【みちのく春旅】桜色に染まる街で待っていたのは電子の歌姫。初音ミクを愛しすぎた地「弘前」
今に続くボーカロイド文化の原点であり、バーチャルアイドルが実在の人間と変わらず存在しうることを証明した初音ミク。人類史に名を刻むミューズだが、4月から5月にかけて、ひときわ彼女が輝く地がある。
そこではどっちを向いても桜色。あらゆる場所でフォトスポットが用意され、コラボグッズが並び、パネルやポスターが街を彩る。知らない人が見れば「これがアキバか!」と思うに違いない、すごい状況が筆者の目の前に広がっていた。場所は青森県弘前市だ。
・異色の観光キャンペーン「ひろはこ」
桜の開花にはまだ少し早い4月中旬、筆者はJR弘前駅にいた。弘前観光をしたいのだが、せっかくなので「ひろはこ」に初参戦しようと思い立ったのだ。
観光案内所でパンフレットをゲット! これは弘前市と函館市が共同で行っている観光キャンペーンで、両市から一文字ずつとって「ひろはこ」と名づけられている。キャンペーンキャラクターとして採用されているのがシンガーの初音ミクさん(16歳)だ。
春の会期は2025年4月12日(土)~5月31日(土)。両市の風景をバックに桜ミクがデザインされたメインビジュアルは描き下ろし。遠目からでもミクさんだとわかるくらい華やか!
駅にはデフォルメキャラのイラストパネルあり。これは弘前バージョンで、もちろん函館に行けば函館バージョンがある。鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOのピアプロキャラクターズも参戦。
ベンチでパンフレットを開いて作戦を練ったが、うなり声が出た。弘前市内全域に「あらゆるコラボスポット」「あらゆる展示」「あらゆるオリジナルグッズ」が点在し、とても全部は巡りきれない。
とりあえずデジタルチェックインラリーに参加すれば、市内の主要スポットを回れそうだ。所定の観光施設へ行き、スマホアプリ「ミクナビ」でチェックインしていくもの。完走すれば記念品もあるという。
・観光都市の実力を見せつけられた「津軽藩ねぷた村」
そうと決まれば出発! 筆者は車で来ているので、どこかの駐車場を拠点にし、周辺を徒歩で回るという計画だ。最初に訪れたのは、弘前城からもほど近い「津軽藩ねぷた村」。
弘前市といえば人口16万人ほどの地方都市。決して大きな街ではない。にもかかわらず、素晴らしく充実した観光施設だった。城下町のど真ん中なのに大型駐車場完備で、物産館のようなショッピングエリアや、郷土料理の食事処は大にぎわい。
有料見学エリア(大人600円)ではねぷた展示や津軽三味線の演奏、民芸品の工房見学などが行われている。ここに来るだけで津軽名物を一通り体感できそう。「世界の文化が大集合」が万博なら、「津軽の文化が大集合」がねぷた村だよ。
話を戻して、ねぷた村にはデジタルチェックインラリーのチェックポイントがある。店内に掲示されているチラシを探してQRコードを読み込むと、1つ目のスタンプゲット! 過年度のイベントポスターも掲示され、大変に華やかだ。
チラシはA4サイズのさりげないもので、以降も設置場所によっては少し見つけにくい場合があった。迷ったら店員さんに尋ねよう。
弘前市内では、どこにいても雄大な山が見える。「津軽富士」と呼ばれる岩木山だ。
「○○富士」は全国にたくさん(一説によると400以上)あるが、やっぱりニョキッと突き出た独立峰であってほしいし、「おおっ」と声が出るような存在感があって欲しい。岩木山は街から近く見えて迫力満点、富士界隈のエリートじゃないだろうか。
・弘前のシンボル「弘前城」に行ってみる
ねぷた村からは、弘前城のある弘前公園がすぐ。来たからには殿様気分で城下を眺め「苦しゅうない」してみたいので、とりあえず本丸に行ってみよう。
公園そのものは無料で散策できるが、天守は有料ゾーン(大人320円)にある。日本にたった12しかない、江戸時代以前の建物が残る「現存天守」の1つ。
内部は人がすれ違うのも大変なくらい狭く、意外にも簡素な造り。足を踏み外して滑り落ちる自分の姿が想像できるほど急な階段で、殿様気分にひたる余裕はなかったが、歴史的に貴重なものだと思うと感慨深い。
筆者の環境では上手く動作しなかったのだけれど、公園内でARマーカーを読み込むとキャラクターが登場するARフォト企画も実施されている。ミクさんたちと一緒に旅をしている気分になれるはず。もしスマホが対応していたらぜひ。
本丸から出てきたところに、大型イラストパネル発見!
今年のイラストは弘前公園の西濠(弘前)、五稜郭公園(函館)をバックにした夜桜ミク。夜のシーンで、例年よりも黒っぽいカラーリングになっているのがまたシックでよい!
近くの「弘前城情報館」はラリーのチェックポイント。
そして500セット限定「弘前城 御城印」(3枚セット1500円)の販売場所でもある。
日付は自分で書き込むタイプなんだけれど、ものすごく綺麗で感激! ポストカードのような硬質紙で、御城印帳がなくてもそのまま飾れる。今回のイベントで何かひとつ記念品を、と言われたら筆者はこれがイチオシ!!
