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作・演出・出演の宮藤官九郎を直撃 阿部サダヲと松たか子が離婚裁判で歌いまくる、大パルコ人5オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』

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宮藤官九郎

大人計画とPARCO劇場共同プロデュースによる、宮藤官九郎作・演出のオリジナル・ロックオペラ・シリーズ「大パルコ人」。2009年の第一弾以来、近未来を舞台に、学園ものや兄弟愛ものなどさまざまな物語を展開してきた。第五弾となるオカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は、“親バカ”をテーマに、阿部サダヲ扮するミュージカル俳優と松たか子扮する演歌歌手が法廷で親権裁判を繰り広げる。宮藤にシリーズ最新作への意気込みを聞いた。

大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』

ーー現在放映中のドラマ『しあわせな結婚』でも夫婦役に扮している阿部サダヲさんと松たか子さんが夫婦を演じます。

こっちの方が先に決まっていたんです。ドラマのことも知ってはいましたが、絶対違う風になるだろうからいいかなと。松さんは、俳優として共演はしていますが、舞台作品で関わるのは脚本を書いた劇団☆新感線『メタルマクベス』以来。あの舞台の松さんがすごくよかったんでいつか何かやれたらと思っていました。今回の企画を考えていて、この役は松さんにぴったりなんじゃないかな、歌もすごいしおもしろくなるんじゃないかなと思いました。阿部サダヲくんは第一弾のメカロックオペラ『R2C2 ~サイボーグなのでバンド辞めます!』に出てもらって以来。最近も一緒にライブをやったり、他の仕事もやってるからあまり久々感はないですね。二人の名前が出たとき、法廷ものをやりたいなと。前からこのシリーズでやりたいと思っていたんです。法廷って日常なのに舞台装置っぽいじゃないですか。座ってる判事とか書記官が楽器弾いたりしたらおもしろいなと思って、離婚裁判の話、いいじゃんと。法廷って、本来人に言われたくないこと、できれば内緒にしておきたいことまで全部大っぴらになる場所じゃないですか。それが全部歌詞になってたらおもしろいなって。

ーー法廷に実際に行かれたことは?

だいぶ前に、ミニコミ誌で裁判を傍聴する企画で何回か行ったことがあります。知らない人の知らないことをいきなり関係ない僕らが聞くっていう状況がすごくおもしろくて。ノイローゼとかで子供を死なせてしまったお母さんの裁判とか、集団リンチをした人の裁判とかを見て、一日の短い時間でこんなに違う話に出会えるのはすごいなと思って。

宮藤官九郎

ーータイトルについておうかがいできますか。

意味、ないですね(笑)。松さんの役が演歌歌手なので、歌う演歌の曲のタイトルにしようかなと。裸足で好きな人の裁判を聞きに来た女という設定の演歌を歌う。それ以上の意味をどうやって見つけようかなって。こんなタイトルつけちゃったけど最終的に関係なかったじゃねえかってなっちゃうかもですね(笑)。

ーー『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は「大パルコ人」シリーズ5作目です。

このシリーズは周りから楽しそうとか言われるんですが他の仕事よりしんどいんですよ。音楽を入れなきゃいけない、歌詞も書かなきゃいけない、笑いも入れなきゃいけないって、やることがいつもより多くて。自分にとって本当に気持ちのいい、理想の完成形があって、そうならないと気持ち悪くて先に進めない。他の作品より全然時間かかるんです。あと、一応サーガになってるというか、同じ世界線でこれまで4本作ってるんです、誰も真面目に観てないと思うんですけど(笑)。渋谷で上演するときは渋谷を、池袋でやったときは池袋を舞台にしてとか、どうでもいいルールを自分で勝手に作っちゃったので、それが縛りになっちゃって。あと、今まで設定が、2044年、2022年、2033年、2055年と下二ケタがゾロ目になってるんですが、それも多分誰も気づいてないから今回もういいやと思ってやめました(笑)。

ーー今回のテーマは“親バカ”です。

うちの娘、父親が僕っていやだろうなとすごく思うことが多くて。いいって思うことより、いやだって思うことが多いだろうなと。あと、最初からすんなり親になれて、親の役割をちゃんと果たせる人は、親になるのが向いてた人だと思うんですけど、向いてないのに親になっちゃうとすごく大変なんですよね。親バカになると思ってなかった人が親バカになったりするのを見て、あ、この人もかって、すごく親近感が湧いたり。

ーーご自身も親バカ?

はい。そうだと思います。今回は、演歌の歌手とミュージカル俳優の子供だから歌が上手いだろうと思って二人で音楽をやらせるんだけれども全然その才能が開花しないというイライラ、この子は天才なんだって、幼い頃に言われちゃったから、息子はもう何もできなくなっちゃいますよね。天才と天才の子供だから天才だろうって言われてたら、生きにくいだろうなって。そんな子供を峯田(和伸)くんに演じてもらいたいなと。

宮藤官九郎

ーー演歌歌手とミュージカル俳優という設定を思いつかれたのは?

松さんが演歌歌手って意外性があってよいかなと。阿部くんはバンドで歌ってはいるけれどもミュージカル俳優ではない。演歌もミュージカルもコアな人にはすごく愛されてるけれども、知らない人にはそんなに知られていない。紅白歌合戦とか見てると演歌を歌ってる時はもう、必ずケン玉と一緒、ドミノと一緒とか、迷走しているというか、扱いが、かわいそうですよね。あと、僕ラジオを聞くのが好きなんですけど、ミュージカル俳優の人のラジオ番組っておもしろいですね。ラジオなのに毎週歌ってる、そんなに歌いたいんだって(笑)。

ーーこのシリーズをやっていて楽しい部分は?

