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サンボマスターが今のバンドであること、今の音楽であることを実感させてくれた『ラブ&ピース! マスターピース!』武道館公演を振り返る

SPICE

サンボマスター 撮影=浜野カズシ

サンボマスター ワンマンツアー2024『ラブ&ピース! マスターピース!』
2024.10.25 日本武道館

2024年10月25日金曜日、日本武道館で「サンボマスター ワンマンツアー2024『ラブ&ピース! マスターピース!』」のファイナル公演が行われた。サンボマスターが日本武道館でワンマンをやるのは、2017年12月3日以来、7年ぶり・2度目である。

2月16日(金)に柏ALIVE(木内泰史[Dr]の地元)を皮切りに、6月23日(日)栃木教育会館(近藤洋一[Ba]の地元)まで、全国のライブハウスとホールを回った29公演、プラス『ファイナルシリーズ』と銘打った3公演=8月25日(日)福島県会津風雅堂(山口隆[Vo & Gt]の地元)・9月16日(月・祝)大阪城ホール・そしてこの日本武道館、全部で32公演のチケットがソールドアウト。

本数の多さや各地の会場のキャパシティを鑑みて、結成から24年間のサンボマスターの歴史の中で、最大動員数を記録したツアーになった、ということである。
なお、この日本武道館でのライブの模様は、CSテレ朝チャンネルで生中継された。

山口隆 撮影=浜野カズシ

開演時、演奏に入る前に、まず山口隆からのメッセージ音声(ツアー32本ソールドアウトのお礼の言葉など。4分強)が、このツアーのダイジェスト映像を交えながら流れる。そしていつものSE「モンキー・マジック」(ゴダイゴ)へ。今日はそこに、女性リングアナ調の英語のメンバー紹介がのっかっている。

木内泰史のスネア&キックでSEが止まり、山口隆のギターから1曲目、9月3日にリリースされたばかりの「稲妻」でライブがスタート。ステージには左右と中央にビジョン(画面)があり、その中央のビジョンに、同曲のMVが映し出される。曲間なしで続いた「輝きだして走ってく」で、その中央のビジョンの画は、このツアーのロゴに変わった。

「俺たちに力を貸してくれ、100もいらねえ、50もいらねえ、いや10もいらねえ、1でいい、力貸してくれ、その1をもらったら、俺たち必ず可能性見せっからよ!」という山口の煽りから始まった「可能性」を終えたところで、最初のMC。

今日はとにかくMCを短くしないとヤベえ、去年の横浜アリーナで3時間半やって、「終演後の物販がまったく売れなかった」と所属事務所のみなさんからクレームが入った、と、山口。そんな山口に「3曲しかやってないですよ? なんでもうギター持ってないんですか」とツッコミを入れる近藤洋一。「日本武道館のみなさん、こんばんはー! そして、ただいまー!」と絶叫する、山口曰く「まともなMCができる唯一の男」、木内泰史。

1年前にリリースされた「笑っておくれ」では、曲の進行に合わせて、画面の上を縦横無尽に走るように歌詞が出る。「ミラクルをキミとおこしたいんです」は、山口のアジテーションにオーディエンスが応え、「全員優勝!」コールが始まる。

「夜が明けたら」では、シンセのバックトラックと共に、ファンキーな演奏を聴かせる3人。次の「世界をかえさせておくれよ」では、曲の頭から、でっかいシンガロングが日本武道館に響く。

「それではみなさん、毎朝流れるこの曲で、踊りまくっていただきましょう! 時刻は8時になりました。おはようございます、せーの、ラヴィット」という、おなじみの曲紹介&ビジョンの時報で始まる「ヒューマニティ!」では、裏打ちのリズムに乗って武道館が揺れる。

次の「青春狂騒曲」で起きたシンガロングのボリュームは、さっきの「世界をかえさせておくれよ」でのそれを超えた。

近藤洋一 撮影=浜野カズシ

ロックンロールはNOって言う音楽なんだよね。でもこんな悲しい時代になっちゃってさ、NOなんて言いたくねえよ、俺──という山口の口上から歌われた「Yes!」では、サビの《Yes! つかめ つかめ つかめ つかめ 届け 叫べ 踊れ》で、3人の声とオーディエンスの声が合わさる。

そして。「ビューティフル」を経ての、「I love you & I hate the world」が、ここまでの12曲でのハイライトだった。《僕のばあちゃんが死んでしまった夜に 週刊グラビアアイドルが腕に注射を打っていたんだよ》《僕のじいちゃんが戦に行った夜に ばあちゃん泣いて誰も死んでくれるなって祈っていたんだよ》と、山口の歌に合わせてリリックがビジョンに出る。果てしなく重く、果てしなく激しく、最後に微かな救いが描かれるこの曲を、ライブで聴けるのはめずらしい気がする。14年前の曲だが、今だからこそ歌いたい、歌うべきだ、という気持ちだったのかもしれない。

