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「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」でしかできない9のこと

タイムアウト東京

「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」でしかできない9のこと

2024年3月23日、アートとクリエーティブ、テクノロジーの力を融合した芸術祭「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」が開幕した。総合プロデューサーは「クルックフィールズ(KURKKU FIELDS)」を営む音楽家の小林武史、アートディレクターは「いちはらアート×ミックス」ほか多数の日本の芸術祭を手がける北川フラムだ。

同イベントは千葉県誕生150周年記念事業の一環として実施され、絵画に映像、インスタレーションなど、多岐にわたる約90の作品が、内房総5都市を舞台に展開する。市原市では牛久商店街や「市原湖畔美術館」、旧里見小学校などの各拠点に約60点の展示を行う。木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の各市では、各地を巡回しながら作品鑑賞できる。

軸となるテーマはアートを主とする「LIFE ART」と、音楽を主とする「LIVE ART」だ。「LIFE ART」は、北川フラムが人々の生活に根ざした地域の営みに美を見いだし、アーティストとともに表現する。「LIVE ART」では、小林武史を中心に音楽、ダンス、テクノロジーなどを組み合わせたライブパフォーマンスを実施していく。

ここでは芸術祭の見どころをダイジェストで解説していきたい。

1. 高度経済成長期のドリームハウスに思いを馳せる。

Photo: Tomomi Nakamura

SIDE COREが手がけた「dream house」は、高度経済成長期から「東京湾アクアライン」が開通するまでの木更津を象徴したような作品だ。ぽっかり浮かんだ一軒家の背景には「東京湾アクアライン」が架かり、対岸からその景色を眺めることで、当時の様子を思い浮かべることができる。

神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ道路の誕生は、密集した都市から抜け出し「マイホームを持ちたい」と願う人々が理想を胸に、この地に流入する要因となった。「夢の架け橋」とも言われた道路は、家族の形や人の生き方までを変えてしまう威力を持っていたのである。

2. 女神と現代の⾁体の融合を目の当たりにする。

Photo: Tomomi Nakamura

木更津駅周辺の倉庫内に展示されている「V(仮設のモニュメント5)」は、魔術と救済、人間と非人間など両義的な中間領域を探求する小谷元彦が手がけた作品だ。約4000年前の縄⽂時代の⼟偶「仮⾯の⼥神」と現代の⾁体を融合させるモニュメントを作り上げ、奈良時代の半跏倚坐(はんかいざ)の「⽉光菩薩像」を像に重ねている。

Photo: Tomomi Nakamura

当時は埋葬する際に顔に土器を被せたり、手足を折る習慣があったりしたことから、この像にもそれらの風習が反映されている。従来の「仮⾯の⼥神」に刻まれた模様を現代の衣服として捉え直し、土器をアンクレットのような形で足にかけるなど、過去から現代、未来の時間を凝結した作品となっている。

3. この地に生きた人の痕跡を感じる。

Photo: Tomomi Nakamura

袖ケ浦市の「旧進藤家住宅」内に展示された、大貫仁美作の「たぐり、よせる、よすが、かけら」は、旧家にあったガラスの「断片」で作った衣服によって、この地を生きた人の痕跡の可視化を試みた作品だ。彫刻のように型を作ってからガラスを流し込み、「傷」を装飾し「美」に転じさせる金継ぎを随所に用いることで、「完璧とは違う欠落から生じる美の姿」を表現している。

Photo: Tomomi Nakamura

ガラスの下着がベースとなった作品は、危うさやはかなさも感じられるが、よく見ると、型の土台はふっくらとした女性がモデルとなっている。この場を訪れた際にどことなく温かく迎え入れてくれるような、そんな気配も感じられる作品なのだ。

4. アクアラインとアポロ計画の共通点を知る。

Photo: Tomomi Nakamura

構想から36年を経て実現した「東京湾アクアライン」の開通は、その工事の難易度の高さから人類初の月への有人宇宙飛行計画と比較され、土木の「アポロ計画」とも呼ばれたプロジェクトだった。そんな「東京湾アクアライン」の歴史をたどる記念館に、光の宇宙船のような異空間「SKY EXCAVATER」を作り出したのが、キム・テボン(金泰範)だ。

Photo: Tomomi Nakamura

キムは深夜に道路を走る際、車窓を流れる光の連続に、月の裏側や遠い宇宙を思い起こすことがあるそうだ。遠くない将来、建設当時の技術は転用され、我々を未知の世界へと導くことを、作品を通して表現している。

