数字を使ったマジックも、難関中の入試問題も、解くカギは「数字の性質」にあり【3か月でマスターする 数学】
『3か月でマスターする 数学』は、多くの人に数学の楽しさ、学びがいを実感してもらうことを目標に構成したテキスト。「新幹線の座席が2人席と3人席である利点は?」「ホールケーキを3等分する方法は?」などのユニークな話題から、日常生活に生きる「数学的思考法」までていねいに解説しています。
ここで紹介するのは、「倍数・約数」について。「数」は、単なる数字の羅列ではありません。それぞれの数が持っている性質を上手に利用することで、数字を使ったマジックも、難関中学校の入試で出題される面倒な計算も、あっという間にできるようになります。
※本記事は、デジタルマガジン用編集しています。
不思議な数字マジック
下記は電卓を使ったシンプルな数字マジックですが、この中には整数問題を解くためのノウハウが詰まっています。
1)任意の3桁の数字を電卓に打ち込む
→例:587
2)同じ数字を電卓にもう一度打ち込んで6 桁の数字にする
→587587
3)その6桁の数字をまず「7」で割る
→ 587587÷7=83941
4)次に「11」で割る
→ 83941÷11=7631
5)最後に「13」で割る
→ 7631÷13=587
最初の3桁の数字と同じ数字になる!
解説
◆数字を「代数的」に表してみる
このマジックがいったい何を行っているのか、順を追って解説します。
まず、最初のポイントは「任意の3桁の数字」をどう表現するのかということ。
例えば、各桁の数字をA、B、Cとして「ABC」と表すこともできます。これをマジックの手順に合わせると、次のようになります。
1)ABC
2)ABCABC
3)ABCABC÷7
4)ABCABC÷7÷11
5)ABCABC÷7÷11÷13
この「任意の3桁の数字」を倍数を使って表してみます。100の位をa、10の位をb、1の位をcとすると、「任意の3桁の数字」は、100a+10b+cと表すことができます。マジックの順番に合わせると、
1)100a+10b+c
6桁の数字は、10万の位、1万の位、1000の位、100の位、10の位、1の位の数字を足したものなので、
2)100000a+10000b+1000c+100a+10b+c
これをa、b、cでくくると100100a+10010b+1001cとなり、1001 という数字に注目して、これでさらにくくります。
1001(100a+10b+c)となり、6桁の数字は元の数字の1001倍になっていることがわかります。
これを7、11、13で順に割っていくということは、
3)4)5) 1001(100a+10b+c)÷7÷11÷13=100a+10b+c
1001÷7÷11÷13=1なので、結局元の数字に戻ったということです。
このように数字を文字に置きかえる、つまり代数的に表すことで、数字の性質がよく見えてきます。
◆各桁の数字をすべて足すと?
これらの方法を使うことで、例えば「各桁をすべて足した数字が9の倍数なら、その数は9の倍数」ということも簡単に表すことができます。
3桁の数字(自然数)を100a+10b+cと表してみます。
100a+10b+c=99a+9b+a+b+c= 9(11a+b)+(a+b+c)
9(11a+b)は9の倍数なので、a+b+cが9の倍数であれば元の数は9の倍数になります。このことは桁が4、5、6……と増えていっても成り立ちます。
これらをふまえて、難関中学校の入試問題にチャレンジしてみましょう。
難関中学校の入試問題にチャレンジ
問題
3桁の整数ABCを3/4倍すると3桁の整数BCAになり、さらにBCAを3/4倍すると3桁の整数CABになります。
このような3桁の整数ABCは全部で2つであり、XとYです。
X、Yを求めなさい。
解説
◆代数的な方法で解いてみる
難関中学校の入試で出題された問題です。まずは、代数的な方法で解いてみることにしましょう。
3桁の整数ABCは100a+10b+cと表せます。同様に、BCAは100b+10c+a、CABは100c+10a+bとなります。ABC、BCA、CABのいずれも3桁の整数なので、a、b、cは自然数で、0ではないこともわかります。
式にして解いてみます。
方程式を解くと、最終的にa:b=4:3となりました。
a、b はいずれも1~ 9の自然数ですから、このような条件を満たすa、bの組は、(43)もしくは(86)です。また、c=8a-10bだということもわかっていますから、cは2もしくは4、
つまり、答えは432と864となります。
◆比と公倍数に注目して解いてみる
代数的な方法で解きましたが、実はこの問題、比と公倍数に注目すると、もっと簡単に解くことができます。
この2つの比の関係を1つにまとめます。2つの式で共通しているのはBCAですから、これを4と3の最小公倍数12にそろえることで、1つにまとめられます。
ここからどんなことがわかるでしょうか?
ABCは16の倍数、BCAは12の倍数、CABは9の倍数ということがわかります。
さて、ここで前半で解説した「各桁の数字をすべて足すと9の倍数になるなら、その数は9の倍数」だということを思い出してください。
CABが9の倍数ということは、A+B+Cは9の倍数。ということは、ABCやBCAも9の倍数だということです。
ABCは16の倍数であり、同時に9の倍数でもあるわけですから、16と9の最小公倍数「144」の倍数になっているはずです。
つまり、ABCの候補は、
の6つに絞られます。
先に挙げた比の関係からABC>BCA>CABです。ということは、一番上の桁がA>B>Cになっている必要があります。
この条件を満たすABCは、432と864です。
講師:ヨビノリたくみ
教育系YouTuber。東京大学大学院修士課程修了。6年間、塾や予備校で講師を勤めたあと、YouTube チャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』を開設(2024年5月現在、登録者数112万人)。2023年、文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)受賞。著書に『予備校のノリで学ぶ大学数学~ツマるポイントを徹底解説』(東京図書)など。
講師:秋山仁(あきやま・じん)
数学者・理学博士。東京生まれ。東京理科大学栄誉教授。離散数学に関する数多くの学術論文を発表。また、長年、NHKラジオ・テレビの講師を務め、世界各地で講演活動を行うなど、幅広い数学啓発に力を注いでいる。著書に『離散幾何学フロンティア―タイル・メーカー定理と分解回転合同』(近代科学社)ほか多数。
講師:横山明日希(よこやま。あすき)
数学のお兄さん。株式会社math channel代表。早稲田大学大学院数学応用数理専攻修了。老若男女問わず幅広く数学・算数の楽しさを伝える「数学のお兄さん」として活動。2017年、科学技術振興機構主催のサイエンスアゴラ賞を受賞。著書に『文系もハマる数学』(青春出版)、『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』(くもん出版)など。
◆『NHKシリーズ 3か月でマスターする 数学』
◆文 ヨビノリたくみ、秋山仁、横山明日希
◆イラスト 金安 亮
◆写真 岡田ナツ子