この曲を歌い終えたところで、「武道館で酸欠って、なるんだね」と山口。この広い空間が酸欠状態になるなんてありえないので、自分が歌に込めるテンションが肉体のリミットを超えたのが理由だと思う。

持ち時間が短いフェス等でも必ずやる、この世を去ってしまった“君”へ歌いかける「ラブソング」では、木内の先導で、客席中でスマホのライトが左右に振られるのが、定番の光景になっている。この日は、グッズの「しあわせの花束ライトニング1.0」のカラフルな輝きが、スマホの光の数を上回った。

リリースから17年経っても、いついかなる時に聴いても新鮮なギターリフで始まる「光のロック」を経て、「やべえ、もう止まんねえ。調子ん乗って新曲やっていいですか! 俺たちの新曲で盛り上がるには、ソウルの知識、ブルースの知識、ロックの知識、一切いりません。俺たちが今きみに必要だと思ってることは、新曲でも知ったかぶりで盛り上がってくれることですよみなさん!」と叫ぶ山口。で、「知った・か・ぶ・り! 知った・か・ぶ・り!」という謎のコールから突入したのは、今年7月リリースの「自分自身」である。ビジョンには、歌詞と今回のツアーの各地での写真が映し出される。

木内泰史 撮影=浜野カズシ

「さあみなさん、2024年、伝説の、全員優勝の時間がやってまいりました!」と山口がアオり、オーディエンスの「全員優勝」コールが響く中、始まった「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」では、オーディエンスのシンガロングの最大ボリュームが、また更新された。

「孤独とランデブー」の中盤では山口、「誰にも遠慮はいらねえから幸せになるんだよこの野郎!」と絶叫。その声が、ちょっとかすれている。さっきの酸欠発言もそうだが、今日の山口は普段のライブとは違う、やたらと力が入っているようだ……と思っていたら、この曲終わりのMCで、「ハンパねえ声出んな、今日。声出しすぎて酸欠になっちゃうんだよね。次の曲のことを、やってるうちにもう“この曲で(終わっても)いいのだ!”って思っちゃうから。怖い、自分がもう」。

ロックンロールはおめえのことを探しに来る音楽なんだ。13歳になって俺が最初にわかったことは、俺はこの世にいてもいなくてもいい人間だってこと。そんな時にロックンロールが俺を探しに来たんだ。セックス・ピストルズ、ダムド、ストゥージーズ、ザ・ブルーハーツ。だから俺もおんなじことを言ってるだけ。おめえのことを探しに来て、おんなじことを言うだけ。俺が言われたように、おめえに言ってやるよ。おめえはクソじゃねえ。おめえはクズなんかじゃねえ、おめえはいたほうがいい奴なんだ──。

という山口の口上からの「Future is Yours」で、この日のライブは2度目のピークを迎えた。《君がいたほうがいいよ》のリフレインに入る前に山口、「本当のことしか言わねえからな!」と、さらにダメ押しする。

山口隆 撮影=SARU(SARUYA AYUMI)

本日のシンガロング最大ボリューム記録をまた更新した「できっこないを やらなくちゃ」と、本日のハンドクラップ最大ボリュームを更新した「花束」、新旧の代表曲(2010年と2020年)で、さらにピークを迎えて本編が終了する。

「花束」の間奏で山口は「約束しろよ、次に俺たちに会うまで、勝手に死んでんじゃねえぞ!」と吠えた。

アンコールでは山口と近藤が「自分自身」Tシャツで登場。15曲目の「自分自身」に合わせて作ったわけではなく、近藤洋一が大学生の頃(1997年)に、代官山のOKURAで購入して愛用していたTシャツだそうで、このたびサンボマスターとのコラボで復刻されたという。

山口隆、「おめえたちが声、ワーッと出すから俺も負けてらんねえと思ってワーッて出して、酸欠になったんだよ」。これまでになかった体験だから、こんなに何度も言うのだろう。

そのMCを木内が「もうええでしょう!」と、『地面師たち』のピエール瀧のセリフで遮る。そういえば、サンボマスターと『地面師たち』の大根仁監督は、2004年の松尾スズキ初監督映画『恋の門』で、主題歌担当兼出演者と、メイキング担当として初めて出会っている。2023年に大根監督は、『しん次元! クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』の主題歌を、サンボに依頼した(Future is Yours)、という縁もある。

木内が遮ったあと、近藤が、「みなさんにご報告と御礼を申し上げることがあります」。今日、日本武道館の前で献血を行った、献血者数も骨髄ドナー登録者数も目標を大幅に上回った、ということの報告とお礼である。献血や骨髄バンク登録の啓発活動を行っているSNOWBANKとコラボして、大阪城ホールとこの日の日本武道館で、そういう施策を行ったのだった。「さすがサンボマスターのお客さん、ほんとうれしいです、ありがとうございます」と、近藤。

