【井原市】井原市における仏大学生インターン受け入れ事業 ~ 外からの視点で井原市の魅力を世界に発信
岡山県南西部にある井原市では、2023年からフランスの大学生をインターンとして受け入れています。
約2か月間の滞在期間中、日本文化体験や井原市の地場産業であるデニム関連の工場見学など、多種多様なプログラムが実施されます。
武道やアニメなど、日本文化に関心のある若者が多いフランスからのインターン生の視線に、日本や井原市はどのように映っているのでしょうか。国際交流の最前線をレポートします。
井原市インターン受け入れ事業について
井原市のインターン受け入れ事業は、井原市出身で現在多摩大学教授を務める出原至道(いではら のりみち)先生の仲介により2023年度から始まり、今年度(2025年度)で3回目を迎えました。
インターン生に滞在してもらい、和文化などさまざまな体験を通じて、SNSや広報誌などで情報発信をおこないます。
また、国際交流の一環として、市民との交流の機会も設けられています。
滞在中のプログラム
2025年度は7月3日から8月22日までのあいだ、多種多様な体験プログラムが実施されます。
プログラムの内容は以下が予定されています。
・井原市内での日本文化体験
和菓子作り、書道、弓道、和装の着付けなど
・市外への視察研修
備前長船刀剣博物館(瀬戸内市)など
・市内にある美星天文台での実習など
また、今回は初めての試みとして、地場産業であるデニム製造工程の見学もおこなわれ、デニムの染料作りから染色、生地の製造、縫製まで、製品ができるまでの一連の工程を見学しました。
2025年度インターン生の紹介
今回、井原市でのインターンに参加しているのは、クリストファー・マリアンさん(20歳)とロアン・シャレット・ウビノワさん(18歳)の2名です。
フランス・パリにある工科系大学、ESIEA(エーシア)大学から来日しており、お二人とも大学でプログラミングを専攻しています。
インターンに来てみての感想を聞きました。
──日本に来てみようと思ったきっかけは
クリストファー(敬称略)──
私は2年前も来日したことがあるのですが、そのときは東京や大阪といった大都市部への訪問でした。今回は都会ではなく地方の文化に触れてみたくて、インターンとして井原に来ました。
──来日前の日本に対するイメージは
クリストファー──
規則を守り、真面目なイメージがありました。あとは何といっても日本食。パリの人たちも日本食は大好きですね。
──井原で約2週間過ごしての感想は
クリストファー──
皆さんがとても優しく接してくださっています。
また、デニム製品の工場見学では、生地作りから縫製までのすべての工程が井原市内で完結していることに驚きました。
ロアン(敬称略)──
本場の日本食はとても美味しかったです。
──これからの滞在期間で体験してみたいことは
クリストファー──
日本のチーズが食べてみたいですね。あとカラオケにも行ってみたいです。
ロアン──
私もカラオケに行ってみたいです。フランスにはカラオケの文化がないので。
デニムの縫製工程見学のようす
2025年7月18日(金)、井原市内にある「青木被服」にて、デニムの縫製工程見学体験のようすを同行取材しました。
青木被服は、倉敷美観地区にも直営店(倉敷本店、倉敷SOLA店、倉敷アイビースクエア店)を展開しているデニムファクトリーで、生地のカットから縫製、加工までを自社内で一貫生産しています。
また、一貫生産によるオーダーメイド対応を強みに、近年ではB’z、X JAPAN、ONE OK ROCK、長渕剛といったアーティストへのステージ衣装制作も手がけています。
工場では、コンピュータにて描いた図面どおりに布が裁断され、縫製工程にて製品になっていくようすを見学。
デニムに欠かせないリベット打ち体験もおこない、見学の記念にストラップを作りました。
インターン事業について井原市国際交流協会 事務局長の藤岡健二(ふじおか けんじ)さんにお話を聞きました。
インターン事業担当者インタビュー
インターン事業を担当する井原市国際交流協会 事務局長の藤岡健二(ふじおか けんじ)さんに、これまでの経緯と2025年度のプログラムについてお話を聞きました。
──インターン受け入れ事業が始まった経緯を教えてください
藤岡(敬称略)──
当事業は、井原市出身の多摩大学教授 出原先生の仲介で始まりました。
出原先生との出会いは、私が井原市職員として観光プロモーションなどで東京へ出張した際に紹介していただいたのがそもそものきっかけです。情報系の研究者である出原先生に、井原市としても美星の星空の観光PRにVR(仮想現実)が利用できないかというテーマで意見交換をしていました。
