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7000体のAIエージェントを投入したPKSHA代表が語るAIの進化

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7000体のAIエージェントを投入したPKSHA代表が語るAIの進化

AI業界の競争は激しく、昨日まで最先端だった技術が、今日には陳腐化してしまうことも珍しくない。その開発の“ど真ん中”にいるエンジニアにとって、この状況は大きなジレンマだろう――。

そんなリアルを感じさせられたのが、2025年4月21日に開かれたAIベンチャー・PKSHA Technology(以下、パークシャ)による『PKSHA AI Agents』のメディア向けローンチ発表会だ。

国内ではまだバズワード感が拭えない「AIエージェント」という言葉だが、同社はすでに7000体ものAIエージェントを社会実装済みという実績を明らかにし、会場からも驚きの声があがった。

本記事では、改めて抑えたい「AIエージェントの技術的な深掘り」をはじめ、7000体投入の裏側で見えてきたAI活用におけるリアルな課題、そして「AI社員」がもたらすであろう衝撃、さらには進化の最前線に立つ開発者たちの心境を、発表会の内容より一部抜粋して紹介したい。

目次

改めて、AIエージェントとは何を指すのか?7000体投入して見えた、企業のAI実装を阻む壁とは?AI社員なら人間の“半分以下の年収”で雇える時代に仕事や働くことのあり方も変化していく

改めて、AIエージェントとは何を指すのか?

発表会の冒頭、パークシャ代表の上野山 勝也さんは、昨今急速に注目を集める「AIエージェント」という言葉が表す技術的な進化と、この技術が社会に与えるインパクトについて見解を述べた。

上野山さんによると、「AIエージェント」という言葉は、AI技術の進化を表すキーワードだという。その真意について、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする生成AIの進化を「物知りなAI」から「考えるAI」へ、そして「行動するAI」へと段階的に捉え、「AIエージェント」はこの「行動するAI」を体現するキーワードであると説明した。

【物知りなAI】
ChatGPTに代表される、質問応答や文章生成を行うAI。これに社内データなどの外部のデータリソースから関連情報をリアルタイムに検索し、その情報をLLMに提供する仕組みを加えたのがRAG(検索拡張生成)
【考えるAI】
OpenAIのo3やDeep Researchのように、出力された情報をさらに処理し、もう一度考え直す能力を持ったAI。リーズニング(reasoning)と呼ばれ、論理的な思考や推論を行うモデルで、事前学習ではなく、事後学習の領域をこなす
【行動するAI】
テキスト入力に対し、テキスト出力だけでなく、ウェブサイトからの情報取得や既存ソフトウェアへのデータ入力など、実際のアクションを実行できるAI

特に、労働人口不足が深刻な日本において、AIが自ら考え・行動し、より幅広い業務を担うことへの期待感が高まっていくだろうと指摘。この進化の流れの中で、「AIエージェント」という言葉が、様々なソフトウエア操作が可能になるという期待とともに広まっている現状を示唆した。

7000体投入して見えた、企業のAI実装を阻む壁とは?

次に、同社はすでに7000体ものAIエージェントをさまざまな企業に提供し、実際の業務で活用されている事例が発表された。

上記は23年11月のパークシャ決算資料。当時AIエージェントの数を「約6000体」と表記していたが「現在は約7000体に増えている」(株式会社PKSHA Workplace 執行役員 山本健介さん)と説明された。

AIエージェントという言葉がバズワードとして飛び交う中で、7000体ものAIエージェントをさまざまな産業・企業に提供し、実際の業務で使われ、今後更なる増産を見込めるほど社会実装に成功している秘訣は一体どこにあるのだろうか。

上野山さんは、有効なアプローチの一つとして「段階的な導入戦略」を紹介した。

「10年前に“ディープラーニング”という言葉がバズワード化した時もそうでしたが、みんな『AIで何かできるんじゃないか』と期待を寄せる。しかし、実際に取り組んでみるとPoC(概念実証)段階で止まるケースが世界中で散見されました。

今回の生成AIに関しても、『いろいろできそうだぞ!』という期待感はあるものの、やっぱり様々な企業の中でPoCで終わってしまうケースが多いのが現状ではないでしょうか。これはAIエージェントも然りです。この『PoC止まり』を繰り返さないためにも、まず社内で1人目のAIエージェントに働いてもらうことが鍵です」(上野山さん)

1人目のAIエージェントが働き始めると、AIエージェント上で対話データなどが解析され、潜在的な従業員ニーズが明らかになる。従業員ニーズが分かると、2人目3人目と拡がりやすいそうだ。

「最終的には3人以上のエージェントが実際に業務を遂行する段階へと進めていくことがPcC止まりを突破するポイントです」と話す上野山さん。

さらに、「何ができて何ができないか」を明確にさせることも重要だと語る。

「何ができて、何ができないのか。これを事前に明確に整理することをおすすめします。私たちがAIエージェントの導入プロジェクトを進める際も、業務をAIで『絶対にできること』『(技術的・原理的に)絶対にできないこと』『できる可能性があること』の三つに分類し、顧客企業に対して現実的なソリューションを提供することが大事。これを実現するのが今回発表した新サービスでもあります」

