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『SAGA2024』は通過点!? 佐賀のスポーツ政策、他県と何が違う?

Sports

『SAGA2024国スポ・全障スポ』(以下、SAGA2024)の開催をきっかけに誕生した『SAGAアリーナ』。しかし、このアリーナはSAGA2024のためだけに造られたのではなく、佐賀県のスポーツ政策である「SSP構想」を推進するハードの中核として設計されています。「する・観る・支える・育てる・稼ぐ」を軸に、スポーツを通じて地域全体を活性化させる佐賀県の狙いについて、佐賀県SSP総括監の日野稔邦氏(以下、日野)にお話を伺いました。

SSP構想とは? 佐賀県のスポーツ政策が特別な理由

ーー佐賀県は他の地域と比較しても、スポーツへの熱量が大きいと言われていますが、その背景にはどのようなことがあるのでしょう?

日野)佐賀県の山口祥義知事は、総務省勤務時代に2019年ラグビーワールドカップの組織委員会へ出向していました。その際、世界のスポーツ事情と日本のそれがまったく異なることに気づきました。世界ではスポーツとビジネスが結びついており、試合一つをとっても、パーティーやフェスのような雰囲気がある一方で、日本ではスポーツは体育と捉えられがちで、その活かし方が大きく異なっていたのです。その経験が「スポーツを活かした世界基準の政策に取り組めないか」という想いの原点となり、知事就任後の『SSP構想』に繋がっていきます。

SSP構想自体は、「佐賀から世界に挑戦するアスリートを育てる」という目標に加え、単にスポーツを「する」だけでなく、「観る」「支える」「育てる」「稼ぐ」という多様な関わり方を大切にしています。スポーツへの関わり方は人それぞれです。「このやり方でなければならない」ということではなく、自分のスタイルで関わり、満足感を高めてほしい。それが、中高生の育成につながり、地域経済を回すツールになり、さらには佐賀そのものの価値を高め、佐賀に対する誇りにつながります。つまり、単なるスポーツ振興だけでなく、人づくりや地域経済の活性化など、スポーツをきっかけにさまざまなプラスの効果を生み出します。だからこそ、私たちは「こうしなければならない」といった固定観念に縛られずに活動しています。

『SSP/SAGAスポーツピラミッド構想』

ーーつまり、SSP構想がスポーツ政策全体の根本にあるということですね。

日野)そうです。このSSP構想は、佐賀県全体のスポーツ政策の基本です。他県と異なる印象があるのは、一般的なスポーツ政策は「スポーツをする」に焦点を当てることが多いからです。例えば、オリンピアンを育てる、週1回スポーツをする人を増やすという目標が掲げられます。もちろん、それ自体は間違っていないと思います。
しかし、ここからは私の持論になりますが、そのような「する」アプローチに偏ってしまうと、関わる人の数が非常に限られてしまいます。実際に競技を行っている人や団体だけが対象となり、多くの県民にとっては「自分には関係のない話」となってしまう。そうなると、政策としては持続的に成り立ちにくいのではないかと思います。自分の県で国スポを開催するときには盛り上がりますが、国スポが終わると何も残らないという状況も、こうしたことも背景にあるのではないでしょうか。

もちろん、「する」がなければ、スポーツは成立しません。しかし、それ以外にもさまざまな関わり方があると思っています。たとえば、企業がアスリートを社員として受け入れることで、企業の価値が向上し、新しいネットワークが生まれ、新商品の開発につながる可能性もあります。

また、私たちは県立高校の部活動を重点的に支援していますが、これまでスポーツに関わっていない企業の方とも連携して高校生のアスリート寮を運営するなど、県外の子どもたちが佐賀県の高校に進学する仕組みも整えています。なかには、親と移住するケースも増えています。いずれ彼らが出身地に戻ることがあっても、佐賀を「第二のふるさと」として感じてくれるでしょう。このような取り組みを続ければ、その数が毎年100人、200人と積み上がり、20年も経てば、人口減少社会の中で非常に大きな力となります。

つまり、「スポーツをする」という視点だけでなく、「支える」「育てる」「稼ぐ」などさまざまなスタイルを大切にした人づくりや地域づくりを進めることで、多くの人が関わることができます。アスリートの育成は、高校生の移住や魅力ある学校づくりと結びついていますし、アスリートの就職支援は県内企業の価値向上や新たな展開のヒントにもつながります。スポーツビジネスの振興においても、スポーツが持つグローバルな市場性を活かせば、地元だけでなく、広い市場をターゲットにすることが可能です。

