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発達障害息子は迷惑?運動会でまさかの途中下校。特別支援学級へ転校し「安全基地」で見つけたものは…【読者体験談】

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発達障害息子は迷惑?運動会でまさかの途中下校。特別支援学級へ転校し「安全基地」で見つけたものは…【読者体験談】

監修:藤井明子

小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長

このコラムで分かること

ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)の特性があるお子さんが、学校行事で不安を感じてしまう具体的な場面「無理しなくていい」という安心できる環境が、お子さんの自己肯定感を育む小さな成功体験を重ねることが、学校行事への苦手意識を克服し、次の目標や自信につながる

「もう帰っても……」先生の言葉に凍り付いた運動会の日

お子さんのプロフィール
年齢:10歳診断名:ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)診断時期:8歳エピソード当時の年齢:8歳~10歳
現在10歳になる、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の特性がある息子。ゲームが好きで運動も得意な一方、文字を書くことが苦手です。
息子が通常学級に在籍していた8歳の頃、私は学校行事のたびに、見えないプレッシャーで胸が張り裂けそうでした。当時の学校は行事に力を入れており、練習の段階から先生方はピリピリ。その空気を敏感に感じ取った息子は、ますます参加への意欲を失っていきました。
特に忘れられないのが、運動会の日の出来事です。息子の出番まではなんとか頑張っていたものの、次第に集中力が切れ、応援席に座っていられなくなってしまいました。遠くからハラハラしながら見守っていると、担任の先生が私の元へやってきて、こう言ったのです。

「もう飽きてしまっているので、帰って大丈夫ですよ」

その雰囲気には、「迷惑」という空気がにじんでいるように感じられ、心が凍りつくようでした。息子自身は「帰れるんだ、ラッキー」という様子でしたが、体操着のままトボトボと帰る道中、知り合いの保護者の方に会った時の気まずそうな息子の顔は、今でも目に焼き付いています。

学芸会では、息子が急に出られなくなる事態に備え、代役の子が立てられました。しかし本番当日、舞台の上には本来一人であるお供の雉役が二人……。代役の子に事情がうまく伝わっていなかったのか、息子と並んで演技が始まりました。幸い、息子はセリフをしっかりと言い切り、終演後には「頑張った!」とやり切った表情を見せてくれたのが唯一の救いでした。それでも、「失敗させられない」という学校側の緊張感と、常にハプニングを恐れる私の不安は、いつも拭えませんでした。

「無理しなくていい」特別支援学級という新しい“安全基地”

「このままでは、息子は学校行事が嫌いになってしまう……」 そんな思いから、私たちは転校という大きな決断をしました。新しい学校で息子が籍を置いたのは、特別支援学級。そこは、以前在籍していた学校の教室とはまったく違う、温かい空気が流れる場所でした。
一番の違いは、「参加することが前提ではない」ということです。先生方はまず、「どうしたい?」と息子の気持ちを一番に尊重してくれました。

「運動会、やりたい種目だけ出ていいよ」 「ダンスは、まず練習を見てみて、やりたくなったら参加してみようか」

参加を決めたあとも、無理強いはしませんでした。丁寧に教えてくれ、たくさん褒めてくれる。そうやって「できた」という小さな成功体験を一つひとつ積み重ねていける環境は、息子にとってまさに「安全基地」でした。学校行事に対して、常に後ろ向きだった息子の心が、少しずつ、でも確実にほぐれていくのを感じました。

「先生の部屋で寝ていいよ」不安を溶かした魔法の言葉

新しい環境で息子を変えてくれたのは、先生方の存在だけではありませんでした。通常学級の生徒たちとの自然な交流も、大きな力になりました。

運動会のダンスの練習中、通常学級のお友だちが「次、こっちだよ」と息子の手を引き、教えてくれている姿を見かけました。それは「お世話係」としてやらされているのではなく、ごく自然に、当たり前のように手を差し伸べてくれている様子で、胸が熱くなりました。学校全体に、困っている子がいたら支えあうという優しい雰囲気が根付いていたのです。

その温かさを最も感じたのが、林間学校の時でした。家族から「楽しいよ」と聞かされ、行きたい気持ちと不安な気持ちが入り混じっていた息子。でも、出発が近づくにつれ、不安がどんどん大きくなっていきました。そんな息子の様子に気づいた先生は、笑顔でこう声をかけてくれたのです。

「先生の部屋は隣だよ。夜、不安になったら同じ部屋で寝ていいよ。ずっと一緒にいるから心配しなくていいよ。それでもまだ、不安なことある?」

息子の不安材料を一つひとつ丁寧に取り除き、最後に優しく問いかけるその言葉は、まるで魔法のようでした。息子は安心して林間学校へ出発し、「楽しかったー!」と満面の笑みで帰ってきました。普段は学校での出来事をあまり話さない息子が、自分から楽しそうに思い出を語ってくれた時、この学校に来て本当に良かったと心から思いました。

「来年は1位になる!」後ろ向きだった息子が見つけた自信と目標

かつては「来年は出ない」が口癖だった息子が、今では運動会が終わると「来年の徒競走では1位を取るぞ!」と、次の目標を口にするようになりました。

先生方は、運動が得意な息子の長所をよく見てくださっています。「足が速い」と褒め続けてくれることで、息子自身もそれを自覚し、自信につながっているようです。最近では、先生から「来年の運動会では、リレーの選手を目指してみないか?」という提案までいただきました。
姉がリレーの選手だったこともあり、息子も少し憧れがある様子。練習は面倒くさいとぼやきながらも、まんざらでもない表情をしています。運動会で「邪魔者扱い」されているように感じていたあの頃には、想像もできなかった光景です。ヒーローになれるかもしれないチャンスを前に、息子の目は確かに輝いていました。

「失敗してもいい」と思えた今、伝えたいこと

通常学級で舞台の上に立つ姿をハラハラしながら見ていたあの頃を、今では笑い話にできます。ですが当時は、「失敗したらどうしよう」「劇を壊してしまったら……」という不安でいっぱいで、息子に口うるさく言ってしまっていたと反省しています。今思えば、「失敗したっていい。楽しんでおいで」という気持ちで、どっしりと見守ってあげられていたら、息子の気持ちも少しは違ったのかもしれません。

私が気づいたのは「何よりもまず、子どもの気持ちを大事にすること」です。そして、少しでも前向きな気持ちが見えたら、学校と連携し、どうすればその気持ちを応援できるか一緒に考えていく。その積み重ねが、子どもにとってかけがえのない成功体験になるのだと思います。

イラスト/鳥野とり子
エピソード参考/チノパン

(監修:藤井先生より)
お子さんが特別支援学級という環境の中で自信を育んでいく姿に胸が熱くなりました。発達特性があるお子さんにとって、「どんな環境で学び・過ごすか」はとても大切な要素です。環境が合うことで、安心感が生まれ、安心感が自信や意欲の芽につながっていくことを改めて感じました。困っている子がいたら支えあうような、優しい雰囲気が根付いてる環境は本当に素晴らしいですね。

「子どもの気持ちを大事にする」のは、親御さんだけでは抱えきれない場合もあります。心配や不安が大きくなることもありますが、そんな時こそ学校の先生方や支援者と連携して、一緒に考えていくのが良いと思います。息子さんが少しずつ笑顔を取り戻し、自分のペースで成長されていく姿が何よりのサインですね。素敵なコラムをありがとうございました。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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