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魚は相手の顔を認識することができる? 最新の研究が明かす<魚の賢さ>とは

サカナト

魚がカラフルなのは、認知能力が高い証拠?(提供:みのり)

学校では生きものの脳は単純な構造から徐々に複雑になり、最終的に人間のような賢い動物へと進化したと習った人も多いのではないでしょうか。

しかし、最新の研究では原始的な魚であっても、その認知能力は非常に高いことが示唆されています。魚の認知能力と、それらを実際に感じた筆者の体験談をご紹介します。

ヒトと魚の脳は似ている?

前世紀的な考えでは「魚などの生物は脳の構造が単純であるから本能に従った行動しかできない。対して霊長類やヒトは脳が大きく学習能力があるため、より複雑な行動をとれる」と見なされていました。

これは動物の進化に伴って徐々に脳が大きく複雑になり、最終的に最も賢いヒトが生まれたという説です。

「脳の進化」従来の説(提供:みのり)

そのため、魚のような動物は他者や自己を認識しているわけではなく、本能に基づいて行動しているだけだと長年考えられてきました。対して、ヒトには「こころ」があり、他者や自己を認識した行動がとれるとされ、「魚よりヒトの方が賢い」という固定観念が拡大していきます。

しかし、脳の構造自体は魚からヒトに至るまで、全ての脊椎動物で共通しているのです。

さらに陸上脊椎動物の先祖であるユーステノプテロンという魚の脳ですら、現生のヒトの脳構造と共通していることがわかっています。陸上脊椎動物が誕生する以前から、基本的な脳構造は変わっていないと言えるでしょう。

つまり、魚はヒトと同じような認識能力を持っていてもおかしくないのではないか、という仮説を立てることができます。

魚は顔を見て認識ができる

魚類の認知研究を行っている幸田正典さんは、上記の仮説に着目し、アフリカのタンガニーカ湖に生息するプルチャーという魚が他のプルチャーの「顔」を見て認識し、その行動を変えているという研究結果を発表しました。

タンガニーカの魚たち(提供:みのり)

考えれば当たり前ですが、魚は他の魚と関わりあって暮らしています。その複雑な関係性の中で、魚たちが本能のみで生きているとは考えにくいです。

筆者もフィールドワークやダイビングで魚を観察しますが、彼らの行動全てが本能にしか基づいていないとは到底思えません。しっかりお互いを認識して行動を取っていると感じます。

筆者なりの言い方をすれば、魚たちはみんな“表情が違う”のです。

メダカも顔を認識できる

他者認識の結果はプルチャーに限りません。なんとペットショップで売られているグッピーメダカも、他者を認識して行動していると言われているのです。

メダカ、実は認識能力が高い?(提供:みのり)

メダカに関しては「倒立効果」と呼ばれる現象まで証明されています。

これは顔を認識する際、顔が上下逆さの倒立にすると、それを顔と認識するのに遅延が起こる現象です。この倒立効果はヒトでも起こるため、容易に想像がつくと思います。

すなわち、メダカは本能的行動ではなく、視覚によって顔を認識し、相手にアプローチをしているということ。まさにメダカは「他者を認知できている」と言えるような行動をとっているのです。

魚が自己も認識した

幸田正典さんはさらに研究を発展させ、ホンソメワケベラという魚が他者はもちろん、自己認識までしているという研究結果を発表しました。

簡単に説明すると、ホンソメワケベラが鏡に映りこんだ自分を「自分である」と認識したのです。これは魚類では世界初の研究結果でした。

ホンソメワケベラ、クリーナーフィッシュとして有名(提供:みのり)

今では「魚は従来の想像よりもずっと認識能力が高い」という意見は広く認められており、様々な研究者が他の魚や動物でも実証できないか、研究に取り組んでいます。

余談ですが、タコイカも鏡を認識できると言われています。しかし、認識に至る過程が脊椎動物のそれとは異なるそうです。

この事実は、脊椎動物がユーステノプテロンのような太古の動物から“共通の認識能力”を引き継いでいるという説をより一層支持します。

現在の研究による脳進化のとらえ方(提供:みのり)

幸田正典さんの非常に面白い研究内容と、そこに至るまでの苦労や過程は『魚にも自分がわかるー動物認知研究の最先端』(著:幸田正典/ちくま新書)という本で詳しく紹介されています。興味がある方はぜひ読んでみてください。

魚は人が思っている以上に賢い

これらの研究結果を踏まえて改めて筆者が考えたのは、現代においても無意識に「魚は賢くない」という思い込みが蔓延しているのではないか、ということです。

賛否があるのは承知の上で、筆者はかつて勤めていた水族館で魚それぞれに「名前」をつけて飼育していました。また展示している魚を「種」としてではなく、「個体」として認識してほしいと思い、その個体の特徴を記載したパネル作成や解説に努めていました。

水族館等の施設において、海獣類の個体のほとんどに名前がつけられ、その動物に不幸があればみんなで悲しみます。

しかし、魚には不幸があっても、日々の作業で死んだ魚を数えてデータにつけて終わりです。検死をすることもありますが、それ以上のことはありません。大水槽のイワシが1尾落ちたくらいで、悲しんでくれる人はいません。

フィールドワークやダイビングをすればするほど、同じ種類の魚であっても、それぞれが別の個体だという認識が強くなります。この魚達は1尾1尾にちゃんと個性があり、認識能力があるのだと強く感じる場面は多いです。

それが水族館や自宅で飼育している魚であればなおさら、自然から連れてきた子たちをただ「種」として消費するのは勿体ないと私は考えます。

筆者としては、例え魚が賢かろうとそうでなかろうと等しく大事にしたいと思っていますし、魚に対する態度を変えるわけではありません。しかし、魚の高度な認識能力が解明されつつある今、魚への向き合い方は少しずつ変わっていくのではないかと思います。

(サカナトライター:みのり)

参考文献

岡山大学:メダカは「顔」で仲間を見分ける ~メダカの「顔」を見分ける仕組みは特化している?~

『魚にも自分がわかるー動物認知研究の最先端』(著:幸田正典/ちくま新書)

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