35.7 「みんなが生きる意味です。あんな怖がりでも頑張ってるなって思ってほしくてね……」、充実の表情で走りきったツアーファイナル東京公演レポート
ラブレター宅配日 2024-2025
2025.2.28 LIQUIDROOM
特徴的なバンド名は、初めて4人でスタジオに入った時、検温したら全員の体温が35.7℃だったことから。コロナ禍に結成された現役大学生4人組バンド・35.7が、全国ツアー『ラブレター宅配日 2024-2025』を完走。2月28日、ツアーファイナルとして、東京・LIQUIDROOMでワンマンライブを開催した。
チケットはソールドアウト。開演前から期待に胸を膨らませる観客のそわそわした雰囲気が伝わってきたが、いざ開演かと思えば突如SEが止み、束の間の静寂が生まれた。しばらくするとステージを覆う紗幕の向こう側で明かりがつき、たかはし(Vo/Gt)、かみのはら(Gt)、こな(Dr)、さくや(Ba)のシルエットが明らかに。ドラムのキックに合わせて、観客が手拍子を始める。そのままバンドのセッションに入り、観客の高揚感とも共鳴しながら、4人の鳴らすサウンドはぐんぐん熱量を増していく。その熱量がピークに達した時、たかはしの叫びとともに紗幕が落ち、1曲目の「祝日天国」が始まった。なんて素敵なオープニングだろう。キャッチーなギターリフが鮮やかな景色を描く。
35.7の楽曲はダイナミクスの振れ幅が広い。たかはしが曲にしているのは“自分のこと”。バンドのアンサンブルは人の情緒と同じように上下し、急に強弱が変わる瞬間も少なくない。そういった楽曲は、生で演奏されると想像以上の迫力だ。ドラマティックなバンドサウンドに触発されて、フロアには拳を上げている人がたくさんいる。中には歌詞を口ずさんでいる人も。その様子を見ていると、ここにいる一人ひとりが、今日を迎えるまでにどのように35.7の音楽と向き合ってきたのかが分かる。顔を上げて目の前の景色を視界に収めるメンバーは、1曲目から爽やかな表情。たかはしが「聞かせて!」と投げかけると、楽曲の終盤ではシンガロングが広がった。
シンバル4カウントとともに、すぐに「うそうそほんと」へ。小さな体で目一杯ギターを掻き鳴らすたかはしが曲の頭でマイクから離れると、再び観客が合唱し、歌詞を繋いだ。真っ赤な照明も鮮烈な「Hurtful」はリズム隊の爆発力が凄まじく、最初はやや緊張気味に見えた観客も、この頃には本能で反応している。観客の想いを受け取って、バンドのサウンドはさらにダイナミックに。たかはしのボーカルの語気も自然と強まり、hiF#のハイトーンも思いっきり発声された。その歌声はまるで光の矢。音楽という肉体のない魂となり、夜を駆け巡り、孤独に膝を抱える人を一刻も速く見つけ出したい。生きづらさを抱えているのは私も一緒、だから大丈夫だよと伝えたい。そんな想いに貫かれたボーカルだ。
開始早々3曲を連続で演奏したオープニングからは、バンドの熱意が伝わってきた、MCでは、たかはしが、配信のカメラも入っているものの、目の前にいる人たちは特別で、その人たちのために歌っていると強調。その後はツアーの思い出を振り返るトークに入るが、冒頭3曲のストイックさからは一転、メンバーは友達に戻って会話をしている。4人はまだ大学生だと思い出した瞬間だった。
演奏再開は「骨溶けた」からで、スウィングするリズムも相まって温かいムード。ロックバンドとしての姿をダイレクトに打ち出した先の3曲とはまた違ったタイプの楽曲だ。続く「あした天気になあれ」はカントリー系の曲で、リズム隊の安定感と適切なニュアンスづけが肝に。タイトルコールの時点で歓声が上がっていた「50%」は、観客の「ワン、ツー!」というカウントとともに始まった。これには、たかはしも「超いい!」と笑顔。ギター&ベースのアンサンブルにうっとりしていると、ミラーボールの光が星になり、ライブハウスが宇宙になる。そして4人が全身全霊で楽器を掻き鳴らすセクションへ。とてもドラマティックな楽曲だ。