園内には過年度のイラストパネルも点在していて油断できない。写真を撮りつつ公園の南側の出口へ。
最北端である亀甲門から、最南端である追手門まで公園を縦断したことになる。ここまでの歩数、およそ7000歩。そもそも弘前公園は、じっくり一周すると約2時間と言われている。普段ひきこもりの筆者には致死的な距離だ。股関節がミシミシ言い始めた……!
ちょっと言い訳させて欲しいが、筆者は「一家に一台」ならぬ「一人に一台」の車社会に暮らしており、近所のコンビニにさえ車で行く。商業施設にはたいてい無料の駐車場があり、ドアtoドアで目的地に行ける。駅の階段を昇降するような機会もなく、広い大地で健康的に暮らしているように見える地方人に比べて「コンクリートジャングルの都会人のほうが絶対に体力がある」と筆者は確信している。
ともかく疲れすぎた。エネルギー補給しないと死ぬ。
・オシャレすぎる「大正浪漫喫茶室」
やって来たのは「藤田記念庭園」内にあるレトロカフェ「大正浪漫喫茶室」だ。弘前公園との共通券もあるが、カフェ利用だけなら入園券は不要。おとぎ話に出てきそうな可愛らしい洋館に胸がきゅんきゅんする。
10組ほど「待ち」があったけれど、建物を見物しているうちに順番はどんどん進んだ。入口の端末で受付してから着席するまで30分くらい。
なんとまぁハイカラな! 大正時代に建てられた洋館のサンルームが喫茶室として使われている。筆者は西洋風の屋敷に併設される「サンルーム」とか「温室」というものに憧れがあり、長崎の旧グラバー住宅なんて大好物である。紅茶を飲みながら読書をしたり編み物をしたりするんだろう?
ここでは常時10種類ほど用意された市内各店のアップルパイから好みのものを選べる。さすが青森! さすがりんごの国!!
甘いのがいいか、酸味があるのがいいか、温かいのがいいか、冷たいのがいいか……選びきれない!
散々迷って、真ん丸フォルムの「クローヌ」にした。ミクさんとは関係ないけれど、とんでもなく優雅な時間が流れる。明治期以降に積極的に西洋文化を取り入れたという弘前は、洋館・洋菓子店・洋食店の多い異文化の街。
元気が復活して、再び歩き始めた。市内には歴史のありそうなレトロな建物が多く残る。おお、これも歴史的建造物だな……
ってスタバじゃないか!!
大正時代の建築、旧第八師団長官舎だという。ホントにお店? コーヒー飲めるの?
さらにテクテク歩いて訪れたのは弘前市立観光館。観光の拠点であると同時に、ラリーのチェックポイントだ。
とにかく、どこに行ってもミクさんがいる。ミクさんに会わずに弘前観光はできないといっても過言ではない。ネット文化に馴染みのない人は、たぶん彼女を くまモン や ひこにゃん みたいに「我が町のキャラクター」だと信じてると思う。
現在まででスタンプ3つ達成。残り2つを得るために、ここからは車で移動する。
・最後のスタンプは……
日も傾いてきた頃、目の前に伸びるのはものすごくエモーショナルな鉄道だ。
午前中に立ち寄ったのはJRも兼ねた大きな弘前駅だけれど、ここは弘南鉄道の中央弘前駅。国内最北の私営電気鉄道会社だという。夕景も相まってノスタルジックな雰囲気がたまらない。古ぼけて、錆びついていて、人もあまりいなくて、でも温かい昭和レトロ建築。
待合室のすみ、無人観光案内所にラリーのチェックポイントがあった。無人なのに荒れた様子もなく、とても綺麗だった。
弘南鉄道の駅からすぐ、「弘前市まちなか情報センター」が最終地点。別にラリーの順番は自由なんだけれど、完走の記念品をもらえるのが「観光館」か「まちなか情報センター」なので、どちらかをゴールにするのがよいと思う。
ここ、すごかった。館内は初音ミク一色! ミュージアムとして、過去のイベント開催時のポスターやグッズ、アートなどが所狭しと飾られている。弘前大学出身のアニメーター、安彦良和さんが描いた桜ミク原画も必見。
最後のスタンプゲットォォォォ!
スタンプラリーで5つ集めれば完走って、少ないと思うでしょ? すぐ集まりそうな気がするでしょ? ところがどっこい。あいだに移動を挟むし、行った先々でも見どころがいろいろあるし、体力的にもずっと行動できるわけじゃないし、なかなかの大旅行になった。足がパンッパンだ!
完走記念のキラカード、いただきました!
・夕飯はこれしかない
この日は車中泊をしたのだが、夕飯はこれ一択。青森が誇るご当地パン「工藤パン」とのコラボ商品だ。
メインビジュアルが使われた「イギリストースト」や、いちごのチョコレートが美味しい「チョコロールパン」が展開されている。県民のソウルフードとして、市内のスーパーやコンビニなどあちこちで買える。
あれ、パンに変な染みがついている。焦げた?
と思ったら、桜の花びらだコレ!
このほかレトルトカレーやコーヒーやりんごジュースなど、数えきれないほどのコラボアイテムあり。すでに完売しているが「弘前プラザホテル」では部屋中にミクさんがデザインされたコラボルーム宿泊プランもあった。
この時期、日本で一番の “初音ミク推し” に化す弘前市と函館市。桜の季節は短いが、会期はまだたっぷりあるので制覇に挑戦してみるのはいかがだろうか。ものすっごい充実感があることをお約束する。
参考リンク:弘前市観光情報サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.