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これも常同行動?3歳目前発語なし、自閉症息子が「ううう」と唸る理由

LITALICO発達ナビ

これも常同行動?3歳目前発語なし、自閉症息子が「ううう」と唸る理由

監修:森 しほ

ゆうメンタル・スキンクリニック理事

「ううう」の始まりは2歳前

2歳になるより前からだったと思いますが、スバルは時折こわい顔をして、手や肩に力を入れて「ううう」と声を漏らしながら歩き回ることがありました。

その頃のスバルはまだ「バイ(バイバイ)」「ばあ(いないいないばあ)」「あー(Car)」の3語と宇宙語だけでコミュニケーションを取っていたので理由を聞くこともできず、その異様な様子を見守ることしかできませんでした。

1回の時間は5秒から20秒くらいで長くはないのですが、多い時期には1日に何度も何度も行われるので不安になりました。
そもそもこの行動が何なのか分からない、インターネットで検索するにしてもキーワードが分からない、病気に関わるのであっても何科に相談すれば良いのか分からない……、何も分からない。

かかりつけの小児科で相談したことがあるのですが「大きくなったら落ち着くでしょう」と言われました。
スバルは1歳半健診時に言葉の遅れを指摘され、3歳で言葉が溢れるまで何度か発達検査を受けていたので、その時にも相談したのですが「爪を噛むようなものでしょう」とサラッと言われました。
私が大げさに気にしすぎなのかなと思いつつも、どうしても気になってしまうのでした。

「ううう」が出るタイミングは暇な時や不安な時だったので、怖い、嫌だなど負の感情の表現のように感じました。
それだと「爪を噛むようなものでしょう」という説明もしっくりくるのですが、「もうすぐおやつだよ」「今度バスに乗ろうね」「またばあばの家に遊びに行こうね」などのスバルの喜びそうな話をした時に出ることもありました。
私はますます理解できなくなるのでした。

これって「常同行動?」

3歳で言葉が溢れ、単語でコミュニケーションが取れるようになった同じ時期に、スバルは自閉スペクトラム症と診断されました。

自閉スペクトラム症を勉強するために本をたくさん読んだり療育に通ったりするうちに私は「常同行動」と言う言葉を知りました。
常同行動の具体例として、手をヒラヒラさせる、飛び跳ねる、爪を噛む、体を揺らすなどがありました。ピタリと当てはまるものはありませんでしたが、これらの仲間だろうと私は納得しました。

常同行動を行う理由として「何かの要求を訴えている」「精神的な安定を求めている」「刺激を求めている」などがあげられており、スバルの「ううう」が出るタイミングとほとんどマッチしていると思いました。

しかし「今度バスに乗ろうね」のようなスバルに最大級の喜びを与えたつもりの言葉が「ううう」のトリガーになる事もあったので、そこが引っかかっていました。

先の見通しができないと不安になる……自閉症スペクトラム症の息子

その後、幼稚園生活が始まり集団生活を送る中で、言葉もかなり増えました。スバルがつたないながらも自分の気持ちを説明できるようになった事で「先の見通しができないと不安になる」ことが分かりました。

例えば、幼稚園生活の中で「10時になったら絵本を読むので座って待ちましょう」など具体的な時間を言われると落ち着いて待つことができるのですが、「絵本の時間までもうちょっと座って待ちましょう」などの曖昧な表現だと不安になって「ううう」が出てしまうことがありました。

「ううう」の原因……答え合わせ

そこでようやく気づいたのです。
私がスバルを喜ばせるつもりで言った「今度バスに乗ろうね」に対して、スバルは「今度っていつ⁉」という気持ちだったのだと。

「もうすぐおやつだよ」「ううう(3時なら3時と言って)」
「またばあばの家に遊びに行こうね」「ううう(日にちで言ってもらえます?)」くらいの気持ちだったのだと思います。

スバルにとって「先の見通しができない」ことの気持ち悪さは相当のものだったようで、早々に時計の読み方とカレンダーの読み方をマスターし自分でスケジュール管理をするようになりました。

幼稚園の先生の「ちょっと待っててね」に対して「いつ頃になりますかね」と聞いて自分で安心できる状況をつくるようになりました。集団生活の中では予期せぬことがたくさん起こり、最初に聞いたスケジュールの通りにいかないことも、そもそも時間が決められないこともありました。それでも時々「ううう」を挟みつつ気持ちを落ち着かせているようでした。

暇な時や「先の見通しができない」以外の負の感情でも「ううう」が出るので、参観日でスバルの苦手な工作の時間を参観した時には「ううう」の多さに、私は冷や汗が出ました。
ただ、家にいる時と違って、スバルは席についたままこっそり「ううう」を出していたことに成長を感じました。

小学生になった現在の「ううう」

小学生になった現在、「ううう」はかなり落ち着きましたがなくなった訳ではありません。外で「ううう」が出ることはほとんどありませんが、家ではちらほら顔を出します。宿題の量が多い時、TVで登場人物がピンチになった時、晩ごはんが苦手なメニューだと気づいた時……。

2歳の時に言われた「爪を噛むようなものでしょう」と言う解釈は、今となっては「確かにそのようなものだった」と思います。
ただ爪を噛むよりかなり派手な動きなので、今でも久しぶりにみるとぎょっとしますが、私も慣れたもので「おっ! 今日も派手にやってるね!」くらいの気持ちで見守ることができるようになりました。
私も「ううう」とは10年弱の付き合いになりますので。

執筆/星あかり

(監修:森先生より)
常同行動は、ストレスを緩和するためにしていることが多く、自分や他人を傷付けることでなければ基本的には無理にやめさせず見守りをして、不安の原因を考えてみるようにしましょう。
今回のように、保護者の方がしっかりお子さんを観察して原因を考えてくれると、支援もしやすくなりお子さんの不安は軽減されますね。
お子さん本人は不安の原因をまだうまく説明できないので、観察を続けてもなかなか原因が分からないということもあり得ます。
成長してから、「あの時はこんな気持ちだった」と本人から話してくれてようやく意味が分かることもありますね。

一般には、発達障害の傾向がある方は「もうすぐ」といった曖昧な表現だとイメージがつかめなかったり、手順にこだわりがあったり、頭の中で考え過ぎてしまったりして、「先の見通しがたたないこと」そのものに不安感をおぼえることが少なくありません。
スバルくんが「楽しい予定」を伝えられても、不安になってしまっていたのはこのためかもしれませんね。
お子さん一人ひとり、不安ポイントは異なります。あまり思い詰めずに、おおらかな気持ちで見守っていくことが大切ですね。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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