このように、県内の多くの人々が何かしらの形でスポーツに関わる機会を広げていく。それが、真に持続可能なスポーツ政策だと考えています。これが私たちの思いです。

「稼ぐアリーナ」としての挑戦

ーー2023年に開業したSAGAアリーナもその構想の中の一つということなのですね。

日野)SAGAアリーナは国スポを契機に作ったことはたしかですが、設計自体は国スポだけを目的にしているわけではありません。大規模大会が開催される際には、多くの県が大規模な施設整備を行います。代表的なものとして挙げられるのは、広い床面積を持つ体育館の建設で、バスケットコートやバレーボールコートを4面ずつ配置できるような設計で建設されることが多いです。これは、短い会期内で「1回戦を4試合同時に開催」のように、多くの試合を効率よく進行させることが目的です。

しかし、このような設計は国スポなど大きな大会運営にとってはいいかもしれませんが、そのような大会は数多くあるわけではないので、利活用に悩むことになります。これが「国スポ不要論」の一因にもなっています。

一方で、SAGAアリーナは国スポだけを考えた施設ではありません。実際、国スポの観点からすると使い勝手は良くないと言えるかもしれず、バスケットボールの試合ではセンターコート1面しか取れない設計です。しかし、このアリーナはそもそもプロスポーツやアーティストのライブといったエンターテインメントを想定して作られています。先日はperfumeのライブが行われましたが、このようなトップアーティストのライブやプロスポーツイベントに特化しているのです。

自治体がこうした施設を作る際、「県民や市民が利用できる場所」として大きな体育館を建てるケースが多いのですが、SAGAアリーナは、県民が「する」のではなく、県民は「観る」という観点で関わる場です。トップアスリートがプレーし、トップアーティストがライブを行う場にすることで、県民は観客としてその場を楽しむのです。

そのためには、360度囲む観客席やセンタービジョン、リボンビジョンを備え、トップアーティストが満足できる音響設備にもこだわっています。こうした設計により、エンタメアリーナとしてSAGAアリーナは機能し、それそのものが「稼ぐ場」になるのです。

昨年1月には羽生結弦さんのアイスショーが開催されました。このショーは全国でも横浜、佐賀、埼玉、仙台の4会場のみの開催で、西日本では佐賀だけで、このときの経済波及効果は約5億円でした。また、perfume、B’zとビッグアーティストのライブには、多くの方が県外から来られ、宿泊、飲食をはじめとする経済効果が佐賀に広がっています。

このように、SAGAアリーナは国スポのためだけでなく、エンターテインメントやプロスポーツを通じて、佐賀の経済や地域の活性化に寄与する施設として設計されています。

SAGAアリーナ(佐賀バルーナーズ試合開催時)

ーーアーティストさんからも選ばれるアリーナということなんでしょうか?

日野)そうですね。SAGAアリーナの魅力の一つは音響の良さと、観客との距離感の近さです。これによって、親近感が湧きやすい会場になっています。また、ファンにとっては、佐賀駅から徒歩15分という立地も非常に魅力的です。都市型アリーナであり、遠方から訪れる方にとっては徒歩15分は「近い」と感じる距離です。一方、地元の方は車で行けないかと思うかもしれませんが、これは都会と地方の感覚の違いかもしれませんね。

SAGAアリーナには2つの側面があると考えています。まず、スポーツの側面では、佐賀バルーナーズやSAGA久光スプリングスがホームゲームを行います。バスケットボールやバレーボールのホームゲームでは、観客のほとんどが地元のファンです。地元チームが勝利すると、観客も子どもも大人も喜び、地元への誇りや自信につながります。ただし、こうした試合は経済的な波及効果が大きいわけではありません。観客は自宅から来場し、飲食や宿泊が必要ないケースが多いからです。それでも、精神的な満足感、地元チームに対する愛着、共感が生まれます。このマインド醸成はとても重要です。

一方、アーティストのライブイベントでは、観客の8割が県外からの来場者です。そのため、県民の中にはチケットが取れず行けないという人もいますが、それでもライブを通じて県外からお金が佐賀に流れ込み、また佐賀にきてみたいという呼び水になっています。

また、SAGAアリーナの3階には海外のスタジアムやアリーナと同じようなプレミアムフロアがあり、立食パーティーを楽しみながら試合を観戦できるようになっています。多くの企業が商談や新しいネットワーキングの場として活用しています。
メインフロアでは、プロスポーツの試合が行われ、それを観ながら、同じ空間でスポーツとビジネスの両立が実現しています。この「スポーツホスピタリティ」も、SSP構想が目指している「スポーツをビジネスシーンに活かしたスタイル」の一つのモデルと言えます。

