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妊産婦のメンタルヘルス 不安定化する要因&必要なサポートとは? (後編)

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妊産婦のメンタルヘルス 不安定化する要因&必要なサポートとは? (後編)

慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生は、「妊産婦のメンタルヘルスは、当事者女性だけの問題ではなく、社会として解決していかないといけない」と訴えます。なぜ、現代の女性は追い込まれているのか。どうすればそれを解決できるのか。前編記事に引き続き、吉村先生にお話を伺います。

目次子育ては大変だけど、それを上回る喜びをもたらしてくれる産後のメンタルヘルスの問題は「子育てしづらい社会」に原因がある悪化する前にお医者さんに相談しましょう

子育ては大変だけど、それを上回る喜びをもたらしてくれる

――2023年2月にBIGLOBEがZ世代(18〜25歳)の未婚男女500人に実施した「子育てに関するZ世代の意識調査」によれば、「将来、子どもがほしくない」と回答した割合は45.7%…そんな衝撃の数字が各種メディアでも取り上げられるなど話題になりました。

吉村先生: 「妊娠出産世代の女性が大変な思いをされており、その様子をメディアやSNSを通じて、より若い世代が見聞きしている。『そんな大変なら、将来子どもを持つのはよしておこうかな』と思うのは、ある意味で自然なことです」

――妊産婦さんを応援する我々のようなメディアにとって、今の妊産婦さんの置かれている状況の厳しさを正しく伝えることは大切ですが、同時にそうした記事が若い世代の子育てに関するネガティブな感情をより強めることにもなりかねず、伝え方もすごく難しいと思っています。

吉村先生: 「メディアとして事実は事実として伝えることは重要。そこから逃げない方がいいとは思います。その時に『大変だ』と嘆くのではなく、解決策を提示したり、解決につながるよう前向きな提案をしたらどうでしょうか。その記事を読んだ人――パートナーや周りの家族、そして職場の方々――が、産後のメンタルケアについての必要性を知り、サポートしなければいけないことを実感する。そのことが大切だと思いますね」

――あと子育ての素晴らしさをしっかり伝え続けることですよね。

吉村先生: 「おっしゃる通りです。妊娠も出産も女性しかできない崇高な行為です。本当に素晴らしい体験だし、子育てはそれを上回る生きがいを母親、父親にもたらしてくれます。それは本当にみなさんに伝えたい。子育ては苦労も多いし、なにかを諦めなければいけないことだってあるでしょう。若い人の言葉を借りるなら、“コスパ”がいいわけではありません。でも、子どもとの出会い、子育ては、そんなことを遥かに凌駕する『人生の喜び』を得られるものです。だからこそ、“それ”を望まない若い人が増えている事実を、社会は深く受け止めなければいけません」

産後のメンタルヘルスの問題は「子育てしづらい社会」に原因がある

――コロナ禍以前から、日本では産後うつ女性が増えていました。原因についてはどうご覧になってらっしゃいますか?

吉村先生: 「絶対数が増えたということもあるでしょうが、1つは実態を捉えられるようになったことが大きいように思います。昔から産後うつの女性はそれなりにいたはずですが、その実数を把握できていたわけではありませんでした。今の基準からすれば産後うつに認定されるような女性も少なくなかったと思います」

――あとは子育て環境が昔とは違うということはよく指摘されていますね。

吉村先生: 「ええ。昔は家族、親族が近くに住み、また地域全体に育児をサポートする緩やかなつながりがありました。小うるさい姑や口の悪い近所のおばさん、それは現代の人からすると“面倒な付き合い”なのかもしれないけど、でもそれがプラスに機能していたわけですね。子育てに関して頼る人がいない、なんてことはほとんどなかった。落ち込んだとき、自信の失ったときも、慰めてくれる“仲間”や“先輩”がいた。この違いは、相当大きいですよ」

