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孤独と狂気と絶望が交差する衝撃作 新国立劇場、20世紀オペラからベルクの『ヴォツェック』を新演出で上演

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新国立劇場 ベルク『ヴォツェック』

2025年11月15日(土)~11月24日(月・休)新国立劇場 オペラパレスにて、2025/2026 シーズンオペラ アルバン・ベルク『ヴォツェック』が上演される。

新ウィーン楽派の作曲家アルバン・ベルクが唯一完成させたオペラ『ヴォツェック』は、貧困にあえぐ兵士の精神的不安を描き、貧困と差別や搾取が人間を破滅させていく様をまざまざと伝える衝撃的作品。原作はゲオルク・ビューヒナー(1813~1837)が執筆した未完の戯曲で、1821年にライプツィヒで起きた殺人事件の加害者ヴォイツェックの精神鑑定の記録をもとに書かれた。1914年にウィーンで上演された演劇を観たベルクは音楽化への強い衝動を覚える。翌年第一次世界大戦に徴兵され、除隊後1917年から21年になって作曲した『ヴォツェック』は、自身の厳しい軍隊生活の経験も重ねて書かれたと言われている。

ベルクはシュプレヒゲザング、シュプレヒシュティンメと言われる歌と語りの中間の技法を使い、演劇的緊張感が張り詰める中で、貧困から逃れられない男が妻の不倫をきっかけに転落していく物語を一気に語る。バロックや古典派音楽の形式を模し、ポルカやワルツまで取り入れた多様な音楽を用いて緻密に構築された全3幕各5場がスピーディーに展開し、前衛的かつ叙情的な音楽が観る者の心を掴み、揺さぶる。

今回、大野和士芸術監督が上演に注力する20世紀オペラから、新演出で新制作される。

リチャード・ジョーンズ

演出を手掛けるのは、英国が生んだカリスマ演出家リチャード・ジョーンズ。オリヴィエ賞に9回輝き、サウスバンク・ショー・アワードやトニー賞、Opernwelt最優秀演出家賞など数々の受賞歴を誇る巨匠。新国立劇場へは2008年『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(英国ロイヤルオペラからのプロダクションレンタル)以来の登場で、東京で新演出を手掛けるのは初となる。

トーマス・ヨハネス・マイヤー       Photo by Simon Pauly

高度な演奏技術が要求される難役ヴォツェック役には、新国立劇場で2009年にも同役を歌った世界的スター、トーマス・ヨハネス・マイヤーが出演。マイヤーは2025年2月新国立劇場『フィレンツェの悲劇』ではシモーネを歌い、屈折した情念の滲む圧巻の表現で60分間聴衆を釘付けにして、喝采をさらった。20年以上歌いこんでいるヴォツェック役、熟練のカムバックに期待が募る。

アーノルド・ベズイエン

ジョン・ダザック

ジェニファー・デイヴィス      (C)Marshall_Light

妻屋秀和

伊藤達人

共演する大尉役にはキャラクター・テノールの世界最高峰アーノルド・ベズイエンが2022年『ボリス・ゴドゥノフ』に続く登場。鼓手長には同役を特に得意とするイギリスのテノール、ジョン・ダザック、マリー役にはワーグナーを中心にドラマティックな表現で活躍するジェニファー・デイヴィスが出演する。医者役に日本の誇るバス歌手・妻屋秀和、アンドレスには旬のヘルデン・テノールとして大活躍中の伊藤達人と、国内歌手陣もオペラファン垂涎の陣容となっている。指揮は大野和士芸術監督が自ら務める。

芸術監督・大野和士 メッセージ

大野和士

新制作でお届けするベルクの『ヴォツェック』は、1925年に初演され、今年は初演からちょうど100年の区切りの年です。音楽、物語共に、私たちの内面に深く強く入ってくるもので、今こそ聴きたい作品です。夭折した作家ビューヒナーが、1830年代に実際に起きた殺人事件を題材に、社会の底辺で精神を病み、内縁の妻を殺して破滅していく男を描いた原作を、1世紀近く経ってベルクが無調音楽で作曲したオペラです。
新演出に臨むのは、巨匠リチャード・ジョーンズ。私は音楽監督を務めていたモネ劇場での『炎の天使』、スカラ座の『ムツェンスク郡のマクベス夫人』で一緒に仕事する機会に恵まれましたが、緻密でありながら、それをはるかに超越したエネルギーによって観る者を劇場空間の心理劇に引きずり込む手腕は、本当に圧巻でした。今回も狂気をテーマにした心理劇をリチャードがどう描いていくのか、私自身も大変楽しみです。ヴォツェック役はトーマス・ヨハネス・マイヤー、マリーにジェニファー・デイヴィス、鼓手長にジョン・ダザック、大尉はアーノルド・ベズイエンと当代随一と言える歌手が集まります。

【あらすじ】
理髪師から兵士になった実直な男、ヴォツェックは内縁の妻マリーとの間に生まれた一人息子と貧しい暮らしを送っている。上官の大尉や誇大妄想気味の医者にへつらって生活をつないでいる彼の精神状態は不安定で、妄想に苛まれていた。夫との生活に疲れたマリーは、鼓手長との不倫という泥沼に嵌っていく。妻に不審を抱きながらも鼓手長に敵わず、自暴自棄に陥るヴォツェック。自らの罪を悔いて神に祈るマリーをヴォツェックの凶刃が襲うー。

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