そのなかで、多摩大学がフランスの工科系大学であるESIEA(エーシア)大学と10年以上前から提携を結んでいて、相互交換留学をおこなっていることを知りました。
出原先生から、夏休み期間中の2か月間、留学生に滞在してもらい、和文化などの情報発信をしてもらうプログラムの提案をいただき、井原市としても面白いと感じて企画が具体化していったのが、2019年頃の話です。
2020年に第一回のインターン受け入れをしようと思っていたところ、コロナ禍もあり実現できませんでした。
その後、コロナ禍が落ち着き始め、海外との往来も徐々に回復してきた2023年度に、初めてインターンの学生2名を受け入れました。今年度(2025年度)で3回目の受け入れとなります。
──インターン期間中のスケジュールについて教えてください
藤岡──
約2か月間のインターン期間中、数軒のホストファミリー宅にホームステイしながら、さまざまな活動や体験をおこないます。
平日は井原市内での日本文化体験や市内外へのエクスカーション(体験視察)などを中心に活動し、土日祝日はホームステイ先のホストファミリーと過ごします。
──今年度、新たに始めたプログラムについて教えてください
藤岡──
今年度は新たなプログラムとして、井原市内にあるデニム関連企業の見学をおこないました。
一般的に、デニムやジーンズの産地=児島というイメージがありますよね。
縫製が中心の児島に対し、井原市は古くからデニム生地の製造など素材産業が栄えてきた、知る人ぞ知るデニムの街です。
市内には、デニムの染料(カミヨ千々木株式会社)、糸の染色やデニム生地の製造(クロキ株式会社、日本綿布株式会社)、そして本日(7月18日)見学したデニム製品の縫製(青木被服株式会社)まで、一連の工程を担う企業が点在しています。
フランスの有名ブランドが井原デニムを使用しているご縁もあり、井原市のデニム産業の技術力を知っていただきたく、今回のプログラムを企画しました。
ほかにも、倉敷市にある「装着型サイボーグHAL」を用いたリハビリテーションをおこなう施設「岡山ロボケアセンター」の見学も予定しています。
こちらは井原市にて自動車部品を製造している「井原精機株式会社」の関連企業で、日本のロボット技術を知っていただこうと思っています。
──インターン事業に期待するところは
藤岡──
インターン生による発信を通じて、フランス在住のかたに井原市の情報を届けていただきたいと思います。滞在中の取り組みとして、滞在のようすをInstagramで写真とフランス語で情報発信をしています。
また、帰国後も井原の思い出や体験を友達や先生に伝えていただくことで、来年度以降もインターンに参加したいと希望する学生が増えるとうれしいです。
それらの活動を通じて、有名観光地ではないけど、日本の地方にも素晴らしい場所があるという生の声を届けていただければ幸いです。
また、井原市民の皆さんにとっても、ホストファミリーとしてのホームステイ受け入れや、さまざまな体験活動を通じて、身近に国際交流を感じられる機会になればと思います。
ホストファミリーについても、最初は皆さん不安に感じるようですが、一度受け入れてみると、次回も受け入れたいという声が多く、3年連続で受け入れていただいているご家庭が2軒もあるんです。
また、インターン生に体験プログラムを提供してくださっている市内の和菓子店や井原弓道会の皆さんも、回を重ねるごとに経験が積み重なっています。
これらの経験をさらに深め、将来的にはフランスに限らずインバウンド観光の需要も掘り起こしていければと思っていて、インターン生と井原市民、それぞれにさまざまな形での相乗効果が生まれることを期待しています。
おわりに
今回の取材は、2025年大阪・関西万博にて、イベント出展されていた井原市のブースを筆者が訪ねたことがそもそものきっかけでした。
その際、昨年のインターン生を紹介してくれた出原先生より、当メディアに向けて語ってくれた言葉が印象に残っているので紹介します。
単に「もの」「できごと」を紹介するだけでなく、そこにいる「ひと」を伝えようとされているところに感銘を受けました。情報技術やAI(人工知能)の時代に、これが一番大切だと思います。
井原市におけるインターン生の受け入れも同様で、人と人のつながりをきっかけにした、国境を越えた国際交流。こちらも回を重ねるごとによりその深みを増していることが取材を通して感じました。
また、偶然にも2025年大阪・関西万博におけるフランスパビリオンのテーマのひとつが「赤い糸の伝説」。
インターン生を通じて結ばれた井原市とフランスの国境を越えた「赤い糸」の絆が、今後さらに深まることを願っています。