本番は本当に楽しいですね。毎回、終わんなきゃいいのにって思います。バンドの曲だったらずっと演奏するけど、この曲はもうこの先、弾かないし歌わないんだなって思います。だから、舞台が始まっちゃえば楽しい。役者さんの喉のケアとかもしなきゃいけないけど、稽古も楽しいですね。

ーー役者自らが演奏するのもこのシリーズの特色です。

演奏専門の人、ダンサーの方を入れた方がクオリティが上がるのもわかってるんですけど、そうすることで何かムードが変わっちゃうというか、演奏のプロ、ダンスのプロを招いたら、僕たちは芝居のプロになっちゃうじゃないですか。私たちは演奏します、私たちは踊ります、私たちはお芝居しますみたいなのとは違う、DIYの精神が、他にはない感じでいいのかなって。毎回メンバーが入れ替わる約10人のバンドだって思えば。三宅(弘城)さんみたいにずっと出てる人もいますが(笑)。

ーーこのシリーズが生まれた背景は?

ロックオペラをやりたかったんです。もともとグループ魂で、ライブハウスで立って観てるお客さんの前で稽古したロックオペラを見せるっていう、今思えば何もかも間違えてることをやっていて(笑)。ロックオペラと言っているからにはミュージカルともちょっと違うものをやりたいなと。あと、作曲を現役のバンドマン、ミュージシャンの人にお願いするのが自分の中での決まりで、三回目からずっと怒髪天の上原子(友康)さんにお願いしていて。劇伴(劇中伴奏音楽)を作る人じゃなくて、バンドで歌を作る人が全部の音楽を手がけるっていうのは意外と他ではやってないなと。20代で演劇を始めたとき、演劇とロックバンドの世界と映画とかがもうちょっと仲良かったっていうか分かれてなかったような気がして、それが何か今交流がなくなっているような気がして。上原子さんは引き出しがすごくいっぱいあって、メタルみたいなのも演歌みたいなのも得意だし、演劇に合うんじゃないかなと思ってます。

宮藤官九郎

ーー宮藤さんの活動の中でこのシリーズの位置付けは?

シリーズというか、毎回最後だと思ってやってます(笑)。やってる最中、次どうしようって思う余裕はないですね。これと「ねずみの三銃士(生瀬勝久×池田成志×古田新太の演劇ユニット)」はいつもそうですね。「ねずみの三銃士」も終わるときにはもういい、最後だよねってみんなで言ってるんですけど、そのうちまたやろうって言われて。忘れるんでしょうね、つらかったことって(笑)。毎回出し切って、だから毎回新鮮な気持ちではできてる。ウーマンリブは続けていくシリーズって思っているんですが。「大パルコ人」も「ねずみの三銃士」も、そのとき好きなことをやりたいっていうためにあるものなのかもしれないですね。ネットニュースとか新聞とか週刊誌とか読んでいて、これ「ねずみの三銃士」にいいじゃんって思うし、映画とか人の芝居とか観て「大パルコ人」で次こういうのをやってみたいなって思ったり。だから4年とか5年とか空いちゃうんだと思うんですよね、シリーズって言ってる割には。

ーーセリフと歌詞を書く上での違いは?

だからミュージカルじゃないのかなと思うんですけど、セリフをそのまま歌にするのはいやなんですよね。ちゃんと流通している歌の歌詞、普遍的な歌詞にしたいんです。こんな曲あったっけ、あ、ないんだみたいな感じに。お芝居を観てない人が聞いても何かわかんないけどいいって思えるようなものにしたいって思ってるから、時間かかって大変なのかもしれない。あと、自分が好きな音楽がどんどんメインストリームから外れてきてるっていう意識も当然あって。知らない音楽の方が圧倒的に多くなってきちゃって、一応最近の音楽の勉強はするんですけど、全然おもしろくないってやめちゃったり。演歌は別に勉強しなくても何か耳に入ってくるからいいんですけど、ミュージカルは意外と観てなくて、勉強しました。だけど、勉強で観てるから全然楽しくなくて。あと、歌上手じゃなきゃ成立しないんですけど、聞いてて、歌、上手なんでしょ? みたいにどんどん背もたれに背中が近づいていく、みたいなこともあったりして(笑)。ミュージカルのお客さんは、そもそもこれはミュージカルかミュージカルじゃないかっていう議論から始めますよね。だからたぶん、僕は相手にされないんだろうな(笑)。

ーーどんな観劇体験になりそうですか。

あまり他では観られないもの、何にも似てないものを観てもらえるんじゃないかな、とは思ってます。他とは似てない、他の舞台と間違いようがないっていうか。お客さんに対してはウェルカムすぎるのもいやなんですよね。そこはちょっと自分のめんどくさいところなんです。盛り上がってはほしいんですけど、何もしてないのに盛り上がられるのはイヤっていうか。全部伝わったら全部伝わったでホントかよ? ってちょっと疑っちゃうというか、全部伝わらない方が未来があるような気がしていて。演奏専門の方を入れてとか、ダンスの上手いアンサンブルの方を入れてとかはいのうえ(ひでのり)さんとか野田さんがやってるから、そうじゃないところ、何かこう必死で、乱暴な感じがいいのかなって思っているところはあります。毎公演、その公演に対するベストのキャスティングでできていて、この人がいればとかこの人違ったなとか一切ない状態でやれているので、欲が出ないというか、毎回最後でいいやって思うというか。今回特にそうなんですけど、これだけ揃ったら次はないだろうって思ってますね。

宮藤官九郎

スタイリスト:チヨ

取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=池上夢貢

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