実感する。
管理能力を評価するための質問
チームの士気を高め、適切に管理することで大きな成果を挙げたとき、仕事に対する満足感を最も感じる。 組織をまとめ、多くのメンバーに影響を与えられる意思決定を行う立場を目指している。 ゼネラルマネージャー(部門長)としての役割を果たすときこそ、自分が活躍できると感じる。 自分の専門的な職能エリアで上級管理職になるよりも、ゼネラルマネージャー(部門長)としての役割が魅力的だ。 ゼネラルマネージャー(部門長)のキャリアから外れる可能性があるのなら、退職を選ぶほうがいいと感じる。
自律・独立を評価するための質問
自身が決めた「方法」や「スケジュール」に従い、仕事を進めることを重視している。 自分の意向どおりに仕事の「スケジュール」や「手順」を設定できるとき、最も充実感を感じる。 完全な「自立」や「自由」を達成した際にこそ、力を発揮できると感じる。 安定した長期的な保障よりも、規制や制約を受けずに自分が望む形で仕事をする機会が重要だと思う。 「自律的に行動できない」「自由が限られている」と感じる仕事をするくらいなら、退職を選ぶ。
安定を評価するための質問
自由や自律が重視されるよりも、将来が保障されていることのほうが自分にとって重要だ。 契約や処遇が不確かな仕事に配置されるなら、すぐに退職を選ぶ。 変動の少ない環境で「安心感」を感じられる職場が希望だ。 収入面や雇用面が十分に確保されているとき、仕事への満足感を最も実感する。 将来が確保され、安心して仕事に取り組めることが重要だ。
創造性を評価するための質問
起業につながるアイデアを常に追い続けている。 他者が運営する組織で高い地位に就くよりも、自身で起業することを重視している。 自分の「アイデア」と「努力」で何かを創出できたときに、仕事への充実感を最も感じる。 自分のアイデアから生まれた製品を世に出し、成功に導いたときにこそ、自分の力が発揮できる。 自ら立ち上げた事業を成功に導くことを目指している。
奉仕・社会貢献を評価するための質問
仕事が成功したと実感するのは、「社会に本当に貢献できた」と感じた瞬間だ。 仕事を通じて、自身の才能が他者に役立ったと感じたときに最も充実感を得る。 職場で高い地位にいることよりも、自分のスキルを使って世の中をよくするほうが重要だ。 人類や社会への貢献が大きい仕事を目指している。 自分の能力を周囲の人々のために活かせない仕事を任されるなら、退職を選択する
チャレンジを評価するための質問
難しい課題を解決したり、困難を突破したりするような大きな挑戦を求める仕事を望む。 極めて難しい課題に直面し、それに挑戦し克服したときに仕事への充実感を最も感じる。 解決不可能と思われる問題を解決したり、困難を突破したりしたときに仕事への満足感を最も抱く。 自らの「問題解決能力」や「戦略的思考」を駆使できるような挑戦を探求している。 解決困難な課題に挑戦することが、高い地位を得るよりも重要だと考える。
ワークライフバランスを評価するための質問
家族との時間が犠牲になる仕事に異動するくらいなら、退職を選ぶ。 家族に関する自分の希望と、仕事で求められることがうまく両立できる仕事を目指している。 個人的な要求、家族からの要望、職場での期待のバランスをうまく取れたときに、成功を感じる。 高い地位に就くよりも、プライベートと仕事をうまく両立させることが大切だ。 自身や家族の関心事に影響を及ぼさない形で、仕事を得ることを常に求めている。
企業がキャリアアンカーを活かす方法
キャリアアンカーは個人だけでなく、企業においても有益です。ここでは、「人材育成」と「人事異動」の2つの観点からキャリアアンカーの活かし方を紹介します。
人材育成
新人研修の中でキャリアアンカーについて学ぶ機会を提供することで、従業員が自身の価値観を認識しやすくなります。また、既存の従業員に対しても適性や価値観を踏まえた配置転換やプロジェクト配属を行うと、成長を促すことが可能です。
人事異動
異動時にキャリアアンカーを考慮することで、従業員の不満を減らし、生産性を向上させられます。例えば、創造性を重視する従業員を管理職に昇進させるのではなく、新規事業の立ち上げに携わらせることで、より高い成果を引き出せるでしょう。
個人がキャリアアンカーを活かす方法
自己の特性や価値観を明確にすることで自己理解が深まり、どのような職務や環境が自分に合っているのか、どのようなステップアップをしていきたいかなど、 キャリアデザインの判断材料を持つことができます 。
また、個人のキャリアに対する要求と組織のニーズの調和を試みる「キャリアサバイバル」と一緒に活用することで、転職活動でも役立ちます。自己理解を深めたうえで外部環境に合わせた柔軟性を持つことで、理想のキャリアを築きやすくなるでしょう。
キャリアアンカーを活用する際の注意点
キャリアアンカーを利用する際にはいくつかの注意点があります。第一に、 診断結果に基づいて従業員の価値観を決めつけない ことです。キャリアアンカーは一つの指標に過ぎず、全ての人に当てはまるものではありません。自己理解を促進する手段として使うべきであり、他者を評価する基準にはしないよう心掛けることが重要です。また同じ個人でもキャリアアンカーは不変なものではなく、時間の経過や環境の変化によって異なる価値観に至ることも留意すべきです。
また、キャリアアンカーのタイプには良し悪しはなく、特定のタイプの人だけを採用したり配属したりするといった判断も適切ではありません。 それぞれのタイプが持つ強みが合わさると、組織として新たな視点や価値を生み出すことができる でしょう。
まとめ
今回は、キャリアを選択するうえで重視する価値観である「キャリアアンカー」について3つの構成要素や8つのタイプとその診断方法、さらには企業や個人におけるキャリアアンカーの活かし方について解説しました。
自身のキャリアアンカーを明確にすることは理想のキャリアを築くための指針となります。企業にとっても従業員のキャリアアンカーを把握したうえで育成や人事配置を行うことで、従業員や組織全体の成長を促進できるでしょう。この記事を参考にぜひ自身のキャリアアンカーを把握し、今後のキャリア形成に活かしてみてください。