繰り返しになりますが、スポーツに「する」という側面は非常に重要です。それがなければスポーツ自体が成り立ちません。しかし、「する」だけに焦点を当てると関わり方が限定されてしまいます。私たちは、多様な関わり方を等しく大切にし、それを広げていくことが重要だと考えています。

『SAGAアリーナ』内観

ーーアリーナ周辺には、プールや陸上競技場、サッカーなどが楽しめるボールパークがあり、一帯が公園のように楽しめますよね。その設計にはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

日野)やはり“日常”と“非日常”が共存しているのが、特徴ですよね。アリーナの中はまさに非日常空間です。しかし、一歩外に出ると、スタジアムやプール、ランニングループなどがあり、普段使いができる日常が広がっています。朝や夜にジョギングを楽しんだり、気軽に立ち寄れるような場として機能しているのです。

その結果、アリーナでイベントが行われていない日でも、ランニングや散歩など、日常的に利用される場所として役割を果たしています。朝に走っている人も多いですし、私自身もときどきあそこでジョギングをしています。

ーー話題性は県外にいても耳にしますが、ここまでの手応えはどうなんでしょうか?

日野)最初の頃、ある全国紙の記者から「SAGAアリーナは、年間で2~3件イベントがあればいいほうだろう」という内容の記事を書かれたことがありました。しかし、実際に蓋を開けてみれば、来年の今頃まで土日の興行予約はほぼ埋まっています。

SAGAアリーナは、佐賀バルーナーズとSAGA久光スプリングスという2つのプロチームのホームアリーナになりました。10月から4月まではBリーグとSVリーグのシーズンなので、バルーナーズ戦や久光スプリングス戦が定期的に開催されます。そして、シーズンが終わる4月から9月頃にかけては、エンタメイベントやライブなどが入りやすいスケジュールになります。もちろん、それ以外の時期にも柔軟にイベントが組み込まれています。

とくに佐賀バルーナーズの試合では、平均して5,000人もの観客が訪れています。この数字は普通では考えられないほどで、佐賀県民の中にアリーナがすっかり定着している証拠だと思います。

また、アリーナではperfumeやB’z、羽生結弦さんといった大物アーティストや選手のイベントも開催されています。これらのイベントでは県外から多くの観客が訪れ、「音響が良かった」など高い評価をいただいています。私たちは、こうしたイベントの際、アーティストや選手へのリスペクトだけでなく、訪れるファンの皆さんへのおもてなしも大切にしています。

例えば、羽生結弦さん、perfumeさんのイベントの際には、佐賀駅や佐賀空港にポスターを掲出したり、佐賀駅から県庁までの通りにタペストリーを設置したりしました。これらは佐賀市と協力して実施し、ファンが写真を撮りたくなるような仕掛けを街中に施しました。この取り組みはファンからも非常に好評で、「佐賀のおもてなしは素晴らしい」といった声をたくさんいただきました。こうしたおもてなしの工夫が、また次のライブやイベントの来場につながると感じます。
また、訪れたファンの方がその様子を撮影して、さらにSNSで発信していただいたので、「また行きたい」「ライブが楽しみ」という声が広がっていきます。このような取り組みが、SAGAアリーナをさらに特別な場所にしています。

佐賀の街中では、SAGAアリーナのイベントに合わせた装飾が行われている。

ーー現状課題になっている部分や、もう少しこうしていかなければいけないと思う点はありますか?

日野)アリーナビジネスとしては成功しつつあると感じています。アリーナをフックにして、周辺の経済を回している実感があります。ただ、私がさらに力を入れたいのは“スポーツビジネス”そのものです。ここへの取り組みはまだ道半ばだと思っています。

せっかくSAGAアリーナがあり、プロチームも存在しているので、ビジネスと結びつきやすいコンテンツが揃っています。しかし、スポーツビジネスの概念がまだ十分に浸透していないのが現状です。「スポーツビジネス=大企業がやるもの」「プロチームの運営やグッズ、スポーツ用品が中心」といった固定観念が根強く残っています。

私たちは「佐賀の普通の企業でも、スポーツを切り口に新しい商品を作ることがスポーツビジネスになる」という考えを発信しています。例えば、ある和菓子屋さんがアスリート向けの商品を開発しました。その背景には、佐賀を拠点にしている東京パラリンピック銅メダリストの車いすテニス選手・大谷桃子さんの存在があります。