5. 廃校の校庭で腹を満たす。

Photo: Tomomi Nakamura

歩き疲れたら立ち寄ってほしいのが、市原市の産業と生の現代アートが共演する「旧里見小学校」内の校庭を活用した「SATOMI HIROBA」だ。地元の人や来訪者が集える空間を目指したこの場所は、食をテーマに活動している現代美術作家、EAT&ART TAROが手がけた。天気のよい日には、ピクニックやたき火も満喫できる。

Photo: Tomomi Nakamura

手作りのベーコンと房総の新鮮な卵を挟んだフォカッチャサンド、房総の豚肉を使った揚げたてカレーパンなど、腹ごしらえにぴったりのメニューが並ぶが、中でも自分で作れるフレッシュな生イチゴミルクはぜひ味わってほしい。実際に小学校で使われていた机や椅子を配置したカラフルな屋外空間で、おいしいひとときを過ごそう。

6. 街の声に耳を傾ける。

Photo: Tomomi Nakamura

高度経済成長期の埋め立て地との境界線上に位置する「富津公民館」とその周辺を舞台にインスタレーション「沸々と 湧き立つ想い 民の庭」を展開するのは、中﨑透だ。地域に由縁のある4人にインタビューを行い、その言葉から引用した37のエピソードを会場内に配置。地理的・歴史的に背景のあるエピソードとオブジェクトを巡回できるようになっている。

Photo: Tomomi Nakamura

富津市の漁業や戦争遺構、公園や街、海のことなど話題は多岐にわたる。この町ならではの愛嬌(あいきょう)のあるエピソードとライトボックス(電光看板)をたどりながら、エリアにまつわるユニークな物語を体験できるのだ。

7. 海苔の船と醤油の海に浸る。

Photo: Tomomi Nakamura

「富津埋立記念館」に足を運んだら、目に留めておいてほしい作品がある。内房総の海を巡り、土地が過ごしてきた時間と風景を考察し、生まれた「カタボリズムの海」だ。作者の柳建太郎は、海苔で作った船と醤油を用いた海で、さまざまな漁具と漁法を表現している。

かつて漁場であった海は埋め立てをきっかけにその姿を変化させてきたが、同会場では何の変哲もない和室が、大量の醤油を用いたアートによって、大豆の香りが漂う異空間へとアップデートされている。

8. 壮大な畑とアートのコントラストを楽しむ。

Photo: Tomomi Nakamura

「農業」「食」「アート」、そして「自然」の循環が体験できる、木更津市のサステナブルファーム&パーク「クルックフィールズ」。その畑を背景にそびえ立つのが、草間彌生の「新たなる空間への道標」だ。

赤い炎の色から、全世界と宇宙の中で私たちの未来を暗示する同作品は、無限大の未来を与え続けている今を表現している。生命の輝きを生き生きと表したドット柄の彫刻は、緑とのコントラストが何とも美しい。

Photo: Tomomi Nakamura

同様にこの自然の中で目を引くのが、ファブリス・イベール(Fabrice Hyber)が制作した彫刻、「べシーヌの人」である。体に空いたありとあらゆる穴から水をまく同作品は、自然や命の番人となるべく、そこに立ち続ける。

9. ここでしか出合えないパフォーマンスを満喫する。

画像提供:百年後芸術祭 内房総アートフェス

芸術祭のもう一つの見どころは音楽だ。ドローンを使ったパフォーマンスに加え、小林が総合プロデューサーを務める「Butterfly Studio」では、コンテンポラリーダンスや映像などを融合し、「通底縁劇・通底音劇」を展開していく。

これは、「シュルレアリスム宣言」で知られる詩人のアンドレ・ブルトン(André Breton)の「通底器」に由来するそうだ。参加メンバーは、櫻井和寿やスガシカオなどのミュージシャンのほか、パフォーマンス集団の東京QQQなど、多岐に渡る。

Photo: Tomomi Nakamura

「どこまでたどれば解決できるのか分からないような歴史的な要因による戦争、自然災害による物理的な分断もそうですが、今の社会にはさまざまな分断が起き続けています。しかし我々は、本来は根底でつながっており、分かりあえるのではないかと感じているんです。

この時期に通底を掲げたライブを行うことは、つながるはずのないものがつながるというイメージを提示する上でも大切なことなのかなと」と語る小林。これを具現化したのが「LIVE ART」の公演だ。

Photo: Tomomi Nakamura

従来のエンターテインメントの流儀を超えることで生まれる化学反応、それとともに湧き上がる大きな感動を、ぜひ実際に会場で体感してみてほしい。約2カ月間かけて展開する「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」。無料周遊バスのほか、ガイドとランチ付きのオフィシャルツアーも用意されている。この機会に、作品を鑑賞しながら百年後の未来を想像してみては。

Genya Aoki / Tomomi Nakamura

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