――核家族化とコミュニティの喪失が、子育て環境に暗い影を落としてしまっていると。ただそれは他の先進国でも、同じ傾向にあるのではないでしょうか。

吉村先生: 「それはそうです。だからこそ各国政府は、公的なサポートを拡充しているんですよ。特に北欧諸国は制度が手厚く、妊娠から出産、育児に至るまで切れ目のない支援が当然のように行われています。子どもを育てようという意識が社会にあるし、実際そういう構造になっている。一方で日本はどうか。少々極論になりますが、日本の子育ては(多少の金銭的サポートを出しているだけで)『あとは自助努力でなんとかしろ』と言っているようなものです」

吉村先生: 「最近では男性の産後うつも増えていることが指摘されていますね。女性の場合は、ホルモンバランスの急激は変化も原因のひとつといえるけど、男性はそれと関係なく病んでしまう。つまり、それだけ実際の子育てが大変ということであり、また社会の歪みが子育て当事者に向けられている証左でもあるでしょう。

社会としてそこの部分に手を差し伸べることができているかどうか。凍結卵子をはじめとする生殖医療に助成金を出すことも大切ですが、今の子育て世帯へのサポートを拡充させること、そして産後のメンタルヘルスの大切さをもっと多くの方が認識し、妊婦さんに優しく接することの方が、本質的な少子化対策になるのではないでしょうか」

産後ケア施設の利用も、ママのこころを守ってくれる

――最後に今、全国に広がりつつある産後ケア施設についてお聞きしたいと思います。最近は産後ケア施設も全国に生まれています。まだ一般化はしていませんし、費用面での課題などもありますが、こうした施設を産後の女性が誰でもが使えるようになるといいですよね。

吉村先生: 「産後ケア施設では、助産師など専門家から、ママ自身の身体のケアや保健指導、栄養指導、精神面のケア、授乳のやり方を始めとした赤ちゃんのケア、育児についての具体的な指導や相談などのサポートが受けられます。

自治体の産後ケアセンター、助産院や病院、民間の産後ケア施設などがあり、宿泊型だけでなく、施設に通いケアを受けるタイプもあります。また自宅に訪問してもらいケアを受けることもできます」

――メンタルヘルスの面からいっても、産後ケアは重要ですよね。

吉村先生: 「はい。産後ケアは新生児期だけでなく、産後1年以内が対象とされていますが、特に出産直後はからだにもダメージが残っているでしょうから、この時期に産後ケア施設を利用されることをおすすめしたいですね。

産後は、なるべく早くに家に戻りたいというママもいらっしゃると思います。特に上の子がまだ小さい場合は、パパだけでは心配だという方も少なくないでしょう。まだ産後ケア施設が“当たり前”になっていないから、そんな特別なことをしなくてもいいと思われる人が多いと思うんです。

でもね、産後の本当に大変な時期に、たった数日間でもからだもこころもやすめて、これからの子育ての準備ができるのは全然違いますよ。ママ自身が心身ともに健康であることは、本人にとってはもちろんのこと、赤ちゃんやパートナーの幸せのためでもあります」

吉村先生: 「あと今は出産後間もない時期に、健診が2回あります。気持ちが落ち込む、様子が少しおかしいなと思ったら、その時にお医者さんに相談してみてください。地域の保健師さんも味方になってくれます。新生児訪問や赤ちゃん訪問の際も、遠慮なく相談しましょう。

そしてなにより大切なのはパートナーの存在です。心身共に疲弊しているママを助けるのは、パートナーです。主体的に子育てをして、ママのサポートをすること。そして異常があれば、すぐにそれに気づいて、医療介入できるよう手続きをしてください」

産後のメンタルヘルスの重要性を知ってもらい、社会全体が、今子育てで大変な思いをされている当事者に寄り添い、手を差し伸べること。それによりハッピーな子育てをしてもらうことがなにより大事という吉村先生のお話は、本当に大切なことだと思います。

当事者である妊産婦さん以外の人ができることは、ひとりひとりの悩みにちゃんと耳を傾けること、寄り添い理解してあげること…いろいろあると思います。産後の女性の心が壊れやすいことを前提に、思いやりをもって接してあげてください。

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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