彼女は佐賀市にある老舗の和菓子屋『菓心まるいち』の和菓子が大好きでした。しかし、遠征や海外試合が続くと、和菓子を持ち運ぶことが難しくなります。そんな中、まるいちの経営者と彼女が相談し、私も少しサポートしながら、アスリート向けの商品開発が進められました。「あんこ」を中心にしたエナジー補給食品で、ドーピングの心配がなく、タンパク質も摂れる商品です。開発には2~3年を費やし、昨年1月に完成しました。現在では、県内の中学校や部活動で捕食として採用され、大量購入されるケースも出ています。これも一つのスポーツビジネスの形です。

日野)さらに、2024年11月から翌年1月まで「推し活プロジェクト」という取り組みも実施しました。例えば、飲食店で「佐賀アスリート応援コース(飲み放題付き5,500円)」を利用すると、お客さんに500ポイントが付与されます。このポイントは、佐賀バルーナーズのアカデミーやSAGA久光スプリングスのユースなど、5つの選択肢の中から寄付先を選べます。お店側にとっては「スポーツを応援している」というアピールになり、ファンの集客につながります。一方、消費者は飲食を楽しみながら「社会貢献をした」という満足感を得られる仕組みです。こうした取り組みもスポーツビジネスの一環だと考えています。

スポーツビジネスは必ずしも大規模なものである必要はありません。こうした地道な取り組みや、県内中小企業への情報提供、人材育成の後押しを通じて、誰もが気軽にスポーツをビジネスに取り入れられる環境を整えることが重要だと思っています。これからも、スポーツビジネスの普及と拡大に力を注いでいきたいです。

ーー2024年に開催した『国スポ・全障スポ』という観点で見ると、成功したという感覚はあるのでしょうか?

日野)そうですね。地元の新聞の世論調査でも、9割ほどの方が「よかった」と回答していて、特に10代の満足度が高かったのが印象的でした。友人が試合に出ていたり、高校生が少年部で活躍している姿を見たりして「観ていて楽しかった」という声が多かったようです。また、そうした経験が若い人たちにとって「佐賀っていい場所だよね」という自信につながったのではないかと思います。とても嬉しい結果でした。

特に、10代の若者が「よかった」と思ってくれることは、地方にとっては非常に大切なことだと思います。これは東京や大阪などの大都市ではなかなか感じられない感覚ではないでしょうか。10代というと、どこか冷めている印象がありますし、大人だけが盛り上がっているイベントには関心を持たないことも多いですよね。しかし、今回はそうではなく、若い世代も楽しんでくれたということが意外であり、同時に非常に意義深いと感じました。

「スポーツ×ビジネス」の可能性と、今後の展望

ーーさまざまな取り組みをしているというのは、外から見てもわかるのですが、県民の方々もその実感は少しずつ出てきているのでしょうか?

日野)これはおそらく2年前の地元紙の世論調査だったと思うのですが、「アスリートの育成」や「スポーツビジネスの振興」といったSAGAスポーツピラミッド構想に対する評価として、6割から7割の県民が「もっと取り組んでほしい」と答えていました。その背景には、スポーツ振興策だけにとどまらず、関わる人を増やすことを意識した取り組みがあるのだと思います。

通常のスポーツ振興策だけでは関わる人の範囲が限られてしまいます。しかし、「SSP構想をオール佐賀で」というスローガンのもと、県内企業にアスリートの採用をお願いしています。企業にとっては、人材の確保や会社の価値向上につながるため、こうした取り組みが大きなメリットを生み出しています。

具体的には、「SSPアスリートジョブサポ」という仕組みを通じて、アスリートを採用したい企業とアスリート自身をマッチングしています。この取り組みにより、スポーツを通じた地域経済の活性化や、企業の成長を後押しする形を実現しています。

ーー県が主導して取り組んでいるということがすごいですね。

日野)私たちがマッチングに入る際、勤務条件などの調整も行っています。いわば代理人のような役割です。例えば、「午前中は仕事、午後は練習」といった形で、その時間配分に応じて給料を決定したりします。また、「団体競技なので、夕方に1時間だけでも合同練習の時間が確保できればよい」という要望があるアスリートもいます。それぞれのアスリートの事情や条件と、採用したい企業側の条件を細かくすり合わせて、就職につなげています。

実際にアスリートを採用してくださった企業からの評価は非常に高いです。アスリートは精神的にしっかりしている方が多く、目標に向かって努力する姿勢やタフさが、会社の他の従業員にも良い影響を与えています。アスリートのように目標を持ち、継続して努力できる人材が会社全体の士気を高めたり、社内の一体感を生むきっかけになっているという声も聞かれます。

