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柚希礼音がシャンソンを通して届けた希望の輝き 『REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)』 オフシャルレポートが公開

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『柚希礼音リサイタル ~REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)~』

2025年1月19日(日)Bunkamura オーチャードホールにて、『柚希礼音リサイタル ~REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)~』が開催された。この度、オフシャルレポートが公開された。

『REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)』 オフシャルレポート

芸歴25周年を迎えた柚希礼音が、かねてより関心があったというシャンソンの世界に挑(いど)む、一夜限りのリサイタル「REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)」が、1月19日東京・渋谷のBunkamura オーチャードホールで開催された。

1999年に初舞台を踏み、平成を代表するトップスターとして活躍した宝塚歌劇団を卒業して10年。ミュージカルの大作をはじめとした様々な舞台、また本格的なタンゴなど新たなダンスにも挑戦を続けてきた柚希。その稀有なスター性は常に舞台のセンターを担うに相応しい輝きを放ち続けてきたが、一方で柚希本人には聴く者の「心に響く歌を歌ってみたい」という想いが常にあったそうだ。

「REON et Chanson(レオン・エ・シャンソン)」は、そのひとつの出会いとして柚希がこの1月15日にリリースした、「Les Nouvelles Chansons」(新しきシャンソン)と題されたシャンソンのみで構成されたアルバムに収録された楽曲を中心に、気鋭の演出家・小林香の構成、演出によるノンストップ約90分のSTAGEが展開されていく。

舞台上手、下手に位置した19人編成によるオーケストラの演奏で幕が上がると、石造りの建物の壁を想起させるような照明効果と、中央にある高い階段のセットの前に深紅のドレス姿の柚希が浮かび上がり「私の心はヴァイオリン」を静かに歌いはじめる。僅かにハスキーでありつつ力強さもある柚希の声質が、新たなシャンソンの魅力を感じさせるオープニングだ。

ここから舞台は、柚希の大先輩に当たる、宝塚歌劇団が生んだ不世出の大歌手・越路吹雪の人生をゲストの俳優・市毛良枝が語り、場面、場面にあったシャンソンを柚希が歌っていく形で綴られていく。トップスターに上り詰めた宝塚時代から、退団後にミュージカルの舞台で主演をしつつ、本物の歌が唄いたいとシャンソンに傾倒していく越路と、彼女を生涯に渡りマネージャーとして、また訳詞・作詞家として支え続けた岩谷時子の盟友関係が、歌う柚希と語る市毛によって表現される構成の流れは滑らかだ。ただ、だからと言って決して舞台は音楽劇にはならない。それこそ場面、場面で華やかに着替え続けることも、越路吹雪としての台詞を発することも、しようと思えば造作もないはずのステージングのなかで、柚希は深紅のドレスのまま、無言で市毛の語りにうなづき、表情で応えるのみで、「枯葉」「ラストダンスは私に」「サン・トワ・マミー」等々、越路が得意としたレパートリーを歌い継いでいく。そのあくまでもこの舞台はシャンソンのリサイタルだとの、抑制の効いた小林の構成が潔いし、それでいて柚希の持つ芝居心が、迷い悩みながら自分の歌、自分のシャンソンを見出していく越路の人生に添って、歌い方もどんどん深く、豊かになっていく様が絶妙だ。

特に、柚希の根っこにある陽性なもの、あくまでも前向きなパッションとエネルギーが、悲恋や、人生の哀歓を描いた楽曲であっても、「でももう一日生きてみよう」「いつか必ず夜は明ける」に通じる希望を、どこかで必ず内包していることが、全く新しい、柚希礼音が歌うならではのシャンソンとして、温かく心を満たしてくれるのに驚かされた。それはまさに柚希の人生が投影されている歌、「心に響く歌」に他ならなかった。

その感触は「愛の讃歌」で高らかに締めくくられた越路吹雪の人生を追ったパートから、男役時代を回顧するのではなく、いまの柚希が柔らかに着こなすタキシード姿で、市場俊生、 牧田リュウ平、鑓水海人、渡辺謙典の粒ぞろいなダンサーと共に歌い踊る、あたかもフィナーレナンバーのような後半で更に鮮明になった。「そして今は」「I Love Paris」の小粋な歌とダンスは、柚希が卓越したダンス力をも歌の表現のひとつに昇華していることが如実に表れるもので、観客側のボルテージもどんどんあがっていく。一方「愛の幕切れ」の切々とした歌で語る表現は、柚希がシャンソンに対して真摯に全身全霊で取り組んでいることが伝わってくる一篇のドラマのようで、両者のコントラストが素晴らしい。何より胸打たれたのは純白のドレスで歌ったクライマックスの「水に流して」で、エディット・ピアフの決して後悔はせず新たな人生に踏み出すのだ、という絶唱があまりにも知られている楽曲に、この先の人生への希望、明日にはきっと必ずまた良いことがあると信じさせてくれる、前途洋々たる未来の情景を乗せたことだった。こんなにも勇気をもらえる「水に流して」をはじめて聞いたと思える、これはこの一夜のリサイタル、柚希のシャンソンの白眉だった。

思えば、宝塚歌劇団で男役を長く務めたスターたちは、退団後、女声の音域としては限界に近い低音域の強化をし続けた男役時代と、男性と共に臨む舞台で求められる音域が全く異なることによる困難に直面することがとても多い。柚希にとってもその困難は容易なものではなく、試行錯誤の日々が長くあったそうだ。それでも歌うことに向き合い続けた柚希が、こうして新たな魅力、新たなシャンソンの世界に開眼している様は眩しいばかりで、終幕裸足のダンスで魅せた「愛の讃歌」、踊りによるシャンソンという斬新な表現と共に、リサイタルの幕は下りた。駆け抜けた90分とは思えない、色濃い時間だった。

鳴りやまぬアンコールの声に応えて、再び登場した柚希は、ミュージックビデオと共に先行配信されている「ろくでなし」を、軽やかにウイットたっぷりの歌声で披露。聴かせて、見せて、魅せる柚希ワールドの真骨頂に、劇場中を揺らすような手拍子がいつまでも続いた。

このリサイタルの、そしてアルバムリリースの準備を続ける間に「自分の中から湧き出てくる歌の心の旅をしたいと強く思うようになりました」とリーフレットの挨拶で語った柚希礼音。その心の旅を是非続けて欲しいし、その旅路をまたこんなリサイタルを開催して届けて欲しい。そう感じられる、純粋に笑顔になれる明日への希望に満ちたリサイタルだった。

取材・文:橘涼香

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