公共交通維持へ自動運転バス 釜石で実証実験スタート 生活の足に…可能性探る
釜石市の平田地区で5日、自動運転バスの実証実験が始まった。オペレーターが同乗し、一部操作の指示を出す「レベル2」の方式で、22日まで運行。市内でも運転手の高齢化や人手不足で公共交通の維持が課題となっており、市では新たな交通手段としての可能性や安全性、課題を確認する。
自動運転バスは、同市平田町のスーパー「ベルジョイスみずかみ平田店」を中心に循環する2つのルートで運行。上平田ニュータウン方面は1周約4キロ、復興住宅・県営平田アパートへ向かう経路は約2.6キロで、1日各5便を走らせる。県交通など既存のバス停近くで乗降でき、運賃は無料。乗車は事前予約制で、LINE(ライン)か電話(市生活環境課)で申し込む。
車両は、エストニア製の電気バス「Mica(ミカ)」(8人乗り)。センサーとカメラが搭載され、車両の周りを検知し位置を把握しながら進む。事前に設定されたルートをハンドル操作なく、時速20キロ程度で走行。運行は自動運転事業を手がけるボードリー(東京)に委託し、オペレーターが同乗するため乗車できるのは7人となる。
自動運転は自動化の度合いで5段階に区分され、今回の実証実験はレベル2。横断歩道や交差点では一時停止し、障害物を感知すると自動で停車したりするが、オペレーターが周囲を確認して停車や発進などの指示を出す。市は、特定の条件下で運転手不在でも走行が可能な「レベル4」への移行を見据えており、技術の立証や課題の検証も目的とする。
同店駐車場で出発式があり、市関係者や住民ら約40人が参加した。小野共市長が「人口減や少子高齢化を踏まえ、従来の施策に新たな手法を加える必要がある。次世代の交通を体感し、生活の足としての可能性を考えるきっかけになれば」とあいさつ。関係者によるテープカットを行った後、住民5人を乗せた第1便が発進した。
乗車した藤澤静子さん(82)は「少し不安だったが、スムーズに走っていて安心した。2年ほど前に運転免許を返納したので、早く実用化してもらいたい」と期待。佐藤清さん(80)は、ゆっくり走行するバスを車が追い越す際に自動でブレーキがかかって“おっ”と身構えたというが、危険性はほとんど感じなかったという。やはり自動化の実現を望み、「車を手放すことを考える歳になってきたからね。いろんな交通手段があった方がいい」とうなずいた。
同地区は、中心地にスーパーや郵便局、歯科医院、三陸鉄道平田駅など社会基盤があり、住宅地から一定の距離もあってルート設定が可能なことから実験場所に選んだ。自動運転は期待感より、「きちんと走るか」「安心して乗れるのか」といった不安感が上回ると思われるが、通学や通院などで普段からバスを利用する学生や高齢者らがいて受け入れられやすい地域性、需要が見込まれることも選定の理由だという。事業費は約3500万円。全額、国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転社会実装推進事業)」を充てる。
市生活環境課の二本松史敏課長は「初めての自動運転バスの運行で不安もあると思うが、走っている姿を見て、実際に乗ってみて、安全で安心な乗り物と体感してほしい」と呼びかける。利用者へのアンケートも行い、課題を洗い出して導入の可能性を探る考えで、「将来的に安心して暮らしていけるよう公共交通の維持に努めていく」と強調した。