現在、アスリートを雇いたいと言ってくださっている企業は99社あり、そのうち17社に対して我々のマッチングを通じて、98人のアスリートが就職しています。それ以外にも、独自採用でアスリートを雇用している企業もあり、実際には30社ほどに約130人のアスリートが県内で働いています。

さらに私たちは、現役アスリートのマッチングだけでなくセカンドキャリアのサポートにも取り組み始めました。アスリートはいつか現役を引退する日がきますが、その引退後のキャリアを考えることすら許されない風潮があると感じています。また、アスリート自身が自分の持つ価値に気づいていないことも多いです。アスリートの精神的なタフさや、目標を達成する信念の強さは、社会的にもっと高く評価されるべきなのに、それが企業側に伝わらない、あるいはアスリート自身も自覚していない場合があります。

「あなたたちは実はすごい存在なんだ」ということを伝え、アスリートが自分の価値を理解し、セカンドキャリアを描けるようにするため、個別相談をスタートしました。この取り組みでは、元サガン鳥栖のJリーガー・早坂さんと、民間の人材開発会社「キャリアバンク」に協力いただいています。早坂さんはアスリート経験者として、同じ境遇を理解した上で、アスリートの価値や可能性を言葉にして伝えています。一方で、キャリアバンクの専門家は職業やキャリア開発の観点から、具体的なキャリアプランを一緒に考えます。アスリートの気持ちを理解しつつ、現実的なキャリアプランを描くためには、両者のサポートが欠かせないと考えています。
この取り組みは先日スタートし、初回は佐賀で15名ほどの社会人アスリートを対象に実施しました。これからさらに広げていきたいと思っています。

中野建設/男子フェンシング 古田 育男さん

今村病院/女子陸上短距離 久保山 晴菜さん

ーー多岐に渡って取り組みをされていますが、いわゆるスポーツ振興の域をかなり超えていて、実行体制やリソースは足りているのか気になりました。

日野)SSP構想の実現のために必要な取り組みに応じた連携先もきちんと確保しています。例えば、学校関連の施策であれば県の教育委員会と連携し、セカンドキャリアのセミナーについては産業労働部の人材確保担当セクションや民間企業と意見交換を行っています。また、スポーツビジネスの支援については、同じく産業労働部のスタートアップ支援担当セクションと協力しながら進めています。スポーツをフックにして、多くの人も巻き込みながら、さまざまな取り組みを回していく体制を整えています。

現代では、AIやICT技術が進化しているため、少しの工夫で経験値のギャップを埋めることも可能です。アスリートとして努力を重ねてきた経験が、企業にとって大きなプラスとなることは間違いありません。ただ、アスリートのキャリアといえば、すぐに指導者になることが思い浮かびますが、これも今では大きく変わりつつあります。かつては学校の先生が指導者になるのが一般的でしたが、現在は部活動の地域移行や教員の働き方改革があり、学校の先生イコール指導者という構図は崩れつつあります。

一方で、スポーツ単体で指導者として生計を立てられる環境が整っているかといえば、現状ではそうではありません。テニスやゴルフのようにスクールやレッスンプロがある種目は例外ですが、ほとんどのスポーツではそのような仕組みが存在していません。これまで学校の部活動で指導が行われ、教員の給与に含まれる形で報酬が発生しないのが基本でした。これを地域に移行した際、指導者の報酬の正規価格が明確でないという課題があります。

ピアノ教室や書道教室が市場で成立しているのに、なぜスポーツ教室が成立しないのか。それは市場に金額換算の文化が根付いていなかったことや、学校教育の中で長年行われてきたことが原因だと考えています。

アスリートのセカンドキャリアを考える際、特にマイナースポーツでは教室を作ろうとしても集客が難しいという課題があります。そのため、単にスポーツ教室だけで成り立たせるのではなく、会社全体で収益を上げながら、スポーツ教室を運営するモデルが必要だと思います。

これまで部活動がカバーしていたためにスポーツ教室の市場が育たなかった背景がありますが、部活動の地域移行が進む中で、スポーツ教室を事業として成り立たせる機会が増えてきています。アスリートのキャリアは、学校教員だけに限らない多様な選択肢があることを伝えたいです。こうした取り組みを通じて、アスリートが自分の価値に気づき、より良いキャリアを築けるよう支援していきたいと思っています。

それが、アスリートがスポーツで食べていける社会、スポーツがビジネスシーンで活かせる社会につながり、そこで得られた収益が次世代の育成に還元されていく・・・育成、就職支援、スポーツビジネスがつながる、そうした好循環のモデルに挑戦することが、“佐賀だからこそできる”SSP構想だと思っています。

ーーありがとうございました。

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