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浜作の料理 マッキー牧元【第4回】

料理王国

浜作の料理 マッキー牧元【第4回】

日本で最初の板前割烹、「浜作」。昭和2年に森川 栄さんが祇園で創業し、今は3代目の森川裕之さんが暖簾を守ります。この連載は、そんな浜作に「タベアルキスト」マッキー牧元さんが食事に訪れ、思索を巡らせた記録。至ってシンプル、それでいて心も技も尽くされ、かつ日本料理の芯を外さない浜作の料理の真髄を、月に一度伝えます。今回は6月の献立です。

焼き魚は、「スズキの塩焼き」だった。

骨付きで焼いてある、みるからに大きなスズキである。骨付きで焼くのは、離水させずにも逃さないためだろうか。「スズキは初夏が一番です。でも切り身を焼いたらいけません。筒切りがおいしい。骨の両側に身がついていることが大事です」。
そう、森川さんは言われた。

口に運べば、しっとりと身が剥がれ、舌の上に乗ってくる。しなやかな肉体に、命の鼓動がある。そして噛む。噛む。すると20回目くらいから、味が膨らんでいく。

大海を悠然と泳ぎ、多くの餌を喰らい、生き抜いてきた養分が口を満たす。この魚の凛々しい滋味が、最大に引き出された料理だろう。

さらには、皮がうまい。皮下の脂に甘いうまみがあって、それを蓼酢の酸味と辛味に合わせながら食べていくと、夏への感謝が競りあがってくる。

喉に落ちても、たくましいうまみが余韻として残り、いつまでも持続する。
こうしてスズキは、厳しい夏を超える力をくれた。

6月の浜作

伊勢の鮑酒蒸し
山科茄子 土佐醤油 生姜
振りゆず
時代絵唐津 輪花向付

大根で挟んで40分ほど蒸したアワビと茄子である。縦に切られた鮑を噛むと、歯がムチッと抱かれていく。海の滋養がゆっくりと滲み出る。

焼いた山科の茄子は、甘酢生姜、海苔と合わされていた。とろんと甘い。

茄子の、繊維などなきかのような柔らかな食感とアワビの食感との違いが、互いの良さを引き立てている。

牡丹鱧 葛叩き
輪違しらうり 鱗柚子
鈴木表朔造
刷毛目高台寺蒔絵煮物椀

「今日は大阪風の旨味ではなく、京風です」。
そう森川さんは言われた。薄味だが、奥行きがあるつゆにため息ひとつ。鱧の脂はまだほんのりで、繊細なうまみを感じる。そんな繊細さと、京風の淡いつゆが出会い、まろやかに抱き合い、か細き、雅な美が生じている。

大きすぎず、450gほどの鱧だからこそ、その美があるのだろう。葛の打ち方が素晴らしく、全面を覆っているものの、薄く薄くまとっていて、唇を「ぬるん」と優しく通り過ぎ、舌に座るのであった。噛むと、その「ぬるん」とした結界が破れ、うまみが一気に溢れ出す。

葛打ちの秘訣を聞けば、「夏は湿気があるのでダマができるとだめです。だから、漉して漉して、徹底的に漉します。でも打つときには、ハケでやったらあかん。ベタヅケにせねばあかんのです」。

お椀のおつゆは、次第に鱧の滋味と脂が溶け出し、最後に高みを迎えた。

お造り
縞鯵 車海老洗い
古伊万里鴻絵染付輪花向付

シマアジの腹身と背側が、適切な厚さに切られて皿に盛られた。銀皮は輝き、波しぶきをあげる。身は、薄桃色に染めて、色気を灯す。

背側に極少量の醤油を漬け、口に運んだ。「しこっ」。魚は、歯が入ることを拒むように、弾む。脂がゆっくりと滲み出すが、微塵のいやらしさもない。舌をさらりと流れて、品を漂わせながら、喉に落ちていく。やがて艶やかな余韻だけを残して、消えていった。

次に薄く切られた腹身をいただく。「クイッ」。腹身だというのに、噛みしだく凛々しさがある。脂の粒が小さく、ダレが微塵もない。魚は砕けていき、キレのいい脂の甘みが舌を抱きしめた。やがて口からなくなるが、脂の余韻は密やかに、うま味へと変わっていった。