近藤洋一 撮影=SARU(SARUYA AYUMI)

そして、「もうひとつお知らせがあるんで、一緒に(映像を)観てもらっていいですか?」というわけで、告知。来年2025年に結成25周年を迎えるにあたって、「サンボマスター結成25周年全員優勝記念事業『全員優勝VICTORY25』」が始動すること、1年前の横浜アリーナの映像作品化と、過去最大規模の全国ツアー『全員優勝パレードツアー』が予定されていることを発表した。

山口→近藤→木内の順に締めの挨拶をしてから、1stアルバム収録曲であり、サンボマスターの最初の強力な名刺になった「そのぬくもりに用がある」が演奏される。山口、「声が聞こえたのは ここ伝説の武道館で 行きますよ、行きますよみなさん!」と叫んでから《ぬくもりという名のケモノ道》と歌に戻り、サビの《涙流れて 愛が生まれる》に突入した。

本当のラスト=22曲目に持ってきたのは、「ロックンロールイズノットデッド」。現在所属しているSMA(事務所)とビクター(レコード会社)に移籍して最初のアルバムの1曲目であり、タイトルチューンだった曲である。

山口、「ロックンロール大教典、1980年代のページ、日本編、第一章、赤線が付いてるあの言葉。あれを聴いて俺はロックンロールって終わんねえなと思ったんだ。『終わらない歌を歌おう』って書いてあったんだ」と、ザ・ブルーハーツを引用してから曲に入る。ザ・ブルーハーツは、1988年2月12日に、日本武道館に立ったそうだ。この曲のイントロで、特効の銀テープが発射された。

これまでリリースした曲を全部やるというコンセプトで、3部構成・6時間以上にわたって、全55曲を演奏した初の大会場ワンマン、両国国技館(2007年9月1日)。2017年12月3日に行った、1回目の日本武道館。前半で山口が言ったように、3時間半もステージに立ち続けた、1年前の横浜アリーナ(2023年11月19日)。

それらのどのライブよりも、今回の日本武道館は、サンボマスターの“今”に焦点が当てられていた。サンボマスターが今のバンドであること、今の音楽であることを実感させてくれるライブだった。

「稲妻」「笑っておくれ」「ヒューマニティ!」「自分自身」「Future is Yours」などの、近年の曲が多かったから、というだけで、そう感じたのではない。ステージから放たれているエネルギーも、年齢も性別もこれまででもっとも幅広くなったオーディエンスの空気感も、24年やってきて懐かしいヒット曲がいっぱいあります、というバンドのそれではなかった。2024年のロックバンドならではのものだった。

木内泰史 撮影=SARU(SARUYA AYUMI)

2ndアルバムのタイミングでブレイクしたあとは、それなりに、いや、かなりの、紆余曲折を経ながら活動してきたバンドである。

最初の所属事務所兼所属レーベルから現在のSMAとビクターに移籍したのは、契約を切られたから、という経験もしているバンドである。動員が厳しくなって、ツアー先の会場が埋まらない時期もあったバンドでもある。

それが今、結成から現在までの間でもっとも多くのファンを集めてツアーをやっていて、もっとも幅広い音楽ファンたちに愛されている。つまり、キャリアハイが、(今のところ)24年目の現在である。という事実って、すごいことだと思う。

メジャーデビューの頃から追ってきたし、それぞれの時期のライブも観てきたが、なぜサンボマスターが、現在、こんなベストな状況を迎えることができているのかは、正直言ってわからない。本人たちの力だけではなくて、事務所やレーベルのスタッフたちの力も大きいだろう。

でも、そのスタッフたちも、本当のところは、わからないのではないか。もちろんこの状態を目指してサンボマスターと仕事をしてきたし、がんばってきたわけだけど、じゃあサンボマスターのライブが、サンボマスターの楽曲が、5年前よりも10年前よりも今の方が全然いい、みたいなことになっているかというと、そんなことはないので。5年前も10年前も最高だったので。

つまり、変わったのはサンボマスターではなくて、世の中の方なのではないか。今の世の中が、サンボマスターを必要としているのではないか。だからこんなに支持が拡大しているのではないか。というくらいしか、理由を見つけられない気がする。

サンボマスターが必要とされる時代が、いい時代なのか、と考えると、複雑な気持ちになるところもある。が、現在サンボマスターというロックバンドが存在していることが、今の時代を生きる人たちにとって希望になっていることは、疑いようがない、とも思う。

SARU(SARUYA AYUMI)

取材・文=兵庫慎司
撮影=浜野カズシ , SARU(SARUYA AYUMI)

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