8曲目に披露されたのは、ツアー中の昨年末にリリースされた新曲「忠犬ボク公」。“君”からの連絡を待ち続ける自分を飼い主をけなげに待ち続けた忠犬になぞらえて歌った曲で、素朴で温かいメロディがかえって切なく感じられた。楽曲のラストでは、かみのはらの奏でるギターがデクレッシェンドしていき、それを引き継ぐ形でたかはしが次の曲「すももドロップ」を歌い始める。見事なライブアレンジ、これぞ長尺のワンマンの醍醐味。そして「スローファイヤー」はシューゲイザーばりの轟音だ。情熱的なプレイでステージ最後方からバンドの士気を高めるこなが特にすごい。楽曲の終盤では、かみのはらがその場に座りながらギターを掻き鳴らす一幕も。曲が終わると同時に観客が「フゥー!」とテンションの高い歓声を飛ばし、メンバーのプレイを讃えた。
曲が終わると、「照明すごくなかった? お客さんも最高。『スローファイヤー』でこんな手上がってるの初めて見た」と率直な感想を述べるたかはし。思わずそう言いたくなった気持ちも分かるが、ここがピークだと決めるのは早合点。次の曲「ちぐはぐ」も凄まじかった。特に印象的だったのは、音源よりも大幅に延長して演奏したアウトロ。ギターフレーズとともに転調を重ねながら進行する構成で、ステージがスモークに包まれるなか、弾きまくり叩きまくるメンバーの姿が最高にカッコよかった。この曲については、メンバーがのちにMCで「ああいうのができるからワンマンは最高だなって思う。来年はもうちょっと背伸びしちゃう!」と手応えを語っていた。完全に同意。こういう姿をもっと見せてほしい。
ここで、たかはしがツアータイトルについて説明。『ラブレター宅配日』というタイトルは、2022年にShibuya Milkywayで開催した初の自主企画ライブと同名。聖書は神からのラブレターと言われることから、2022年当時は「自分たちの信じているものを届けたい」という意味をこめてこのタイトルをつけたのだと、そして今回は「35.7を信じてほしい」という気持ちでツアーをまわったのだと明かした。その上でたかはしは、「(ライブを観たファンから)“心が動きました”、“泣いちゃいました”とDMをもらったり言われたりすることがあるけど、たぶんそれって、その人が普段日常で、“ちょっと無理”とか“つらい、やだな”って思うことも頑張ってるからだし、諦めてないからそうやって感動できるんだよって、すごく思うのね」と観客一人ひとりの背景に想いを馳せ、「すごく音楽を信じている人なんだな、とも思う。ライブハウスに来ますって人、あんまりいないよ。知ってた? 素晴らしいと思う」と音楽好きの人たちを讃える。さらに、「そういう人たちが聴いていると思うと、私は歌詞に嘘をつくことはしたくないと思うの、絶対に」と心境を語った。
「信じるのって傷つくから難しいけど、35.7は信じて大丈夫だよって伝えたいです。今日まで生き抜いてきてくれてありがとうございます。明日からみんなが幸せでいられますように」
そんな真摯な言葉とともに「しあわせ」は届けられた。続けて「最果て」が演奏されると、早いもので残り1曲。本編ラストのMCでは、以前はワンマンをやるのが怖かったというたかはしが、「今回のリキッドも怖かったんだけどさ、こうやってみんなが来てくれたから、“あ、もしかして私たちでも大きな夢が見れるんじゃないか”と思えて」と心境の変化を明かし、「みんながそう思わせてくれたんだよ。本当にありがとう」「最近、死にたいと思っても死なないのは、35.7を好きでいてくれる人を悲しませたくないって思うからなんだ。みんなが生きる意味です」と観客に感謝を伝えた。さらにたかはしのMCは「そんなみんなに恩返ししたくて、あんな怖がりでも頑張ってるなって思ってほしくてね……」と続き、「ワンマンツアーをやります。よかったら遊びに来てください!」と締め括られた。思わぬタイミングでの嬉しい報告に、フロアのみんなは大喜びだ。
ラストの「eighteen candle」では会場中の照明をつけて、観客と目と目を合わせながら鳴らした。その後、止まない拍手に呼ばれて再登場した35.7は、アンコールとして新曲と「バッドリピートエンド」を披露。充実の表情でツアーを走りきった。たかはしが「バンドやめたいと思ったこと、今まで何回もあったけど、こういう景色を見るだけで“このためだったんだ”って思っちゃうんだ」と言ったあとピースサインを掲げると、同じように観客もピース。温かい光景だ。ライブ中に発表された通り、35.7は9月から初の全国ワンマンツアーに出発する。4人の音楽を中心とした幸福の輪は、ここから全国に広がっていくだろう。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=中山涼平