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【アートひかり「二人で狂う... 好きなだけ」】 ボクシングを想起する激しい言葉の応酬。接近戦、アウトボクシング…。試合を見ているようだ

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は島田市の伊久美地区を拠点にする劇団「アートひかり」の「二人で狂う... 好きなだけ」を題材に。藤枝市の「ひつじノ劇場」で行われた5月11日午前11時の公演を鑑賞。原作はウージェーヌ・イヨネスコさん、訳は安堂信也さん。演出は仲田恭子さん(藤枝市出身)。

長野県大町市で4月に開かれた「第9回 麻倉 春の演劇まつり」の上演演目を、アートひかりの本拠に近い藤枝市に持ってきた。「ひつじノ劇場」は基本的には劇団「ユニークポイント」の専用劇場なので、他団体が公演に用いるのは珍しい(個人的にはこの先もあっていいとは思っているが)。

出演はアートひかりの杉山雅紀さん、ユニークポイントの山田愛さんに加え、2024年の「藤枝ノ演劇祭」のアートひかりの上演演目「ねずみ狩り」に出演していた姫凛子さんがゲスト出演した。

フランスの不条理演劇を代表するイヨネスコさんの戯曲。杉山さんと山田さんはボクシングを思わせる言葉の応酬で45分を完走した。接近しての撃ち合いあり、アウトボクシングあり。一方がロープ際まで追い込まれた次の瞬間にリング中央まで押し返す、といった場面も見られた。

銃声が響く欧州のどこかの国の、どこかの集合住宅の一室が舞台。第2次世界大戦から17年、というせりふがあるが、場所がどこなのかは明らかにされない。訳ありの男女が「亀とカタツムリが同じ動物かどうか」で激しく口論している。男は「あいつら」と呼ばれる一派に追跡されているようだ。

窓の外、ドアの外では爆発音や人々が争う声がする。それなのに男女は口角泡を飛ばして議論に熱中する。「あんたといるとイライラする」「俺は不幸な恋のとりこなんだ」。それなら別れればいいのに、と思うが、彼らは口論することで心の不安を解き放っているようだ。

「美はいつでも美しい」「答えを出すためには質問を続けなくては」など禅問答のようなやりとりもあっておかしい。ところがコメディーの色が徐々に強まるたびに、外で銃声が響く。議論はぶった切られ、空間の緊張感が増す。彼らは「あいつら」の訪問を何より恐れているようだ。不毛な禅問答と、追捕されることへの恐怖。この二つの行ったり来たりが作品の骨格をなすが、物語が進むにつれてその間隔が短くなっていく。テンポの加速度が、この作品をスリリングなものにしている。

それにしてもなんと言葉数の多い作品か。「二人で狂う」というタイトルはうそではなかった。

(は)

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