もう一つのお造りは、「車海老の洗い」である。サッとゆがき、尻尾のみもう一回ゆがいて色出しをされた。殻をむいて開き、背腸をとると、流し水に数分さらし、氷水に落とす。「25回混ぜたら逆回しで25回混ぜなさい」。そう森川さんが指示を出した。

口に入れると、車海老の純粋が、ひんやりと舌を冷やす。無垢な、汚れのない甘みに、どきりと、胸が高まる。そこには車海老がわずかに持つ、曖昧がない。

ここまで、「洗い」という仕事への徹底さは見たことがないが、その徹底さこそが、車海老の純真を導き出しているのだろう。洗いとは、生物の「清らかさ」を抽き出す料理なのか。

洛北美山川産天然鮎南蛮漬け
古伊万里通し向付

じっくり焼いて、20分地に漬けた鮎だという。焦げぬよう、良く良く焼き上げた、皮目の茶が凛々しく、食欲を煽る。上には、酢洗いした細ネギが置かれている。

焼きあげた鮎もおいしい。だが焼いた鮎を地に漬けて、落ち着かせると、さらに鮎の素性が見えてくる気がした。焼いた勢いより、寝て生まれた安寧の味という感じだろうか。地の味がしみじみと心に染み、そこへ鮎の繊細な甘みが溶けていく。

脂がない方が鮎は美味しい。最近、ようやくわかってきた。

鱧素麺
胡麻豆腐 美味出汁
つくね芋トロロ
柚子
時代義山切子金縁蓋向付

京都の老舗蒲鉾屋「いづ萬」の鱧そうめんだという。一切つなぎを入れていないので、自然の甘みがある。奥歯で噛み締めると、底に穏やかな甘みがあって、ゆるりと顔を出す。合わせたものは、とろろと胡麻豆腐である。

賀茂茄子田楽紅白 蒸し南瓜
六角小芋 三度豆
初代三浦竹泉造鳳凰龍紋色絵平皿

純種の賀茂茄子だという。だからだろうか、皮が薄い。身はどこまでも滑らかで、茄子が味噌の味に溶けていくような感覚があった。味噌は、山利の白味噌と赤味噌を合わせたもので、揚げて炊き、2種の味噌を塗ってから、上火の炭火だけで香ばしく焼き上げる。

味噌の強さになすが負けるのではと、一瞬思うが、こうして食べると、茄子自体の淡い甘みが、尊さが、逆に引き立つのであった。

鱸 筒塩焼き
蓼酢
伊万里デルフト南蛮紋平皿

本文参照

伝助穴子揚げおろし
ウマだし 万願寺唐辛子
高橋道八造
刷毛目鼠志野脚付平向付

「揚げおろし」は板前割烹ならではの料理である。揚げたての魚介に、熱い地をかけて、すぐ運ぶ。目の前で調理されるからこそ、味わうことのできる料理である。

穴子は、骨切りをした伝助穴子だという。「滑りをとって、すぐ骨切りしてあげなければいけません」。

熱々を口にすると、穴子は、品のある甘みを口に落として、思わず顔が綻んだ。

じゅんさい

デンマーク女王から贈られたという、純度100%のガラスの器に入れられていた。じゅんさいは、唯一のじゅんさい専門店「松島屋」のものだという。ひんやりとした清涼が、唇を、舌を、喉を通り過ぎ、気分を澄ませる。今までの料理の余韻を浄め、次のご飯へと気持ちを高める。

釜飯

珍しい、濃口醤油で味付けられた濃い口の釜飯である。夜の営業で出されたのは、2回目だという。こっくりとした旨味が、味覚を癒す。母に抱きしめられたような暖かさを感じる料理である。

薄く薄く切られた椎茸が、濃い味わいの中で果たす役割が心憎い。また味噌汁には、1.5センチの同寸に切られた軸三つ葉が入れられており、味噌汁の味わいを少しだけ軽やかにする仕事がされている。

水菓子

photo, text マッキー牧元

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