【社説】“日本文明の一大恩人”前島密をふるさと上越から大いに訴えよう!
「日本近代郵便の父」と謳われる前島密の故郷は言わずと知れた新潟県上越市下池部である。前島密(幼名は上野房五郎)は下池部の農家で生まれたが、父は7か月後に病死し、下池部から高田城下に移り住み、武士の家で育った母の手で育てられた。その後、藩医である叔父の勧めで一時糸魚川に移り、医学を目指す。10歳で母と別れて高田の倉石塾で学び、12歳で蘭学医を目指し、一人江戸に出て勉学に励んだ。その後は医学ではなく国家の重大事を見据え、函館で操船術や測量を学ぶべく日本一周の航海を2度経験、更に鹿児島の開成学校で英語を教える。
31歳で御家人の前島家を相続し徳川幕府の家臣を経て、民部省改正掛を命じられ、大隈重信や渋沢栄一などと近代国家建設の企画立案するまでになり、35歳からは専ら5年間、郵便事業(郵便制度・郵便貯金・郵便為替・保険等)に取り組み、まさに“郵便の父”と言われる所以となる業績を残すまでに。その後前島密が関わった事業は遷都・国字の改良・海運・新聞・電信電話・鉄道・教育そして保険などにも至り、その分野は多岐に渡り、更に東京専門学校(現在の早稲田大学)の校長として学問の確立にも尽くした。総じて前島は日本近代化の礎を創ったのである。
さて、そうした中、故郷上越との関わりは、①北越鉄道の経営②高田盲学校支援③春日山神社の創建④上越学生寮の応援―などに見られる。様々な業績を残した前島密を顕彰する団体も多く立ち上がっている。幾つかを挙げるとしたら、なでしこの会・上越地区郵便局長会・郷土の偉人“前島密翁”を顕彰する会・津有地区協議会・前島記念池部郵趣会・「前島密とふれあう」ふれあいハガキの会・ヨモギ文庫プロジェクト・ちりつも観光プロジェクト―など数え上げれば切りがないほど多くある。上越で誕生した前島密84年の生涯はまさに、大政奉還から明治の幕開けという激動の時代を、幼少期から身に着けた学問や経験を大いに生かして、“上越人らしい気骨”で新しい事業を次々と創出するとともに、新しい国づくりを着実に強力に進めていったのが、「我らが前島密翁」である。
なお、前島密銅像は大正5年(1916年)に逓信省本庁舎前に設置されたが、昭和22年(1947年)下池部の前島記念館前に移設されている。また、生誕記念碑は村民有志が大正11年(1922年)池部神社境内に建立した。毎年7月1日に地元関係者などが献碑祭を行
っており、今年で103回目を数える。現在下池部の地に建てられた「前島記念館」は昭和6年(1931年)に地元をはじめとする有志の寄付によって建てられたが、昭和12年に国に寄贈され、現在は郵政博物館の分館として日本郵政株式会社が運営している。
直木賞作家の門井慶喜氏は「二十一世紀の私たちにとって、前島密は決して有名人ではない。どちらかと言うと玄人受けする官僚政治家というところか。しかし、同時代でじかに接した人には彼は(このように)大きかった。真に国家をささえた人の遺徳を、私たちは想像力をもって偲ばねばならない」(前島密献碑祭資料より)と述べている。まさに、「日本文明の一大恩人」がこの地で生まれたことを私達は決して忘れてはならないし、また前島密自身が生まれた下池部近くの上雲寺小学校や戸野目小学校、雄志中学校などにふるさとへの想いが込められた書を送っている。どんなに偉くなってもふるさとを大切にしていたのだ。
ならば、上越に住む私達が少なくとも前島密翁の業績を称え、その偉業を自分達なりのやり方で発信していきたいものだ。それは前島密翁の力をお借りして、観光振興の観点からでも大いにPRしていきたい。渋沢栄一がNHKの大河ドラマの主人公になっているので、それに近い幕末という歴史的観点から少しダブルかも知れないが、大河ドラマへの起用の大願を起こしていきたいものだ。もちろん、それは郵便局関係者の悲願でもあろうが、郵便という観点のみならず、歴史家の加来耕三さんが「日本近代化のスタートである明治維新の理想をことごとく具現化したのが、前島密であったからだ」(前島密献碑祭資料より)と述べているように、まさに下池部を含む上越地域で鍛え学んだ12年間が、様々な分野でこうした偉大な業績を残し得た礎であり、この日本海側の雪などの厳しい自然の中での12年間の少年人生にこそ、前島密翁の原点であると大いに訴えていきたい。
地元民を含めた上越地域の有志が、前島密翁への尊敬と感謝を込めて、上越市にとって「上越アニバーサリーイヤー」(14市町村合併20周年、北陸新幹線上越妙高駅開業10周年、謙信公祭及び観桜会100周年などを記念したもの)となることもあり、それに併せて前島密翁生誕190年(天保6年=1835年に誕生)を祝う記念式典を本年9月27日上越市で開催予定だ。
誕生の地に建てられた「前島記念館」
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