AI社員なら人間の“半分以下の年収”で雇える時代に

さらに驚いたのは、パークシャが提示したAIエージェントの導入コストだ。同社によれば、AIエージェントは年額200万円から導入が可能だという。

これは、日本の平均年収と比較して、およそ半分程度のコストで「人間と遜色ない働きをするAI社員」を雇用できる計算になる。

「このコスト構造は、企業が労働力不足の解消やコスト削減のために、AIエージェントの導入を本格的に検討する大きなインセンティブとなり得るでしょう」(上野山さん)

同社のAIエージェント派遣サービスで特徴的なのは、プロジェクト型とプロダクト型の二つのアプローチを用意している点だ。

プロジェクト型(セミカスタマイズ)
顧客企業の新規のAIエージェント群を、同社がサポートしながら開発していく。
プロダクト型
同社がすでに開発済みのAIエージェントを、顧客企業に派遣し、早期に効果を実感してもらう。

後者の「既存AIエージェント」派遣プランを用意することで、企業がスピード感を持ってAIエージェントをお試しできるため、「1人目導入」に踏み切りやすくするのだろう。

また、「日本の平均年収の半分程度の金額で働いてくれるエージェントを、今後どんどん派遣していきたい」(同社AI Solution事業本部 松澤さん)という言葉からは、同社がいわば「AIエージェント派遣会社」のような立ち位置を確立していくような印象も受けた。

発表の中では、いくつかの具体的な導入事例も紹介された。驚いたのは、いわゆるアシスタント業務の域を超えたタスクをこなしてくれるという点だ。

今回ローンチが発表された『PKSHA AI Agents』をはじめ、同社のAIエージェントは、顧客企業のニーズに合わせてカスタマイズされ、ヘルプデスク業務、ナレッジ管理、営業支援、採用支援など、多岐にわたる業務を担っていくという。

例えば、

●社内に散在するFAQやドキュメントから、質問内容に応じて最適な情報を瞬時に導き出し、回答する。
●過去の問い合わせ履歴を分析し、頻出する課題を特定、その解決策となるナレッジを自律的に作成し、提案する。
●従業員全体に対して、必要な情報をAI側から積極的に発信し、その問い合わせ対応まで自動で行う。
●特定の業務に特化したカスタムAIエージェントとして、複雑な業務の問い合わせに対応したり、採用面接を自律的に実施したりする。
●ベテラン社員の持つ暗黙知を、対話を通じて形式知化し、組織全体のナレッジとして蓄積する。
●アバターの姿で、顧客や従業員との自然な対話を通じて、情報提供や問題解決を行う。

これらの例を聞くと、AIエージェントがもはや単なる作業効率化ツールではなく、高度な知識労働や専門的な判断さえも代替しうる存在になっていくのだろうと感じざるを得なかった。

仕事や働くことのあり方も変化していく

上野山さんはAIエージェント開発に携わるエンジニアが抱える率直な思いについても語った。それは、「自分たちが開発しているこのAIによって、昨日の仕事がなくなるかもしれない」という捉え方だ。

「AI技術の進化は加速度的であり、今日まで不可能とされていたことが、明日には当たり前のように実現しているかもしれない。PKSHAのエンジニアたちも最先端のAIエージェントを開発しながら、『AIに任せられそうだな』という実感を、毎週のように感じながら、最前線で技術開発に取り組んでいます」(上野山さん)

革新的なAIエージェントを生み出す喜びを感じると同時に、仕事や働くことのあり方も変化することを実感しながら取り組んでいるという。

「GAFAMなどのビックテックであっても、エンジニアが1000人単位で解雇される現実も生まれています。

それほどAIが社会や働き方に与えるインパクトは大きく、使い方を間違えると諸刃の剣にもなりかねない」と上野山さんは前置きした上で、こう結んだ。

「ただ、グローバルな視点で見ると、AIを使わない会社が、積極的に使う会社との競争に勝ち残れるかというと、懸念が残ります。

そして、『人の言葉を話し、まるで人間のようにタスクをこなすソフトウエア』の登場は、人類の歴史においても前例のないことです。これまでの業務のバリューチェーンは、人間による伝言ゲームで成り立ってきたわけですが、そこに、AIが介入する時代になる。

パークシャではその点をネガティブに捉えるのではなく、人とソフトウエアが共に進化し、高め合うデザインがしたい。AIによって人間の働く喜びが消えるのではなく、むしろ増幅するような、そんな共進化が実現できないかと問い続けています」

今回のパークシャの発表会は、最先端のAI技術が社会実装されつつある現状を、具体的な7000体という数字を通して私たちに示した。そして、この実績から、AIがもはや未来の技術ではなく、現在のビジネスを支える重要なインフラになりつつあることが分かる。

しかし、それ以上に、AI進化の裏側で、未来を切り開こうとするエンジニアたちの葛藤と、それでも前進しようとする強い意志を垣間見ることができた、極めて貴重な機会だった。

AIは、私たちの仕事を奪う脅威なのか。それとも、共に未来を創造するパートナーなのか。その答えは、作り手であるエンジニア自身の行動にかかっているとも言えそうだ。

編集/玉城智子(編集部)

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