『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』 豪人監督が映し出す“不平等な社会的背景”とは
外国人が感じた「違和感」とは
子どもを育てている独身女性をシングルマザーと呼ぶ。家族や友人など身近にシンママがいるという人は少なくないだろうし、自身がシンママ/シンパパ家庭で育ったという人もいるだろう。子持ちシングル世帯は現代の日本人にとって“珍しい”ものではなくなったが、その実情を把握している人は多くないはずだ。
「シングルマザー」でネット検索すると「生活保護」や「補助金」といった入力予測がずらりと並ぶことからも、その多くが困窮該当世帯であることがうかがえる。いまや共働き世帯が約7割という日本だからして、就労と養育のワンオペがいかに厳しいことであるのかも察しがつく。
児童扶養手当などの制度はあるが、それを掲げて“贅沢してるんだろう”とか“うちは普通に生活できている”といった苦言や中傷が投げつけられる状況は、正直言って異常である。私たちはいつから「蜘蛛の糸」のような奈落に落ち込んでしまったのだろうか――。
そんな状況を独自の目線で見つめた映画がある。11月9日から1週間限定でK’sシネマ新宿にて上映中の『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』は、世界各国の映画祭で17の賞を受賞し、国内外の様々な映画祭で23回の公式選出を果たしたドキュメンタリー。監督を務めたのはオーストラリア出身の元プロレスラー、ライオーン・マカヴォイだ。
シンママの苦悩、不平等な社会的背景
先進国でありながら、日本の子どもの7人に1人、つまり日本の子ども全体の13.5%が貧困状態にある。しかしながら、「あなたの身の回りに貧困に苦しむシングルマザーがいますか?」この問いかけに、ほとんどの国民が「知りません。実際にはそれほど困っている人は少ないと思います。」と回答する。これこそが、隠された貧困なのである。
戦後、短期間で経済の急成長を遂げ豊かになった日本だからこそ起きてしまった「隠された貧困」。これをテーマに今まで描かれたことのなかったシングルマザーの苦悩を色々な角度から取材し、不平等な社会的背景の原因を紐解いてゆく。
「かわいそう」と同情してもらうために作られた作品ではなく、真実を正確に知ってもらうことを目的としている。今後どのように変わることができるのか、あなたの心に訴えかけ、世界に現状を伝えることで国家のあり方や社会的な支援のあり方、教育そのものを見つめ直す切っ掛けになることを願っている――。
漠然としたこの国での生きづらさ、女性への不平等
世界第3位の経済大国日本の中で起きている現実を、日本の社会、文化、歴史を様々な角度から深く掘り下げ、日本の隠された現実を外国人が感じる素直な「違和感」として映画化した本作。今の社会において非常に重要なテーマであるシングルマザーの苦悩に光を当てており、当事者たちからのインタビューを通して社会的背景や国民性、多くの要因から謎を解き進め、自発的な気付きや活動の源になりうる、非常に社会貢献性の高い作品でもある。
また、この作品に携わったプロデューサー・及川あゆ里も、2世代でシングルマザーを経験した日本人女性だ。彼女が長年感じ続けてきた「漠然としたこの国での生きづらさ・女性への不平等さ」の原因を監督ら制作スタッフと共にひも解くことで、女性たちの声を代弁する作品となった。及川氏は、当事者の日本人には描けなかった「母として生きる辛さ」からの解放、と述べている。
第2弾『取り残された人々:死にたい子どもたち』制作中
さらに、マカヴォイ監督とプロデューサー・及川あゆ里は、ドキュメンタリー第2弾『取り残された人々:死にたい子どもたち』「The Ones Left Behind: When Tomorrow Never Comes」という新しいドキュメンタリー制作企画を立ち上げた。この作品は、日本における若者の自殺問題に焦点を当てたもので、これほど豊かな日本で若者の自殺率がここまで高い原因は一体何なのか? という疑問と、今年、横浜で起きた悲劇的な事件をきっかけに企画が開始。映画は、若者が直面するプレッシャーや社会環境の改善や理解、メンタルヘルス支援や介入プログラムの改善の必要性について認識を高めることを目指しているという。
『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』は2024年11月9日から11月15日の1週間限定で東京・K’sシネマ新宿にて公開中